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各課から代表が集まって、新作の試飲をする大切な会議。

担当課で新人の僕は浅井さんに頼まれた通りスクリーンとプロジェクタの設置、動作の確認。早く来て一人で準備していたため書類や参考資料も全て並べ終えていた。

それより何より今日はこの会議室に大好きな風間さんが来る。そのことで胸はいっぱい。朝、久しぶりにすれ違った時に嗅いだ香水の匂いは綺麗な彼によくあった甘酸っぱい匂いだったななんて。



「かざま・・・さん、」



今、冷静に考えてみればそんな失態、人として絶対に許されないって思う。

ここが社内でこれから会議が行われることも全てわかっていたけど、身体は言うことを聞いてくれなかった。さらにこれからココに彼がくるなんて、思うと変な背徳感がこみ上げて来てたまらなくなる。

彼は僕の事を知らないかもしれない。だけど僕は覚えてる。夢の中の優しい風間さんは低く穏やかなトーンで僕の名前を呼んでくれる。

彼になら何をされても。分かってる、男どうしあり得ないって。でもずっと僕の中で風間さんは完璧な人。優しい笑顔と綺麗な銀髪、朱い瞳…ドキドキは止まらず、悪いと自覚しながら僕は写真の風間さんに唇を押し当てていた。

そう…きっとこの日々は、彼に想いを伝えない限りずっと続

――ピピッ!!


刹那、電子音が辺りを散らし、身体は一気に凍りついた。

金縛りにあったように身体が全く動いてくれない。

どうしよう…
どうしよう…
どうしよう…!!!

誰?
クビ?
きたない?
全部、終わり…?


感じたことの無い愚劣な自分。込み上げる感情にただ僕は存在するだけの物になっていた。



『・・・私がどうしたって?』



振り返ると僕の大好きな風間さんが冷笑を浮かべ汚れた物(ボク)を見つめていた。

にこやかに僕の手にあるもの確認した風間さんは僕からの言葉を温和しく待っている様子だった。



「か、風間さん、

「なるほど…こんなところで君は・・・」



ぽつりと話す艶やかな声、僕の大好きな朱ががらりと雲る。

それを見てしまった僕は全てを、すべてを戻したくて必死に頭を下げて謝った。



「ごめんなさいっ!風間さん、この事は誰にも言わないでもらえませんか?」



とても苦しい言い逃れ。

こんな不甲斐の無い僕を映さないで欲しいと灰色のカーペットに頭を落とし、ひたすら風間さんに謝り続けた。



「ははっ…このデータ、高く売れそう。」

「お願いします、風間さん。そのデータ、その写真を消して下さいッ!」



静かな会議室に憐れな僕の悲痛な声…

一瞬、険しい顔をした風間さんはまた笑顔に戻って僕の顔を覗き込むように囁いた。






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あきゅろす。
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