◇
「1週間、1週間でいいんですっ!浅井さんっ!」
「お前な…」
「お願いします!」
「・・・。」
途方に暮れ、ため息を吐いた浅井さんは僕から目を背け眉間にシワを寄せ悩んでいる様子だった。玄関で裸足の浅井さんは早く戻りたいのか、踵を浮かせ背伸びした状態で僕からのハグを受けている。
しかし、その仕種とは裏腹に浅井さんの下肢が何故かすごく熱くて僕はどうしようとたじろいでいた。
「お前は俺が嫌いだろう。だからこんなことして俺を動揺させたいのか。」
「違いますッ!」
「何が違う。そもそもお前は俺のッ!!」
その先の浅井さんの言葉を遮るよう、僕は唇を唇へ強引に押し付ける。
それはたった何秒かの出来事なのに、理解してくれたのか浅井さんは僕の開かれない唇に舌を強引に差し込んで来た。
そのぬめった舌と舌が重なっただけで酷い吐き気がする。
何故なら大嫌いな浅井さんの舌が僕の口に汚い音を立てながら入ってきているからだ。
嫌だ、嫌だ!嫌だ!
こんなことで気持ち悪いと想っていたらさらに先のことなんて出来るわけない。
「はッ、も…もういいだろう。今日は遅いし、早く帰りなさい。」
「・・・。」
身体も唇もトンッと突き放された途端、思い出したのはアノ人の声。
僕は洗脳されたよう。
今はアノ人の言う通り、全ては僕とアノ人のためにと強い意志を持って無理矢理寝室に押し入った。
「おいっ!桜庭、聞こえなかったか?俺は今すぐ帰れと、
「今から脱ぎますから、ちょっと待っていて下さいね。」
「桜庭ッ!」
浅井さんの低い怒鳴り声は部屋中に響いて空気を見事に濁らせた。自分がただの男に、しかも死ぬほど嫌いな上司にそんな気が無いのは分かっている。キスも本当、本当に気持ち悪かったし、男同士のセックスのやり方なんて分からない。焦りと、ただ、この罪がこうして消えるのであればという思いでしかない。
浅井さんはゲイだとアノ人は言っていた。だから事を早く進めてくれるに違いない。
そう思いながら僕は急いでネクタイを外し、シャツを脱ぎ捨てた。
「さくらばっ…」
「・・・。」
「くっ、」
歯を食い縛りながらその様子を呆然と眺める弱い姿を見て先程の威勢はなんだったのか、身体の隅々を眺める蒼に僕はゾクゾクした。
だけど大丈夫、この一週間を過ごせたら僕は大好きなアノ人に認めてもらえるんだ。
その後のことを考えたらこんな"些細な"事は気にせずにいられる。
「…お前、正気か?」
すると突然。
僕がベルトに手をかけた途端、顔色を変えた浅井さんが前進して目の前にやってきた。
本当は今すぐ逃げ出したくて、声をあげて泣きたくて。
でも、自分がやったことの責任はちゃんと負わなきゃいけないから。何も恐れることはないと、拳を強く握り締める。
さらに、涙が溢れて止まらない。
「浅井さんの…浅井さんの好きにしてくださいっ、」
「・・・。」
「お願いしま、
「絶対に後悔するなよ。」
僕の腕を強く握りしめ男らしい声でささやく低い音。チッと舌打ちをして1つリズムを置いた浅井さんが僕を力強くギュッと、抱きしめた。
そして顔を包み込むように持ち、彼の欲望が透明な雫になってとめどなく溢れる熱い口づけをされる。
好き放題、おもちゃみたいされ放題に。
荒い息遣いのまま理由も聞かず、僕の身体に触れて来る黒い大きな手。その様子をただ黙って見ているしかない僕はふかふかの布団に組み敷かれて白い空だけを刺すように眺めていた。
首にもキスされたり、頭を撫でられたり、なかなか先には進まず愛撫がやたら長いが、きっと全く抵抗しないから使い勝手の良いカラダだと思われているのだろう。
「これで終わりだ。」
「え?」
「もう今日は寝ろ。泊まっても構わないから。」
「…あ、浅井さん?」
スタスタと足早に寝室を去った浅井さんとは交わること無く、部屋に1人。彼はシャワーを浴びに行ったのか水音だけ響く謎の空間。
覚悟を持って行ったが、浅井さんのよくわからない行動に安心と緊張から身体のチカラが全て抜け、僕は意識を無くした。
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