なかよしこよし ●夢の通い路 ♀ 「おはようございます、政宗様」 「おう…小十郎…」 政宗は夜明け前に目が覚めた。だれも起きていないだろうと思いながら、水を汲みに来た井戸に向かうと、先客があった。小十郎だ。 「ずいぶんお早いようですが、本日はなにかご予定でも?」 「何もねえよ。目が覚めちまって」 野良仕事に熱心なのは結構だが、相変わらずいつ寝ているのかわからないやつだと思いながら、話を続ける。 「暑さで眠れませんでしたか?」 「なんだか夢見が悪くてな、変な汗かいてやがる」 「でしたら、湯を沸かしましょうか?」 「いや、いい。水でも浴びればすっきりするさ」 「準備いたしましょう」 小十郎はざばっと桶に水を汲むと、近くの部屋に運んだ。手ぬぐいやらなにやら用意すると、政宗を招いた。 「さ、政宗様、どうぞ」 「外でよかったのに」 「こちらへ」 「別に誰も見てねえよ」 「そういう問題ではありません」 襖を閉めると暗くなりすぎる。小十郎は襖のかわりについたてを立てた。 夜が明けたばかりの光がほんのりと射す室内。 小十郎は手ぬぐいを絞り、政宗の背中をゆるゆると拭く。 「政宗様、夢見が悪いとおっしゃっていましたが?」 「ああ、ガキんときのおれが、小十郎に怒られてるって夢が毎日毎日…」 「はい?」 「尻をばしばし叩かれて、ごめんなさいってずっと叫んでんの。ひでえ夢だよ毎晩」 思い出しながら、政宗は苦い顔で夢の話をする。 「それはそれは…小十郎になにか後ろめたいことでもおありなのでは?」 「ね、ねーよ!何もねえ!」 焦り気味の政宗に、フン、と鼻で笑いながらとげとげしく言うと、小十郎はまた説教を始めた。 「だいたい、うら若いおなごともあろうものが、外で行水などもってのほか!」 「だーから、誰も…」 「そういう問題ではないと!貞操観念の話をしているのです!いらんものに刺激を与えたりすることもあるという危機感を…」 小十郎のぐだぐだと長い話が始まった。 夢の中で説教、起きてても説教…さすがに気が滅入りそうだ。 繰り返し、繰り返し、同じ夢。 夢…なのに 「聞いておられますか?」 「なあ、小十郎。 すみのえの って知ってるか」 「歌ですか?」 「出てこねーんだ…その歌みてえにさあ」 「は?」 「…」 もはや政宗には、小十郎の話は聞こえていない。 「なんでかなあ…」 「誰のことでしょう?」 「え…」 「まあいいです。もう済みましたので、よろしいですよ」 「あ、ああ」 政宗が身支度を整えると、小十郎はちょうど片付けを済ませたところであった。 「小十郎はほかの仕事がありますので、失礼いたします」 「おう、ありがとな、小十郎」 「政宗様、明日は願う夢が見られるとよいですな」 「!…そうだな」 小十郎の意外な言葉に少し驚きながらも、政宗は返答する。ニコニコと微笑みながら、小十郎は踵を返していった。 ― 「ちっ…あのやろう…」 歩きながら、小十郎はドスのきいた独り言をつぶやいた。 「政宗様を寂しがらせやがって…いてもいなくても、全くふてえやろうだ」 今度顔を合わせたら、また嫌がらせする口実ができたもんだと、ひとり意気込む小十郎であった。 すみの江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ ―終― 20090810 ※訳 住之江の岸辺に寄せる波のように、あなたに寄り添いたいと恋い焦がれております。 なのに、昼間ばかりか、夜に見る夢の中での恋の通り道さえも、どうしてそんなに人目をはばかろうとするのですか。 つまり、人目をはばかるあまり、夢のなかですら会いに来てくれないのですか? といったかんじ。 設定としては、秘密の恋人。小十郎にばれてることを二人は知らない← 筆頭のお誕生日記念に考えたわけですが、元親の名前が出てこないチカダテ…斬新かも! 小十郎は筆頭に親心。恋は0%です。わかりにくいけど最重要。 お付き合いありがとうございました! 香月 ←[*][#] → [戻る] |