第二の人生
8
大雑把な脚本を事も無げに放つ主君の姿は、普段の理知的な姿と合致しない。
浮かび掛けた疑心の心を忠誠でねじ伏せ、騎士は言葉を重ねる。
「お言葉ですが、陛下、衝突は避けられません」
そして、応。
「我に仕える身ならば食い止めろ、命を賭せ」
無慈悲に響く硬質な音は、壁に反響して騎士の胸に刺さり、それでも主の狂気の瞳が否とは言わせない。
凍りついた背筋に汗が浮くのを感じながら、騎士は頷いた。
己の目で見た訳では無い、しかし口承/文献様々な形で伝えられてきた過去の魔族との抗争は、こと人間の無力を記す物。
騎士の経験は、領地を侵すほぼ単体の魔物を相手にする程度で、多勢で侵攻されてしまえば戦況は読めなかった。
全身に緊張感を漂わせた騎士を見て王は、
「気負うな、進退極まれば言えば良い。“卵"は我らが手中、迂闊な侵略は果たして双方に益有るものか、とな」
その言葉が聞こえたのか、視界の片隅で黒い塊が動きを止めた。
ちらと見やると、双眸が驚愕に開かれている。
無理も無い、と騎士は思う。
自身とて同感、目の前の主は、この“魔王の伴侶"を人質に魔族を脅迫しろと言っているのだ。
だがこれも、全てが突然と言う訳では無かった。
日毎に盲目的になっていく幼い国王を間近に見て、ここまでの計画を知りながら止める事が出来なかったのは、彼に対する不確かな畏れ、それを上回る奉仕の欲求が、口出しを拒んだ。
盲目なのは己とて、
そう心中で腹を決めた騎士は今度こそ揺るぎない瞳で言った。
「全て、陛下の御心のままに」
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