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第二の人生


9

ソルトさんは相変わらずニヤニヤしていて読み難いが、少なくとも虫の居所は良好らしい。
この場のノリを逃す手は無いと、おれの舌はかつてなく滑らかに動いた。

「やっとしゃべれた事だしさ、やっぱ寝る時もゼノと一緒が」

いーなあ

「駄目だ」
「あ、阿呆が…っ!!!」

おれの渾身の提案に、男とゼノが同時に声を上げる。
二人して拒絶の方向ときたもんだ。


「えー………なんで…?」

即答されて勢いもクソも無くなった。
しょぼくれた顔で呟くと、外交官が吹き出すバックミュージック。
勘に障るソルトさんを無視して男を見る。
男はおれを見返して、たっぷり十秒は無言だった。


「……………ゼノは、風邪だ」
「は?!」

やっと返ってきた男の言葉に驚いてゼノを見る。
ゼノは口をパカッと開けて、魔王さまを見つめていた。
鳩が豆鉄砲食らった、もとい豆鉄砲食らった犬の顔だ。


「ゼノ、風邪ひいてんの?」
「あ?いや、」
「風邪だ……そうだろう、ゼノ」

男がゼノを見据えた。
ゼノがひゅっと息を呑む。


「っ!!………そ、そうだ、不調だ!げほっごほ!陛下に移す訳にはいかぬ、ハクション!」
「はくしょんって…」


なんて棒読みなんだ…。

わざとらしい咳とくしゃみに疑問が残る。
いやむしろ確信に近いが、必死なゼノを見るとワガママを通すのも悪い気がしてきた。
泳ぎがちな視線をやんわりゼノから外し、一言。

「そっか、その……お大事に……」
「あ、ああ……」


垂直に俯いたゼノの耳がぱたんと下がる。
しゃべるなって言われた時もこんな風だったんだろう。
なんだか凄く、

「フハハハハハ!!哀れな犬っころだ!!ハーッハハハハハ!!!」

とうとう抑えの利かなくなった外交官が高笑いと共に吐き出した言葉には、少なからず同感だ。




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