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もしもの話
憩い。


長くて短い冒険。


僅かなれど穏やかな安息の時。










ヒュゥゥ……


チャプ、チャプン





少年―遊戯と共に城の探索を再開した。


影達による妨害は頻度を増したが、四六時中襲ってくるわけではない。


城の主に使役されているモノなのだろうが、おそらく一度に使役できる数には限りがあり、次に使役できるようになるまでには多少の時間なり準備が必要なのだろう。





今オレと遊戯は城の外堀、小さな池と古びた風車のある広場の様な所にいる。
海の上にあるこの城は断崖絶壁に囲まれていて、海に飛び込むなどいう手段を取れば確実に命を落とすだろう。


オレ一人ならばともかく、遊戯をそんな危険な目には合わせられない。


幸い、影達が襲撃してくる気配はない。
遊戯の体力を考えて、暫しの休憩を取ることにした。





池の淵に座り、素足を水にそっと浸ける。
冷たさに身を竦ませながら、それでももう一度水に足を浸ける。
今度は軽く足を動かして、水の感触を確かめる。
それが楽しくなってきたのか、次第に足をばたつかせて水飛沫を上げ始めた。


……こうしていると、遊戯は普通の少年と何ら変わらない。





城の主によって生み出されたという遊戯。
あの檻の中に閉じ込められていたせいか、目にする風景に見惚れることが多い。





……見惚れるあまりにオレから離れてとんでもない場所に行っていたりするのは、正直肝が冷えるが。





安全を確認するために、どうしても遊戯と離れなくてはならない時がある。
一度影達に連れ去られかけてからは、出来るだけ早く遊戯の元に戻るようにはしている。


元いた場所に戻って、遊戯の姿が消えていたときはかなり焦った。


影達に連れて行かれたのかとも思ったが、城の主が現れるでも声を飛ばしてくるでもない。


来た道を戻って探してみれば、滝に見惚れている遊戯の姿があった。


水道施設の一部なのだろうが流れ落ちる水の量は膨大で、城の中だということを忘れそうになる。





オレに気付いたのか、こちらを見てすまなそうな表情をして俯く遊戯。
勝手に離れた事を悪いとは思っているらしい。


「行くぞ。」


苦笑をもらしながら二、三度頭を撫でて手を差し出せば、怒っていないことが判ったのか嬉しそうな顔をしてオレの手を取った。





『……※※※?』


気がつけば、遊戯が不思議そうにオレの顔を覗きこんでいた。
地面に落ちる影の長さも少し変化していて、それなりに時が過ぎていた事を知らせていた。


(少しぼんやりしすぎたな……)


立ち上がろうとした時、オレに向けて差し出された小さな手。





(……ああ、そうか。)





これは、遊戯なりの意志表示。


オレと一緒に城の外に出るという意志。





「行くか。」





遊戯の手を取り、並んで歩き出す。


共に城を出るために。





∞∞∞∞





パシャ、バシャッ。


(……気持ちいーい。)


池の水に足を浸けて動かせば、飛沫が上がる。
その飛沫に陽の光が当たってキラキラする。


(同じ水なのに、全然違うや。)


ここに着く前に見た水は、大きな音をさせながらいっぱい下へと落ちていて、すごく迫力があったから。





あの人から与えられた知識で水がどんな物かは知ってたけど、自分で見て触るのはこれが初めてだった。


(でも、さっきは悪いことしちゃったな……)


大きな音をさせながら落ちる水がもう一度見たくて、蒼い瞳の人がボクから離れた時にこっそり戻って見に行った。
蒼い瞳の人を驚かせちゃうかなとも思ったけど、どうしても我慢できなかった。


もう一度見たそれは、やっぱりすごい迫力で。





時間が経つのも忘れて眺めていると、向こうから蒼い瞳の人が近付いて来るのがわかった。


(ど、どうしよう……)


勝手に離れたりして、怒ってる?それとも呆れてる?





もしも、このままここに置いていかれたら?


(そんなの嫌だ!)





……蒼い瞳の人の顔が、見られない。




わしゃわしゃ。


(……え?)


少し乱暴に髪を掻き混ぜられて、そして差し出された大きな手。





(怒って、ないの……?)


ゆっくり顔を上げて見た蒼い瞳の人の表情は、少し困ったような微笑みだった。


「※※※。」





ボクは、この人の手を取って良いんだ。


それが嬉しくて、少し強めに大きな手を握った。





(結構、時間経ったよね……)


太陽の位置も、影の長さも少し変わっている。


(あの人は……あ。)


城壁に寄りかかって座ってる。
ちょっと疲れてるみたい。
……でも、当然だよね。
影達と何度も戦っているんだし……


『……大丈夫?』


蒼い瞳の人に、そっと声をかける。
少しぼんやりしてたのか、ボクを見てちょっと驚いた顔をした。
時間が経ってたことにも今気が付いたみたい。


立ち上がろうとした蒼い瞳の人に、手を伸ばす。





手を差し出されるのを待つだけじゃダメ。


この人と一緒に行くと決めたのはボクだから、こんな時くらいはボクから手を伸ばさなきゃ。





「※※※」


ボクの手を取って立ち上がった、蒼い瞳の人。


その隣に並んで歩きだす。


二人で、この城を出るために。





∞∞∞∞





(……本気なんだね、遊戯。)


玉座に深く身を預け、集中を解いて息を吐く。
目を閉じて意識を集中すれば、あの子が何処にいるのか、何を考えているのかは直ぐに判る。


……あの男がどうしているかも。


(中々しぶといな……)


あの子が、遊戯がボクの生み出した存在と知って尚、共に行く事を選んだ男。


(次の影達はもう少し強くするか…………でも。)





……あの男にも、一理ある。





遊戯自身の事を考えれば、この城から、このボクから解放されて生きていく方が良いのだろう。
ボクだって、そう考えた事がないわけじゃない。





(だけど、外の世界には醜いモノが多過ぎる。)





ボクが生み出せた、たった一つの綺麗なモノ。


外の世界に触れる事で、遊戯が穢れてしまうのではないかと不安なのだ。





……もう二度と、遊戯みたいな綺麗なモノは作れないから。





(……下らない思索はここまでだ。)


再び意識を集中し、遊戯のいる場所を確かめる。
力を集約し、影達を送る準備を調える。


(今はまだ、自由にさせてあげるよ。)


だけど、本当にこの城を出ていこうとするのなら。


その時はきっちりとお仕置きをしなくちゃね。





(遊戯、キミはボクのモノなんだから。)





城の主と主に作られた少年、そして城を訪れた冒険者。


三人の思いは交錯し、事態は大きく動きだす。


END

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あきゅろす。
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