もしもの話 終わりと始まり。 長くて短い冒険。 二人の冒険は、終わりの時を迎える。 二人は再び門の前に立っていた。 今まで探索してきた場所に城から脱出する術は見つからなかった。 ならば門を開ける方法を模索すべきだろうと思い立ち、海馬は遊戯と共にここへと戻ってきたのだった。 「これは……」 固く閉じられた石の門。 巨大なそれは人の力で開ける術はなさそうに思える。 先程と違いがあるとすれば、扉全体か光を帯びて淡く輝いていることだった。 (もしや……あの仕掛けが原因か?) 城の中はほぼ全て探索したと思う。 中には奇妙な仕掛けもしてあり、時折海馬を悩ませた。 だがそんな時、遊戯が興味を示したものが仕掛けを解く切っ掛けになったりもした。 門を中心にして左右対称に伸びた城壁とその両端に建つ塔。 二つの塔に在った大きな反射鏡。 遊戯がやたら興味を持ったそれを動かしてみると、 何か強い力が働いたようだった。 収束した光が門の方めがけて飛んでいき、門柱の上部に左右一つずつ置かれていた地球儀のような球体にぶつかったのだ。 塔から出て光の向かう方を確認してみれば、その球体は光を帯びてゆっくりと回転していた。 (だからといって、この扉を開けることに繋がるとも思えんな……) 球体と扉の輝きはよく似ているが、繋がりがあるかどうかはわからない。 まずは扉そのものを調べようと歩を進めようとした時だった。 「……遊戯?」 光に引き寄せられる様に、遊戯が扉へと近付いていく。 扉の前に立ったその瞬間、光が急速に輝きを増した。 そして。 「遊戯!!」 扉から稲妻のような閃光が幾筋も発生し、それが遊戯を射抜くかのように降り注いだ。 「っ!……遊戯っ!!」 稲妻のような閃光が収まり、光から解放された遊戯が蹲る。 慌てて駆け寄り様子を確かめれば、かなり具合が悪そうだった。 顔色は白を通り越して青に近い。 呼吸も乱れ、立ち上がることさえ出来ないようだ。 「大丈夫か!?……?」 ……ズ、ズズ、ズズズズズ 何かを引き摺るような重く低い音。 音がするのは、門の方から。 「!?扉が……開いて……」 石の扉がゆっくりと、少しずつ開いていく。 呆然とその様を見ている海馬を余所に、扉は完全に開き切った。 海馬がこの城に来た時に渡った石の橋が、外へと繋がる唯一の道がそこに在った。 ∞∞∞∞ ボク達は門の前に戻ってきた。 あの人の気配がする場所がいくつかあって、何かあるのかなとじっと目を凝らしてみた。 そんなボクに気付いた蒼い瞳の人が、そこにあった仕掛けを見つけだし解いてくれた。 あの人に生み出されたボクだから判ったのかもしれない。 特にあの人の気配が濃かった大きな反射鏡。 あれこそが門を開くための重要な仕掛けだってこと。 目の前には、淡く光る石の扉。 わかるよ。 扉を開くための鍵は、ボク自身だ。 蒼い瞳の人よりも先に扉に近付く。 扉から数歩分手前で立ち止まる。 扉から、強い力が光となってボクめがけて降り注いでくる。 ……全身の力が、吸い取られてく、みたいだ。 足にも、力が入らない…… だけど……がんばらなきゃ…… 二人で一緒に、この城から出ていくんだから。 光が収まって、強い力からやっと解放された。 身体が怠くて立っていることさえ出来ない。 「※※※!?」 蒼い瞳の人の声からは、ボクを心配してくれているのがすごく伝わってきた。 ……音が、聞こえる。 音は門の方から聞こえてくる。 なんとか顔を上げると、扉が開いていくのが見えた。 さっきは少ししか見えなかったけど、そこには確かに外へと続く橋が架かっていた。 ∞∞∞∞ (扉が……開いたか……) 城の最奥、玉座の間にいても判る程の大きな力の動き。 遊戯も、相当の力を使った筈だ…… (今までのはまだ大目に見てあげられるけど……) 扉を開けたとあっては、そうもいかない。 (……お仕置きが必要かな。) ∞∞∞∞ 『……※※※※』 呟かれた言葉に遊戯の方を見れば、懸命に立ち上がろうとしている事に気が付いた。 その足元の頼りなさに、身体を抱え上げようとする腕を遊戯自身がやんわりと拒んだ。 顔色は悪くとも、その瞳には強い意思が宿っていた。 自分の足で、この城を出たい。 そう言っているような気がした。 遊戯が自分の足で立ち上がったのを確認し、しっかりと手を繋いで外に向かって歩きだす。 体力を消耗している遊戯に合わせて、ゆっくりと一歩ずつ進んでいく。 門を抜け、石の橋を渡る。 城の主が何か仕掛けてくるかもしれないと警戒していたが、そんな気配は感じられなかった。 橋の中程まで進み、僅かに緊張感の緩んだ時だった。 バシュゥッ!! 球体から発生した閃光が二人を射抜いた。 『※※!』 「くうっ!?」 衝撃は一瞬。 だが、身体中に奔った痛みに海馬は前のめりに倒れ、繋いでいた手は離れてしまった。 痛みに痺れる身体をなんとか動かし、遊戯の方を振り向く。 「くっ……遊戯っ!」 自分の少し後ろで俯せに倒れる遊戯。 今の遊戯にあの衝撃は、かなり辛いはずだ。 少しでも近付こうと腹這いの体勢で動き始めた時、グラリと視界が揺れた。 (……橋が!!) 石の橋が遊戯と海馬を引き離すように、中央から分かれ出した。 遊戯は城の方へ、海馬は外の方へと。 二人の間の空間が広がっていく。 海馬は痺れの残る身体を必死に動かして立ち上がった。 今ならまだ遊戯のいる方に飛び移れる。 精神力と体力を振り絞り、助走をつけて跳躍する。 「!ぐうっ!!」 僅かに目測を誤った。 着地し損ない、眼下に広がる海へと落下しそうになる身体を、腕を伸ばして橋の縁を掴むことでどうにかその場に留めた。 それでも片腕で全体量を支えるには限界がある。 もう片方の腕で橋の縁を掴もうとあがくが、揺れに阻まれ上手くいかない。 そんな時だった。 小さな白い手が、海馬の腕を掴んだ。 見上げれば、海馬の腕を懸命に引っ張る遊戯。 両手で掴まれればなんとかなると思い、遊戯の助けを借りてもう少しで縁を掴めるという時に遊戯の動きが止まった。 何事かとよく遊戯を見れば、その身体が影に覆われていくではないか。 そして気付いた。 遊戯のすぐ隣に、あの男―城の主―が現れていたことに。 『※※……※※※』 儚い微笑みと共に降ってきた言葉は何だったのか。 繋がっていた手は離され、限界を迎えた腕では身体を支えきれず。 海へと落下していくのを何処か他人事のように感じながら、海馬はそんな事を考えていた。 ∞∞∞∞ 『……あともう少しだね。』 外の景色が見えた事で、もうちょっとがんばれる気になる。 ふらつく身体を無理矢理動かして立ち上がろうとした時、蒼い瞳の人の腕がボクを支えてくれた。 そのままボクを抱え上げようとするのを止めて、その瞳を見つめる。 ボクは、自分で歩いてこの城を出たい。 ボクの意思が通じたみたいで、蒼い瞳の人は抱え上げるのをやめて手を差し出してくれた。 その手を支えに立ち上がりゆっくりと歩きだす。 城の、外に向かって。 ボクに合わせてゆっくりと進んでくれる蒼い瞳の人。 一歩ずつ城から離れる分、一歩ずつ外へ近付いていく。 期待と不安が混じり合ったそわそわした感じが強くなってく。 バシュゥッ!! 『わあっ!』 「※※!?」 扉を開けた時よりも凄まじい衝撃がボク達を襲った。 意識が遠くなっていく。 痛みと怠さに耐えきれなくて、ボクは意識を手放した。 揺れを感じて気がついた。 頭だけをなんとか動かして周りを見てみれば、橋が動いていて、ボクを城へと戻そうとしていた。 (あの人は……!!) こっち側に来ようとして飛び上がるあの人の姿。 だけど、着地することは出来なくて。 「……※※!……※※…」 蒼い瞳の人の声がした。 あのまま海に落ちたのかと思ったけど、よく見ればあの人の手が橋の縁をしっかり掴んでいた。 必死に身体を動かして、橋の縁まで近付く。 (せめて、これくらいは……) 引き上げるのはボクの力では無理だけど、あの人の腕を取るくらいなら出来るはず。 橋の揺れが収まればなんとかなるかもしれない。 でも。 (……!?嘘、この感じ……!!) あの人の気配がした。 近付いてくるあの人。 そして、足先から少しずつ拡がってくる冷たい感覚。 ボクの身体が、影に覆われていく。 (このままじゃ、この人まで巻き込んじゃう……!) ボクはいい。 だけど、蒼い瞳の人には無事でいて欲しい。 ボクよりも、蒼い瞳の人が無事でいてくれる事の方がずっと大事に思えた。 ……下は海。 蒼い瞳の人にケガをさせてしまうかもだけど、巻き込んでしまうよりずっと良い。 『ごめんね……ありがとう。』 ケガをさせてしまうかもしれない事への謝罪と、ボクを城の外へ連れ出そうとしてくれた事への感謝を。 手を離し、蒼い瞳の人が海に落ちて行くのを確かめて。 そのすぐ後に、ボクの意識は闇に閉ざされた。 海へ落ち行く青年。 城の主の手に堕ちた少年。 二人の冒険は終わりを迎え、独りになった青年の闘いが始まる。 END [*前へ] |