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高銀(短編)
偽りの愛は囁けない(マネージャー高杉×俳優銀時)
 
河原の土手の上では、制服を着た銀髪の男と黒髪をポニーテールで結んだ女の子が向かい合っていた。


『千尋君…私…』

「わかってる。その先は俺に言わせてくれ」

『…え?』

「真由…俺もお前が……ずっと好きだった」


俯いた千尋は真剣見を帯びた瞳で向かいの真由にそう言い放った。
その途端ポロポロと涙を流し、千尋の方へ走り出した真由は抱きついた。


『嬉しい…千尋君…』

「俺も…嬉しいよ。ありがとう真由…」

しばらく抱き合ったまま2人は見つめ合い、そのまま唇を合わせた。







「はいカッッット!!!」


『お疲れ様坂田さん』

「おーお疲れ。志村さん」



〈偽りの愛は囁けない〉



「さすが人気俳優さんね。私も危うく好きになっちゃうとこだったわ、うふっ」

「ちょ、止めろよ。演技だろうが…お前みたいなゴリラ女に誰が……ごふっ!!!」


女優志村妙に鳩尾を殴られ、その場に倒れ込んだ。いや、マジあれは人を殺す新兵器だよ?ゴリラ女だよ??なんで人気女優なのこの人!?世間一般はどう見てるのよ!!


現在ラブストーリーの今春話題映画のラストを撮影中。ベタな展開がウリの映画だ。


「そこまでにして下さい志村さん。坂田も控え室で休んでいて下さいね」

「…高杉」

「あらやだわ!つい手が出てしまってごめんなさいねー。私は今日はこれで出番はないので帰ります。お疲れ様」


ゴリラ…志村さんはさっきとは違った営業スマイルで他のスタッフに挨拶しながら帰って行った。

俺は高杉の方をチラリと見れば、「何か?」とニコリとしながら言われた。


その瞬間鳥肌がぶわっ、と全身に回るのを感じてしまった。


高杉はイケメンだし、器用だし、申し分ない俺の完璧なマネージャーである。
しかし、それは表の高杉。


俺は急いで立ち上がり、控え室へと向かった。
その後ろをゆっくり高杉が付いて来てるのがわかると尚更鳥肌と冷や汗が出る。





―――――――――

「たたた高杉?きょ、今日のどうだった」

控え室では椅子に高杉、床で正座しているのが俺、という奇妙な姿だ。
それに高杉は椅子にふんぞり返って煙草なんざ吹かしている。


「…敬語」

「は、はい!!高杉様!今日の演技はどうでしたか!?結構頑張ったんですがどうでしたか!?」


必死にそう尋ねれば、高杉は俺の顎を掬ってニヤリと笑った。

「42点。クソアマ共は騙せても俺には見抜けんぜ?一瞬集中切らしたろ」

「うっ!…なんでわかったんだよお前」

「日頃テメェを見てりゃわかるこった」


確かに俺は告白の時、今日がジャンプの発売日だ…と一瞬違う方に考えが行ってしまった。

くそっ高杉には見破られたか。



高杉は俺のマネージャーであるが、一応恋人ではある。
なんか知らないけど、新人の時からマネージャーをしてくれていた高杉は演技を教えてくれ、業界のことも優しく教えてくれた。

とってもいい人に見えたんだ…本当に。


だが、
『マネージャーと俳優は一緒に住むんだぜ?』
と新人だった俺に高杉はホラを吹き、それから同棲&バッグバージンを奪われ、カッコよく高杉様に告白までされてしまい……あれよあれよと言う間に、はい。付き合ってます。



高杉は今日はかなり機嫌が悪いらしく、眉間の皺がいつもより濃い気が…


「ど、どうした高杉?」
「いや…ただな、」


そう言うと高杉は俺と目を合わせた。深緑の瞳がジッと見つめる様はドキドキと心臓がうるさい。



「俺がテメェの役やってやっからよく見てろ。ほら、テメェが真由役やれ」

机に置いてあった台本をいきなり俺に投げた。
高杉は俺の役の台詞を覚えているらしく、ニヤリッと笑った。


そういえば高杉はいつも遅くまで起きて、俺がやる役の台詞を毎回頭に入れてるって言ってたっけ…

でも何で俺がヒロイン役を今からやらなきゃいけねーの?家帰れば出来るだろ!!…とは口が裂けても言えず、ただ不安に高杉を見た。



「誰がテメェを今の地位まで行かせてやったと思ってやがる?あァ、銀時よォ?」

「はい!!あああ貴方様に決まってらっしゃるじゃないですか!あはは」

「じゃあやれ」


「………はい」


高杉には逆らえない。
ぶっちゃけラブストーリーなんて今までやったことが無かった。ほぼ舞台だったし、コメディーとか友達役とかが多かった。

高杉がこの映画の主役を取ってきた時はかなり驚いたが。


そんなことを考えている間に、高杉に腕を引かれ無理矢理立たされた。


「俺がテメェの役やるからよく見て身体で覚えろ。はいスタート」

「う……」




高杉はマジらしくスーツの上着を脱ぎ、深呼吸なんかしてやがる。

高杉は前に劇団に入ってたとかなんとか…ま、演技は俺より上手い。

高杉の演技、お手並み拝見とすっか。



俺もここが控え室ということを考え、小声で一言目を発した。



「千尋君…私」

「わかってる。その先は俺に言わせてくれ」


高杉の手が俺の頬に触れ、視線を高杉に合わせればフワリッと笑われた。

なんだコイツ!
こんな笑い方出来るのかよ!?

一瞬で自分の顔が真っ赤になったのがわかる。
なのに高杉は今度は俺の頬を両手で挟み、顔を近付けてきやがるから俺は逃げるように身を引いた。


「真由…いや、銀時ィずっと好きだった。いつもテメェしか目に入らない。お前を初めて見た時ァ、天女かと見間違える程…綺麗だった」

「なっ!?台詞違っ…」

「アドリブ無したァ一言も言ってない」

高杉は俺の腰を引いて、耳元で息を吹き込んだ。


「好きだ」

「っ//……は、離せ!!」


高杉は嫌がる俺を何のそのに、唇に自分のを押し付けた。

驚いた拍子に空いた口内へ舌を捩じ込んで歯列をなぞる。
何度も何度も舌を吸われ、麻痺してじんじんしてきた。


「ふっ…んぁ…たは、たはふひ…」


流し込まれた唾液も飲み込み、高杉は一旦離れるとニヤリッと笑った。




「はぁ、はぁ…た、高杉?…」


ねちっこいキスをする高杉は何か俺に言いたい時だ。

何ヶ月も一緒に住んでりゃ、わかるもんだ。こんな自己中心男でもな。

何か言いたいけど、口にしたくない時…が一番正しいかも。


「なんか…言いたいことあんのか?」

口を拭いながら高杉を見れば、ギュッと抱きしめられた。



「な、なんだよ!まだ続いてんのかよ!?千尋君?わかったから、君の気持ちはさ?!」

「…違うわボケ。なんかモヤモヤすんだ」







モヤモヤ?

モヤモヤ!?高杉にそんな感情があったのか…と思いながらも首を傾げた。


「モヤモヤ…って?」

「俺ァ、毎回ラブストーリーはオファーがあっても全部拒否してきた」

「わーお初耳。…だから俺ってコメディーやらモデルの仕事しかなかったのね」


ははは、と笑っても高杉はムスッとしたままで俺の鼻を噛んだ。

「痛っ!!」

「だが、今回は辰馬がどうしてもっつーから引き受けてやったんだがよ…」


辰馬は事務所の社長だ。
引き受けてやった、って…上から目線すぎじゃね?しかも仕事やるのは俺だから、ちょっとくらい相談があっても良かったんじゃ……


「相談なんかしたってテメェはどーせ『どっちでも』とか言うだろうが」

「う…図星だわ」


高杉は俺の唇を指でなぞりながら、静かに呟いた。


「テメェが他のヤツに好意を寄せる言葉を発するのが気に入らねェ…たとえそれが演技だとしても」

「高杉…」


あの高杉が女優に嫉妬している。
あり得ないあり得ない!!


「だから気分が良くねェ…」



肩越しに言う高杉に胸が苦しくなった。

そりゃ…初めはキスもセックスも全部無理矢理で、でも嫌じゃなくて…

それで高杉からマジ告白までしてくれて。


今は結構こんな高杉が好きだった自分がいる。


今はなんか…再確認させられたって感じ。




俺は高杉の頭をポンッと叩いて、ニカッと笑った。

「次のシーンは…静かに見ててくれよ高杉」

「?」

丁度良いくらいにスタッフが扉を叩いた。

「坂田さん、出番なので準備を」

「はーい、今行くよ」


腑に落ちない表情の高杉の手を取って、俺達は控え室から出ていった。









「はい、じゃあ本ラスシーン行くよ!!」


カチンコの音と共に演技は始まった。


本当のラストシーン…


千尋の友人に本当に真由が好きだ、と心から打ち明けるシーンだ。





『千尋…お前マジで真由を幸せに出来んだろうな!?』

「幸せに出来る。俺は…」


丁度友人役のヤツの後ろには高杉が腕組みながら見ていた。


友人を見ているフリして、俺は高杉をジッと見つめ……
そしてゆっくりと言った。



「大好きだよ。こらからもずっと…心から愛します」


不意に頬に流れたモノに自分でも驚いた。

涙だ。

心から語った愛の言葉に俺は自然に涙が流れたのだ。

高杉は目を見開いて驚いてから、綺麗に笑った。

笑顔ってあんなに綺麗なんだって知った。

そして高杉の口だけが動いた。
口の動きだけでわかる。

『ア・リ・ガ・ト・ウ』







――――――――――

「坂田…あれは演技か?」

映画が公開し、友人役をしていた土方十四郎と共に試写会へ行った。映画を見終わって、土方はそう聞いてきた。


俺は首を傾げたら土方はクスクス笑ってポップコーンを頬張る。


「本当に好きなヤツに言ったみたいだったぜ。演技には見えなかった」

「はぁ!?…変、だったか?」

「いや、スゲー感動した。坂田も一皮剥けたって感じだわ」

「そ、そっか…うん。ありがと」



あれは本気だった。

あのあと高杉は終始ニヤニヤしっぱなしで恥ずかしくて死にたくなった。



「またラブストーリーやるのか?」

「いーや、多分やらねーわ」



土方のポップコーンを横取りしていた携帯の着信が鳴った。


「あ。マネージャーだわ…ごめん土方!」

「気にすんな。とりあえず早く出てやれ」


土方に頭を下げ、俺は携帯の通話ボタンを押した。


「はい」

『今仕事が入ったんだが…その…』

「なんだよ?またモデルか?コマーシャルかー?…おーい高杉」

高杉が珍しくドモルので聞き返せば、高杉は小声で言った。


『またラブストーリーやりたいか?オファーが半端ない。映画の影響だろう…月9の主役の話も来てる。テメェは…やりたいか?』



今まで高杉が全て決めていた仕事内容なのに初めて俺に仕事について聞いてきた。

前に仕事について言ったのを高杉が気にしててくれたのか…



そう思ったら嬉しくて電話越しなのに笑顔になっちまった。


「せっかくだけど、そーゆー恋愛系は今はいいや。舞台は大歓迎」

『なんでだ?有名になるチャンスだし、…今回の映画の評判も良いんだぞ』


俺のことを思って高杉は言ってくれてるのは十分わかる……でもね、高杉…一呼吸置いてから俺は高杉に伝えた。



「俺には高杉がいるからさ。お前また嫉妬するだろー?今は高杉と一緒にいたい。ワガママなのはわかるけど……高杉以外を好きになれる心の余裕が今はないんだ」


だからごめん、って付け加えると高杉は静かに呟いた。


『俺はマネージャーだ。テメェを売るのが仕事だ……』

「嫉妬したくせに」


高杉は何も言わずに電話を切りやがった。


高杉も迷ってんだよな。
仕事に私情を挟みたくないって。アイツ無駄に仕事には真面目だからなぁー


自分から手出したくせに…

ま、それほど本気で俺が好きなんだよな。



迷って迷って最後には“売り者”じゃなくて“高杉のモノ”として見てくれよな。



「もう偽りの愛は囁けないよ…」



完、

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あきゅろす。
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