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遠恋(山本/甘?)





彼に会いたくなってしまった。


理由なんかないけど、会いたいと思ったらすぐに私は電車に乗り出した。


何駅も離れている町に着いて彼の家に走る。着いた時は日の暮れる頃だった。

困ったもんだ。もう彼の家は目の前で、ここをくぐればあの人に会えるのに…
今更、やっぱり帰ろうかって。


「…名前?」


「あ…た、けし」


「あれ?どうかしたのか?」


「会いに来ちゃった」


「ははっそっか」


部活帰りなのか風にのってやって来る汗のにおい。でも全然嫌な感じはしない。
夕焼けを背に爽やかに笑う私の恋人は本当にかっこいい。
その笑顔を見て確信した。
私、この笑顔を見に来たんだ。


あがってけよ、と言ってガラガラと音をたて開かれた戸。その中には彼、武の唯一無二のお父さん。


「お帰りぃ武!…お?名前ちゃんじゃねえか!」


「こんにちはおじさん…ご無沙汰してます」


「あんな遠くから来たのかい?何にもねえがゆっくりしてきな!よし、おじさんがとびっきりのネタを食わせてやる」


武と顔を合わせてクスッと私達は笑った。おじさんは私を本当の娘のように扱ってくれる。
そんなおじさんと、信頼できる武だから私達の遠恋はつづく。

私は私立の学校で何かと忙しく、また武も野球で忙しい。そのため一ヶ月に一回会うのと電話やメールだけで私達は関係を保っている。
不安、になったりする。
だって武はモテるだろうから。


でもこうして会いに来れば不安は消える。この場所はいつだって私を温かく迎えてくれるのだ。


「なあ」


おじさんが食材を取りに店の裏にいってる間私はカウンターに座って待っていて、二階に行ってた武は着替えておりてきた。


「不安になったのか?」


「…もう大丈夫!」


「そっか」


「武」


「ん?」


「私のこと、好きですか?」


隣に座った武は肘をついて私をじっと見つめる。一瞬真剣味を帯びたその表情はすぐに明るい笑顔に変わった。


「好きに決まってるのな」


武の顔がゆっくり近づいたから、それに合わせて私は目を閉じた。




ただ会いたくて

(くぅっ武!ちゃんと名前ちゃんを幸せにしてやれよ!)(お、親父いたのか)(おじさ…!)






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あきゅろす。
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