2 遠恋(山本/甘?) 彼に会いたくなってしまった。 理由なんかないけど、会いたいと思ったらすぐに私は電車に乗り出した。 何駅も離れている町に着いて彼の家に走る。着いた時は日の暮れる頃だった。 困ったもんだ。もう彼の家は目の前で、ここをくぐればあの人に会えるのに… 今更、やっぱり帰ろうかって。 「…名前?」 「あ…た、けし」 「あれ?どうかしたのか?」 「会いに来ちゃった」 「ははっそっか」 部活帰りなのか風にのってやって来る汗のにおい。でも全然嫌な感じはしない。 夕焼けを背に爽やかに笑う私の恋人は本当にかっこいい。 その笑顔を見て確信した。 私、この笑顔を見に来たんだ。 あがってけよ、と言ってガラガラと音をたて開かれた戸。その中には彼、武の唯一無二のお父さん。 「お帰りぃ武!…お?名前ちゃんじゃねえか!」 「こんにちはおじさん…ご無沙汰してます」 「あんな遠くから来たのかい?何にもねえがゆっくりしてきな!よし、おじさんがとびっきりのネタを食わせてやる」 武と顔を合わせてクスッと私達は笑った。おじさんは私を本当の娘のように扱ってくれる。 そんなおじさんと、信頼できる武だから私達の遠恋はつづく。 私は私立の学校で何かと忙しく、また武も野球で忙しい。そのため一ヶ月に一回会うのと電話やメールだけで私達は関係を保っている。 不安、になったりする。 だって武はモテるだろうから。 でもこうして会いに来れば不安は消える。この場所はいつだって私を温かく迎えてくれるのだ。 「なあ」 おじさんが食材を取りに店の裏にいってる間私はカウンターに座って待っていて、二階に行ってた武は着替えておりてきた。 「不安になったのか?」 「…もう大丈夫!」 「そっか」 「武」 「ん?」 「私のこと、好きですか?」 隣に座った武は肘をついて私をじっと見つめる。一瞬真剣味を帯びたその表情はすぐに明るい笑顔に変わった。 「好きに決まってるのな」 武の顔がゆっくり近づいたから、それに合わせて私は目を閉じた。 ただ会いたくて (くぅっ武!ちゃんと名前ちゃんを幸せにしてやれよ!)(お、親父いたのか)(おじさ…!) [*前へ][次へ#] |