高杉の場合
第一印象は
“気に食わない奴”だった――。
先生が連れてきたそいつは緑の髪をしていた。
この前は銀髪だった。
そいつら二人はとにかくいけ好かない奴らだった。
李野とか言う奴は授業に出ねェ癖に、ヅラよりも頭がいいらしい。
そして極めつけは、
「一本!」
「っくそ!」
「…すげェ…!!あの高杉に勝った…」
おれは武芸とか周りにいる奴らより、強いはずだった。
息を整えそいつを睨めば、奴は先生に頭を撫でて貰っていた。それだけで虫ずが走る。
「凄いですね、李野」
「………これは喜ばしい事なのか?」
「そうですね、君にとってはそうなのでしょうが……晋助にとっては違うでしょうね。ほら、見てごらん。とても悔しそうな顔をしている」
……こそこそしてても丸聞こえだ。
先生はクスクスと笑っていたが、そいつはいつも通りの無表情。
ほんと気に食わねェ。
おれはそいつが一人の時(と言ってもいつも一人だが)、そいつの所に行った。
そいつは草場に寝転がっていて、おれを横目で見遣った後また目線を空に移した。
「…立て」
「………」
「聞こえねェのか!?立てっつってんだろ!!」
「………」
怒鳴ったせいで息が荒い。
そいつはやっと起き上がり、着物についた草を払った。
「お前……気に食わねェ…」
「………」
「おれと勝負しろ!」
「………」
「っ!!」
すました様な顔が余計に癇に障って、思わずそいつを殴ってた。
あっ、と思ったけどいきり立った感情は収まらない。
そいつは倒れ込み、殴られた頬を押さえる。
「ハァ…ハァ……どうした…やり返せよ!!」
「………」
口を切った様で垂れた血を拭うと、そいつは立ち上がりおれに背を向けた。
「どこ行くんだよ!!」
そいつは顔だけ振り向くと、
「………お主は拙者が嫌いなんだろう?」
「は?」
「………嫌いなら拙者は側にいない方がいい。…家が…そうだったから…」
呆然と佇むおれを余所にそいつは消えていった。
翌日。
そいつが先生と二人で話しているのが見えた。おれはこっそり聞き耳をたてた。
「――李野。正直に話して下さい。その頬はどうしました?」
おれが殴ったやつだ。
腫れていたのを先生が見つけたんだろう。
どうせチクるに決まってる。
「………熊にやられた」
「またそれですか……熊にやられてそれで済むはずがないでしょう」
「………多分、手加減したんだと思う」
「………」
先生はやれやれと言った感じでため息をついた。
つーかおれは熊か。
「………別にたいしたことない」
そう言ってそいつは、離れて行った。
「………晋助」
ギクッ。
「何があったか知りませんが、女子の顔を殴ってはいけませんよ」
「だってあいつが……って女!!?」
「言ってませんでした?」
言ってねェよ!
先生にはお見通しだったけど、そいつはおれがやったって最後まで言わなかった。
気に食わねェ。
あいつの全部が気に食わねェ。
そいつの第一印象は、
とにかく
“気に食わねェ”
だった――。
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