ヅラの場合
第一印象は
“口を閉じなさい”だった――。
先生がまた子供を拾ってきた。
最初は、身なりも良かったのでどこかのいい家からこの塾に預けられたのかと思ったが、違うらしい。
気になって先生に聞いてみると、行き倒れていた所を拾ってきたそうだ。
何と間抜けな…。
しかもそいつは授業に出やしない。前連れてきた奴も寝てばかりだ。先生は不良しか連れてこんではないか。
「…まったく…」
「………」
「ん?」
振り向くとそいつがいた。珍しく教室にいて、だがもう今日の授業は終わった訳であって意味がなく、おれはわからなかった問題を解いていました。あれ、作文?
「何か用か?」
「………それはヅラなのか」
「そんな訳ないだろう。ていうかそれ肯定してるよね?」
「………そうか」
「イデデっ!髪を引っ張るな!!」
何てやつだ。殆ど初対面で髪を引っ張るなんて。
「………頭がぎらぎらしてたやつが言っていたんだ」
「ぎらぎら?もしや銀時か…」
あの不良め…!
「いいか、おれは桂小太郎と言って決してヅラではない」
「………水野…李野」
と、返してきた。やはり家柄はいいらしい。多分。
「ところで貴様は何故授業に出ぬのだ?」
「………じゃあ何故お主は出る」
「え?…、それは立派な大人になる為だ。先生の教えは素晴らしいからな」
「………でも、家ではここと全く別の事を言っていた」
そいつはおれの目をじっと見つめながら言う。その目は恐ろしい程、何も写ってない。
「………それと、ここ間違ってるよ」
と指された所を見てみると、おれ自身あやふやで書いた所だった。
「…わかるのか?」
「………うん、ここはこうしてこうすればいい」
「なるほど……でもどうして?」
「………もうここでやってるのは一通りやってる」
そう呟いてそいつはもう用は済んだとばかりに、縁側に向かい座った。
おれは教本などを片付け、何となくそいつの隣に座った。
そいつはぼーっと夕暮れを見ていた。口が半開きだったので、顎を押し上げた。
「口が開いてるぞ。みっともない」
「………」
そいつは横目でおれを見ると、目線を戻しまた懲りずに口を半開きにした。だからおれはまたそれを閉じさせる。
先生が来るまで暫くそれが続いた。
「ほら、また口開けて!みっともないって言ってるでしょ!?」
「………お母さん?」
「お母さんじゃないヅラだ。…あっ間違えた、桂だ」
そいつの第一印象は、
とりあえず
口閉じなさいって言ってるじゃないっ!!
――だった。
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