銀時の場合
第一印象は人形だった――。
眠ィ先生の話が終わって外に出た。つか、みんなで。今日はいい天気だからとか何かで午前で授業は終了。みんなは先生引っ張ってぞろぞろと走り出す。
けっ、集団行動とかガキくせェ。
とか思って一人みんなと離れたとこに移動。そしたら何か踏んだ。そりゃもう、あれやばくね?みたいな感触がした。
「………ひは」
「っぶ!!どわああああ!!?」
ビビっ…いやちょっと驚いて足元を見ると、何かまりもがいた。おれはどうやらまりもの顔面を踏み潰していた様だ。慌てて後ずさる。
そいつは上半身を起こし、顔面を掌で摩った後、おれを見遣りまたドサッと草村に倒れ込んだ。そいつは無表情のままだ。
そいつには見覚えがあった。
最近、おれの後に先生が連れてきたやつだった。
“見覚えがある”というのは、そいつは授業に顔出さないし、全く喋んねェ。だから“見覚え”程度の感覚だった。
だから、そん時はちょっとした好奇心でそいつの隣に座った。そいつはおれなんかいないみたいな感じだ。
それが少し癇に障って初めて喋りかけた。
「なァ、何で授業出ねーの?」
「………」
返事がない、ただの屍の様だ。…え?
起きてんのかと思いそいつを見ると口を半開きにしてぼーっとしていた。つーかこれ以外の表情見た事ねェ。
「…聞いてんのか?」
「………逆に聞くけど、何故お主は授業に出る」
うおっ喋った。てか普通に話せんじゃん。
「おれ?おれは……」
質問を質問で返され釈然としないが、考える。
おれ寝てばっかだもんなァ…。そう言われると答えに困んだよなァ…。
でも折角のファーストコンタクトだし、珍しく真剣に考える。
「…わかんねェけど……先生が…好きだから、かな…」
「………」
って何言ってんのォォ!?おれ!!
「だァー!!そういう事はヅラとかに聞けよなっ!」
「………ヅラ?」
「ほらっ、いんだろ?ヅラみたいな頭したやつ」
「………あー」
今のでわかったのかよこいつ。てか喋って思ったけど、こいつ自分が話す前絶対ェ“…”が三つ付くな。
少し沈黙が続いてそいつをちらっと見ると、そいつも横目でおれを見てた。
目が合って、おれが逸らす。けどまだ視線を感じてまた見ると、まだそいつはおれを見てた。詳しく言うとおれの頭。
「な、何だよ…」
「………てんとう虫ついてる…」
え、と頭を探ると確かにてんとう虫がいた。掌のてんとう虫を見つめているとやがて指先に到達し、飛んでった。
おれはそれをぼーっと見ていると、隣で………春か…と呟く声。見るとそいつは大きめの額を見ていた。
どっから出した、おい。
「何だそれ」
「………遺影」
「………誰の」
うつった!!
「………去年の春死んだ弟の」
「…ふーん」
おれにはこれしか言えなくて、そのあとはずっと先生が呼ぶまでそのままだった。
その弟の遺影を見る横顔は特に悲しそうじゃなく、かと言って怒っているでもなく。
とにかくそいつはずっと無表情だった。
こいつの第一印象は、
無表情で
無感情で
それに、
ガキのくせに綺麗な顔してやがったから
――人形みてェなやつ。
だった――。
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