程よくシリアスっぽくね?
「………」
付かれてるな。と李野は目線だけでちらりと後ろを伺う。確か先程ぶつかった男だ。
まさかぶつかったからって金品を強要する気だろうか。
撒こう。と思ったが、狙いを聞く為わざと人気が無い路地裏に誘い込む。
そしてピタッと立ち止まり、振り返らず男に言う。
「…何か用か?」
「………」
「ぶつかったのは悪かったが、それは謝っただろう。言っておくが金はやらんぞ」
「………」
「………」
李野は男に気付かれない様に、腰の得物に手を添えた。相変わらず男は黙ったままだ。
「………何とか言ったらどうだ」
「……てめェ、名は何だ」
「…主なんぞに名乗る名はない」
「…ククッ。当ててやろうか?」
「…は?…何を言って…!?」
李野が気付いた時にはすでに男が真後ろに来ていた。
冷や汗がタラリと垂れる。
「……まさか生きていたとはなァ。……なァ…李野」
「!!?」
李野はサッと男と間合いを取り、男と向かい合った。
「……何者だ…」
「おいおい…忘れたのか?」
男はそう言い、ゆっくりと網笠を外しニヤリと笑った。
「久しぶりだなァ」
「…何だ晋助か………って晋助ェェェェ!!?」
李野は安堵した風に息を吐いた後、叫んだ。
「……!!」
「…何だその幽霊に会った様な顔は。俺がその気分だ」
高杉はククッと喉で笑い、李野に一歩一歩近付いて来る。李野は戸惑いを隠せない。
「………」
「……久しぶりに会ったってェのに嬉しくねェのか。俺は嬉しいぜ?」
「…あ、ああ。久しぶり…だな、晋助…」
「…それにしても、」
「!」
「随分女らしくなったんじゃねェか?」
高杉は李野の片頬を優しく包み摩る様に動かす。李野は引き攣った微笑みを見せ、それから逃れる様に一歩後ずさる。
「そ、そうか。晋助にはそう見えるか」
「ああ。…ククッ。てめェが生きてたァ驚いた。こんなに面白い事はあるめェ」
高杉のその様子をただ訝し気に見る李野。その視線に気付いた高杉が李野を見ると、パッと逸らされた。
「…い、今はな、生きてた事を伝えに江戸に来てるんだ。あとはお主だけだったんだが、会えてよかった。…ははは」
「……てェことは銀時にも会ったのか」
「あ、ああ。今は銀時の所に世話になってる…」
「へェ…」
高杉は何かを考える様に顎を摩る。李野は相変わらず高杉の目を見れないまま。
本当にこ奴は晋助なのか…?
「…もう、言ったのか?」
「は?」
「惚れてんだろう?銀時に」
「んなっ!!何故知ってる!?ヅラか!?ヅラが言ったのか!?」
「違ェ」
「………言わないつもりだ。小太郎には悪いが」
「…そりゃ好都合だ」
何がと問おうとした時、鳩尾に衝撃が走った。何かと見ると、高杉の刀の柄が李野の鳩尾に入っている。
ぐらりと体が高杉に倒れ、李野は高杉の着物を掴む。
「…っし、んす…け…」
「ちょいと来て貰うぜ」
李野が最後に見たのは、ニヤリと笑う高杉の顔だった。
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