鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編) ・ 「やっと来たわね2人共! 待っていたわよ早くいらっしゃい」 里桜の言葉に奥から薫が出て来た。 淡い山吹色のワンピースを着た薫が、女将に「すみませんね」と微笑んでいる。 「…今、小早川って…?」 薫の後を追う。よく磨かれた廊下を歩き、曲がり角を曲がると里桜がふと立ち止まった。 「兄ちゃん?」 鈴は里桜の顔を見、目線を追い掛けて絶句した。 「隼人さん!?」 通された部屋は8畳程在る和室で、小早川院長の晴臣とその息子の隼人が、先に席に着いていた。間にひとり分のスペースが空いている。他にも誰か来るようだ。 「やあ里桜君鈴君、席に着いて」 鈴は息を呑んで隼人を見詰める。しかも、もしかしなくても、薫が再婚したら、この先隼人と家族になるという事だ。 「私の前の席においで鈴」 隼人の声に促され、鈴は云われた場所に座る。里桜も真ん中の席へ行くと、薫が晴臣の前に腰を下ろした。 「びっくりさせてすまなかったね。薫さんが2人を驚かせたいって、云うから…」 「凄いサプライズでしょう?」 「「…サプライズって…」」 2人は顔を見合わせた。 「えっと、君達のお母さんを私に下さい」 晴臣は真っ赤な顔で2人に頭を下げる。 「母ちゃんが幸せなら」 「お母さんが幸せなら」 「里桜、鈴、ありがとう〜」 薫が2人まとめてハグをする。 「お腹の子に障りますよ?」 「あらそうね」 晴臣が冷や汗をかくのを傍目に、里桜はグラスに注がれた水を一息に飲み干した。 「…母ちゃん、もうひとり誰か来るの?」 「そうよ〜っていうか、料理冷めちゃうわね」 「先にいただきましょう。2人共たくさん食べるんだよ?」 「「…はい」」 「うわ〜さすが双子! ハモるね〜」 隼人が楽しげに笑い、向かい側に座る鈴は頬を染めた。懐石料理が並べられた物を見て、鈴のお腹が鳴った。鈴は紅くなって俯いた。 「鈴はホタテが好きだよね」 隼人が自分の分の、焼いたホタテを鈴の手取り皿に移す。 「里桜君も遠慮せずに食べるんだよ?」 「…はい」 里桜はそっと吐息を零して、隣の鈴を見た。 僕は眼を輝かせて割り箸を持つ。 「…鈴」 「だって食べなきゃ勿体無いじゃない?」 それを隼人は愛しそうに見守っていた。隼人が誰を好きなのか、里桜は知っているみたいだけれど、鈴に教えてくれない。きっと綺麗で知的な人なんだろうなと、鈴は頭の片隅で思う。 唇をキュッと噛み締めて、里桜は半分に調理されたロブスターをつついていた。 「兄ちゃん、ロブスターあげるね?」 里桜が海老が好きなのを知る鈴が、へへと笑いながら、皿を寄越す。 里桜は微笑して「サンキュー」と応えた。 「でも良かったわ。あんた達年頃だからちょっと心配してたのよね〜晴臣さん?」 薫は麦茶を一口飲むと、向かい側に座る晴臣を見る。 「そうだね。2人共ありがとう。君達には新しいお兄さんが2人出来るし、賑やかになるよ」 里桜と鈴はハタと箸を止めて晴臣を見た。 「「2人?」」 里桜と鈴が顔を見合わせた。 「…嫌な予感がする」 ボソッと里桜が呟いた。刹那、聞き覚えのある声が廊下から聞こえ、近付いたと思ったら、スーッと襖が開いた。 「あ〜ったく道混みやがって」 「噂をすればだ。もうひとりのお兄さんが来たよ」 襖を開けた男が面倒臭げに入って来る。鈴は持っていた箸を落とし、里桜は真っ青になって絶句した。 「せ…せんせ?」 「遅いじゃないか兄貴」 「全くだわ疾風さん」 「………よう、双子共」 担任教師、小早川疾風先生だった。 「母ちゃん、先生が院長先生の息子って? 隼人さんひとりっ子じゃないの?」 鈴は里桜を通り越して薫を振り返った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |