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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「…」
 そう云われても困る。鈴はムッとして見上げた。
「なんでこの部屋に居るんだよ」
「んー」
 寝ぼけているのか? 鈴は暴れてジンの腕から抜け出そうとした。
「おい」
「な、何?」
「人間が来る」
「……は?」
 玄関を開ける音が聞こえた。
「隼人さん?」
 鈴は隼人が帰宅したのだと満面の笑みを浮かべて、ジンの腕から逃げるとパジャマのまま部屋を飛び出した。
「あら」
 居る筈のないあずさが、鈴の眼の前に居た。
「おはよう鈴君」
「お嬢さんこれは何処に?」
「それはこの奥に」
「え? え?」
 何故か引っ越し業者が段ボールを抱えて、数人がわらわらと入って来る。
「…これって?」
 困惑してあずさに訊く。
「今日此処へ引っ越して来たの。だって当り前でしょう? 隼人さんと私、結婚するんですもの」
「……っ」
 鈍器で殴られたかと思った。
「…隼人さんは?」
「知っているわ。そうだ、鈴君の荷物は申し訳無いけど、ご実家に配送させてもらうわね?」
「…」
 ドクドクと胸が不快に鳴る。
「やだ、此処って犬が居るの? 聞いてないわよ?」
 鈴の背後から、大型の犬がのそりと寝室から出て来る。寝室内にジンが居ないから、やはりこの犬がジンなのだ。
「鈴君? 今日はもうあちらへ帰るのでしょう? 荷物はこちらの業者さんが荷造りしてくれるから、心配はないわ」
 返事が出来なかった。喉の奥が震えて、鈴は俯いて自室へ走った。もう此処に鈴は必要ないのだ。
 隼人が了承したからあずさが来たのだろうから…。鈴は洋服に着替えると、ついて来ていたのかジンが身体を摺り寄せて来た。
「泣くな。あの女は好かん。なんだあいつは」
「…泣いてないっ」
 鈴はデイバッグに財布と携帯を入れて、玄関を飛び出した。ジンが後を追掛けて来ていた。エレベーターに乗ると、鈴は壁に背を預けてしゃがみ込み、零れた涙をジンが舐めてくれた。
「このマンションがペットOKで良かった」
「む? 俺はペットじゃないぞ?」
 ジンが拗ねて唸る。エレベーターが止まり、降りると外に出ていたコンシェルツにお辞儀をして、怪しまれずにジンと外へ出る。と、立ち眩みした鈴を身体でジンが支えてくれた。
「大丈夫か?」
「…うん…母ちゃんに電話するから待って」
 バッグから携帯を出して、近くの植え込みの花壇に寄り掛かる。
「…俺はこのまま自分の家に帰る」
 鈴はそうですかと思って、ん? とジンを見る。
「家が在るの?」
「在って悪いか」
 そうじゃなくて。
「在るならそっちに帰れば良いだろ!? なんでわざわざ」
「お前が泣いていたからな」
「っ」
 顔を近付け頬をぺろりと舐められる。
「お前の匂いを後で追って行くから、寂しいだろうが我慢しろよ?」
「……は?」
 じゃあなと掛けて行く後ろ姿に、保健所に通報されないのだろうかと、ふと頭に過ぎる。
『もしもし、鈴?』
 程無くして薫が電話に出る。傍で里桜の声がした。丁度起きて来たようだ。
「母ちゃん? 朝からごめん…申し訳無いんだけど、隼人さんのマンションまで、迎えに来て貰っても良いかな」
『あら、どうしたの?』
「訳は車の中で話すから。なんだか身体が怠いんだ、もう歩きたくない」
『まあっ、ちょっと待って、今支度するわ! 直ぐ行くわね?』
 薫が通話を切って、鈴は携帯をバッグにしまう。なんだかいろんな事が有り過ぎて、鈴はぐったりとしていた。


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あきゅろす。
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