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那智×慧   【机上の空論】


【机上の空論】




那智が先生と話してる。
ただそれだけのことなのに、この胸の中に込み上げてくる気持ちはなんだろう。 見ていてとても不愉快になる自分が謎だ。
この距離だから、那智と先生が何を話しているのかなんてわからない。だけど互いに笑いあってるなんて…。
その空気に耐えられず、俺はその場所から距離をおく。
別に俺は先生と特別な関係なんかじゃない。先生は先生だ。ただ、那智のことが気になる…かもしれない。
だから、那智が俺以外の人と笑いあってると、いやな気持ちになる。だけどそのかわり、二人で喋ってるときは幸せな気持ちになる。こんな事を相談したくても…なんだかんだでする奴もいない。

まだ那智は先生と喋っているだろうと思い、準備をさっさとして校門を出る。

那智となれるものなら恋人になりたいし、恋人みたいな振る舞いだってしたいとは思う。だが何も実行に移せていないうちからそんな事を言っても机上の空論までだ。
もしこの胸に宿る想いを那智に伝えて、もし拒まれたのだとしたら。所詮自分達は兄弟なのだから、兄弟以上の関係なんて求めてはいけないのだろう。そうしたならばこれから那智は俺に対して距離を置くであろう。

だから、いまの距離を維持することが――兄弟のまま――僕らの定めなのだろうか。
僕が那智を欲しいと思うのは、いけないことなのだろうか。

「慧、ひとり?」
後ろから声を掛けられる。良く聞く、愛しいと思えるあの声。
「見たら分かるだろ」
自分が不機嫌そうに対応していることに気づく。実際は不機嫌でもなんでもなくただ純粋に那智が声をかけてきてくれたことが嬉しかったのに。
「慧、機嫌悪い?」
上目遣いで話してくる。いつもこんな風に話してきていたっけ。
「悪くない、悪くない。」
「でもなんか悩んでる顔してる。なんかあった?」
那智にはすべてお見通しか?いや、それはあって欲しくない。
「なんでもない。」
さっきから素っ気ない返事ばかりしていると反省。
「そっか…ねえ慧、慧はいま好きな人とかいる?」
この質問には脳内を見透かされたかと思った。さらにこの質問をしたのは、僕の…気になっている人だというのに。なぜ那智は僕に、このタイミングでこんな質問をしてくるのだろう。
「わかんないな…してるかもしれない」
素っ気ない返事にならないようにと思ったが取って付けたようになってしまう。
「慧、僕のこと…好き?」
「……っえ?」

思わず聞き返してしまった。一瞬コイツは何を言ってるんだ?と思った。
好き?って聞いてきたのか。俺の大好きな…那智が。本当に脳内を読まれてるようだ。
「慧、今日おれの事見て不機嫌そうにしてたもん」
あの先生と話してるときか。那智は先生と話すことに夢中で僕のことなんて気にしてなんかないと思っていた。なのに那智は、僕がその場にいて不機嫌になってしまったことまで知っている。
「おれは、慧のこと大好きだけど、慧は…どう思ってる?」
すべてもう見透かされてるようだ。もう隠す必要はないようだ。
「僕も…」
最後の方は自分で言っておいて恥ずかしくなり、くぐもってしまいはしたが。
後ろから那智が抱きついてくる。まだここは帰路であり、家でもなく一般道路だ。嬉しいという感情と共に、恥ずかしくもあり、未だに驚きを隠せない。
「慧のこと、幸せにしたい」
最高の殺し文句だ。人気が全くないとは言えないこの道ではあるが、どちらともなくキスをする。
今まで独りで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなれるくらい、いまの僕は…幸せだ。

これからたくさんの季節を「那智の恋人」として過ごすことが出来るのだろう。

たくさん二人で楽しい、いろんな思い出を作りたいと思うよ。

――「那智、僕も愛してる。」








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20090726


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