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君を守りたい、ただそれだけ





栄口に連れられて、榛名の家に着いた。

阿部を取り戻す。

もうオレは迷わない。














ドアノブを捻ると、不用心にも鍵は掛かっていなかった。少々乱暴に開くと廊下の向こうに人の気配がして、オレ達は急いだ。





「阿部っ‥‥!」


そこに居たのは、こちら向きにベッドの縁に腰掛けた榛名と、その後ろに横たわる阿部。

オレは咄嗟に、榛名の胸倉に掴み掛かっていた。



「突然来て、それはないんじゃねえの?」

「阿部を返してもらいに来た」

「‥‥好きにすれば良いだろ」


キッと睨まれても怯まなかった。そのまま睨み合っていると栄口に止められてハッと我に帰り、何より優先すべきであった阿部の傍に行く。





血の気の引いた顔。あまりにも静かな寝息は、一瞬ゾッとする程だった。

その白い頬には幾筋もの涙の跡。中途半端に着せられている服の襟元からはいくつか鬱血が、キスマークが見えた。



「‥阿部‥‥」

「言っとくけど気絶じゃねえからな、眠ってるだけだ」

「アンタ、何したんだよ」

「抱いた」

「ッ‥‥!」


その、悪びれもしない態度にカッとなる。しかしそれは次の台詞で吹き飛ぶことになった。












「‥‥ったく、オレ様が抱いてるっつーのにコイツ、花井花井ってさ。参るよな、ほんと」


ガリガリ頭を掻きながら榛名が言う。悔しさとか、妬みとか、そしてどこか寂しげな表情。

ちらっとだけオレを睨んだ榛名が立ち上がった。身構えるオレ達に文句を言う訳でなく、呟くように言う。



「ちょっと頭冷やしてくる。その間に、ソイツ連れてさっさと消えとけよ」

「わかりました」

「‥‥‥あと、ちゃんと幸せにしろよ。何かあったら、すぐオレが奪いに行くからな」

「‥‥はい」



それ以上、榛名は何も言わなかった。ただその哀しそうな背中が、目に焼き付いて離れない。


絶対、幸せにしますから。


玄関のドアの向こうに消えていった背中に、誓った。




















「‥‥‥ん‥」

「阿部、起きた?」

「‥さかえ、ぐち‥?」

「花井もいる。迎えに来たんだ」

「‥‥花井、も‥?」


やっと目を覚ました阿部の声は酷いものだった。だけどしっかりオレの名前を口に出して、まだ体を動かすのは辛いのか視線だけをオレまで巡らせて。





そして、










阿部が、微笑んだ。


オレは何だか泣きたくなって、必死に涙を堪えながらその疲れた体を抱き締める。

視界の隅で栄口が帰って行くのが見えた。でもオレは、それどころじゃなくて。







「色々ゴメンな、オレ「花井」


今まで阿部にしてしまった仕打ちを謝ろうと口を開いたのに、それは阿部に阻止された。真っ直ぐに見つめられて、心臓が跳ねる。



「‥‥‥オレ、帰って良いんだよな?花井のとこに」

「そんなの当たり前だろ、お前はオレと結婚するんだから」


最大の笑顔で言ったオレに、阿部が泣き出した。もちろんそんなつもりで言ったんじゃないから、オレは苦笑い。

そっと涙を拭ってやって、阿部の手を引いて立ち上がる。










「帰ろう、花井。腹減った」

「おいおい何だよ、散々心配させといて」

「うるせ。今日は花井が晩飯作ってくれよな」

「‥りょーかい‥」





‥‥‥なんかオレの今後、尻に敷かれまくる気がする‥‥


ま、それも幸せかな。

阿部となら。


















苦笑した花井と並んで、阿部が笑う。

いつもの光景。

繋がれた手は、もう二度と離れることのないようにと、祈るように願って。





−END−

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あきゅろす。
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