届かない、何も 電話して正解だったと思った。 その反面、何故あの時手を離してしまったのかと強く後悔した。 確かに阿部はオレを呼んでいた。あいつの声を聞き間違える訳がない。阿部は泣きながら、必死に助けを求めていた。 しかし聞こえてきた情報だけでは阿部のいる場所がわからない。 阿部を危険な目に合わせるような人間‥‥ 「榛名さんだ」 ぽつり栄口が呟いた。真正面から見据えられて、身動きが取れなくなる。気付けば手が震えていた。 「だから言ったでしょ‥‥あの人は阿部をもう1度手に入れようとしてる」 「阿部、を‥‥」 「早く行かないと。あの人は目的を果たすためなら何をするかわからないから」 「‥‥っ、栄口」 行こう。 そう言って立ち上がった栄口に続いて、オレは家を飛び出した。 ごめん、阿部。 オレ、変な嫉妬でお前に酷いことしちまった。 帰って来て。 本当は大好きなんだよ、阿部のこと。 . [*Back][Next#] [戻る] |