白くまマン
熱帯夜

 それはある寝苦しい夜の事だった。

 あたしは何時も通りにタオルケットを片手に寝ていた。途中までエアコンを付けていたが、躰が怠くなる事確実なのでタイマーをかけ自動的に電源オフになるように設定している。だが今日は稀に見ない熱帯夜。エアコンが設定どおり電源がオフになって暫くあたしは目が覚めた。汗をかき寝巻が躰に張りつく嫌〜な感触を味わいながら。

「あづー」

 手をパタパタ団扇に見立て仰ぐが一行に涼しくならない。いや当たり前だけど。

「エアコンは躰に悪いしなぁ〜」

 小さな頃からエアコンを付けすぎない。との教育を受けたために一人暮らしをしている今でもエアコンの風に直接あたらないようにする等エアコン管理に煩くなっていた。

「しゃーない。窓開けっか」

 出来ればしたくなかったが仕方が無い。こーも蒸し暑いと眠れやしない。

「何で又こーゆータイミングで熱帯夜になるかなぁ〜。ホント」

 実は先日、網戸が壊れてしまったのだ。一応網戸屋さんに修理を以来したのだが修理に来るのは明日になっている。つまり、網戸無しで窓を開けなくてはいけない。

「別に網戸無いから泥棒が入ってくるわけじゃないし」

 そもそもここはマンションの八階。しかも玄関オートロック。わざわざ入ろうとしなくても、もっと入りやすい場所あるのでは? と考えてしまう。まぁ、お隣さんとかだったら頑張ればなんとかなるけど、それってもう網戸云々の範囲越えてるし。

 ガラガラガラ

 そんな結構どーでもいい事を考えながらあたしは窓を開ける。途端に涼しい風がスッと部屋に流れ込んできた。

「あっ、涼しい〜」

 あたしは再びタオルケットを抱え眠りに就いた。



 けどあたしは気付かなかった。高さも距離も関係ないのが居る事に。網戸の本来の意味を忘れていた。



 プ〜〜ン。

 形容するならそんな音があたしの耳を擽る。

 プ〜〜ン。

 ほら、又。

「ん〜。うるさいなぁ〜」

 プ〜〜ン。

「かゆい」

 三回目の音と躰の痒みにあたしはふっと目が覚めた。

 プ〜〜ン。

「もしかして……」

 あたしは慌てて部屋の電気を付ける。はじめに目に飛び込んできたのはプックリ丸く腫れた腕。むずむずと走る痒み。

 プ〜〜ン。

 そして目の前を飛び回る丸々太った蚊。

「人の血で丸々太りやがって……」

 許せない。許せ無さすぎる。何故、蚊が家にいるですかっー?! てか原因は網戸が無かったからに決まってるじゃん! こりゃもう入ってくれと言わんばかりに開いてるじゃないか!

「あちゃー」

 自分でやった事だけに怒りを何処にぶつければって……。

「って蚊に決まってるじゃん」

 単純明快そうと決まればレッツラゴー! 等としてる合間に又一ヶ所……。許すまじ。

「どーやって仕留めようか……」

 間が悪い時はとことん悪い。ただ今殺虫剤を切らしていて明日にでも買いに行こうとか思ってたわけで。今日買いに行っとけばよかったよ……畜生。

「仕方ない。一匹ずつ確実に、動きの遅いやつから仕留めるしかないか……」

 これ以上蚊が入ってこないように窓を閉める。

 プ〜〜ン。

 目の前を飛んでいるカモ。仕留めて下さいとばかりに遅い動き。

「飛んで火に入る夏の虫っ!」

 バチッ!

 ジワッと手の平に広がる痛み。ゆっくりと手を開くとそこに憎き蚊の姿はなかった。

「……」



 そこからはまさに戦争。


「とりゃぁっ!」バシッ! 居ない。「にゃろぉ!」バチッ! 居ない。「コンチクショッー!」バチバシッ! 居ない。「おらぁ!」ドンッ! 「ッ痛!」脛をぶつけ蹲る。「まだまだぁー!」バシッ! 居ない。「こんのぉ!」ブチッ! 1匹。「うっしゃぁ!!」ドンッ! 「っ痛!」再び脛をぶつけ蹲る。



 正味1時間。しっちゃかめっちゃかな部屋にゼイゼイと息吐くあたし。仕留めた蚊の数1匹。

 プ〜〜ン。

 未だ飛び回る蚊ども。そして更に刺された数5ヶ所。

「くっそぉ〜! こうなったら最後の手段」

 あたしは腹に力を入れて叫ぶ。

「白くまマン! 助けてぇ〜」

 すると何処からともなく白い煙が立ち込めるとそこに白くまマンがいた。

「っとう!」

 あたしは思いっきり空手チョップを白くまマンに食らわす。

「閉めきってるんだから煙なんて立てないでよっ! ゴホッゴホッ」

 何で叩くの? と言う目をする白くまマンに向かいあたしは咳き込みながら言い放つ。

「とにかくこの蚊をなんとかして! それとこの煙り! ゴホッ」

 あたしが叫ぶように言うと白くまマンはどうやったのか窓も開けずに煙を収納した。

「つか最初から煙りださずに出てこいよ」

 とにかく今のあたしは虫の居所が悪い。白くまマンだろうが何だろうが確実にぶつけられる方に怒りが向かう。

「早く憎き蚊どもを血祭りに……」

 でないと代わりにお前を血祭りにあげるぞ……。と言うニュアンスを含め、あたし白くまマンに言う。しっかりそのニュアンスも伝わったらしく白くまマンは毛を逆立たせながら蚊と格闘をはじめた。



 そんなこんなであたしの熱帯夜はあっと言う間に過ぎました。
 めでたしめでたし。
 そうそうついでに網戸も直してもらい修理代が浮きました! やったねっ! あたしって経済的!



 ん? 白くまマンと蚊の行方?

「……世の中にはね、知らない方が幸せって事もあるんだよ?」

 めでたしめでたし?

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あきゅろす。
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