白くまマン
絵本パニック

(ん〜どれにしようか)

 とある本屋の絵本コーナーに俺、麻生 昴(16)は立っている。言っておくが俺は絵本マニアとかそう言うのではない更に言えば俺は女だ。更に補足すれば俺はオカマとかオナベとかそう言うのでもない。最近一人称を俺や僕で通す女もいると言う事だ。
 話がずれたが何故絵本コーナーにいるかと言うと従兄弟の誕生日プレゼントを絵本にしようと思いついたからだ。絵本が並べてある本棚を適当に眺めていた俺の視線は一つの絵本の前で止まった。


 白くまマン


 俺はそれを購入した。確か従兄弟が白くまマンが何とかって言っていた事を思い出したからだ。


※※※※※※※※


 ―誕生日当日―

「渉ぅ〜、和哉ぁ〜、来てやったぞ〜」

 従兄弟の玄関のチャイムを鳴らしながら俺は大声をかけた。チャイムを使った意味がなかった気もするがこれはいつもの事だ。

 ガチャ。

 少しして玄関の扉が開いた。

「昴姉ちゃん! 遅かったね!」

「昴ちゃんいらっしゃい」

 出てきたのは和哉と佳和子伯母さんだった。

「出迎えご苦労だったぞ和哉。佳和子伯母さんお邪魔しまーす……ん? 渉は?」

 和哉頭を撫でながら出迎え来ない一人を尋ねる。

「兄ちゃんなら中にいるよ〜」

「なにー! 出迎えに来ないとはいい度胸だ!」

 拳を握り締め、でも冗談っぽく部屋にいるであろう渉に聞こえるように大声で言う。

「昴ちゃん少し二人を頼んでいいかしら? 蝋燭を貰い忘れちゃったのよ」

「蝋燭? あぁ、俺が貰ってきますよ? いつものケーキ屋ですよね」

「いいのよ、昴ちゃん。和哉も、あんなだけど渉も昴ちゃんが来るの楽しみにしてたんだから」

「わかりました。じゃあ二人の事は任せて下さい」

「お願いするわ。直ぐに戻ってくるから」

 そう言うと佳和子伯母さんはサンダルを突っ掛けてケーキ屋の方角に歩いていった。

「さ、中に入るぞ」

 佳和子伯母さんを見送ってから俺は和哉を家の中へと促した。

「わぁ〜たぁ〜るぅ〜! 昴様が来てやったのに出迎えに来ないとは覚悟できてるだろーなー?」

 リビングに頬杖を付いた渉を見つけると俺はそう言いながら渉の肩に手を置いた。

「あの馬鹿でかい声って昴だったんだ。変な人かと思ったんだよ。ごめんごめん」

 すると渉は予め用意してあったような台詞を述べた。

「変わんないな。その捻くれた性格」

「昴にだけは言われたくないし」

 火花を散らすような視線を交わした後一発殴ったのは……それは、まっご愛敬。
 睨むような視線を渉から受けながら俺は鞄から一冊の絵本を取り出した。

「ほれ、和哉、誕生日プレゼントだ。有り難く貰っとけ」

 それはこの前とある本屋で偶然見付けた絵本だ。

「うわぁ! 昴姉ちゃんありがとう! 開けてみていい?!」

 俺は肯定の意味で一つ頷いた。

「わぁぁぁ! 白くまマンだぁぁぁぁ!」

 中身を開いて嬉しそうに言う和哉。

「昴よくこんなの見付けたね」

 脇から覗いて顔をしかめながら言う渉。

(何か白くまマンに関係する悪い思い出でもあんのかな〜?)

 と思いつつ俺は答える。

「見付けたんじゃなくて偶然見付かったんだよ」

 俺と渉が話してる間に絵本を読み始めようとした和哉が不思議そうに言った。

「あれ? 何も書かれてないよ?」

 和哉の言う事に疑問を持ちつつ俺は絵本を覗いて見た。

「まさか、見せてみ……ホントだ。全部白紙だ」

 和哉の言うとおりページはあるが何も書かれていない。これでは絵本として成り立たないどころか詐欺だ!

(返品間に合うかなぁ〜)

 俺はそんな事を思っていた時。

「なんか浮き出てきたぞ」

 渉が絵本のページを見ながら声をあげた。


 白くまマン


 白紙だったページにはいつの間にかそう浮き出ていた。そして次々に文字が浮かび上がってきた。

 これから始まるのは、ある、白くまマンの様子。

 そう文字は浮き上がりページがひとりでに捲れあがった。



「助けて! 白くまマン!」

 どこかで私を呼んでいる! 行かなくては!
 私の朝はこうして始まる。私は呼ばれればどんな所へでも行く。例え私が行けずとも必ず同志等が行くであろう。全ては平和の為に!
 そして彼女の安全は守られた。

 また1ページ捲れあがった。

「しろくままん………」

 またも誰かか呼んでいる!
 私たちは常に素性を隠し生活を送る。普通に食事も取るし睡眠も取る。会社に行く事もあれば家庭も持つ。そんな場所でもその声を聞いたなら白い煙と共に顕れ平和を守り立ち去るのだ。
 そして彼の安眠は守られた。

 また1ページ捲れあがった。

「しーろーくーまーまーん!」

 助けの声が行かなくては!
 どんな時であろうと呼び声が聞こえたならば行かなくてはならない。その過程において決して白くまマンの正体を明かしてはならないのだ。
 少年と少女は夜空に咲いた花を見れただろうか?

 また1ページ捲れあがった。

「白くまマン!」

 う゛っ! スパゲティーが詰まった!
 こんな時でも行かなくてはならない。因みに私は昼食中だった。
 彼女は無事結婚式を迎える事が出来るといい。

 また1ページ捲れあがった。

「助けてくれ、白くまマン…!」

 あっ! せっかくスリーセブンが出たのに〜……。
 パチンコの途中でも、大当たりを出したとしても呼ばれたならば行かなきゃならない。
 彼は無事合格したか気になるな。

 また1ページ捲れあがった。

「ふぅ〜」

 今の時間は助けの声が減って楽になった。
 白くまマンをやるのは楽じゃないがやりがいはある。少し仮眠とろう。いつ呼ばれてもいいように。
 河原で一つの人形が焼け落ちた事を知る術もなく。

 また1ページ捲れあがった。

「そうだっ、白くまマン!」

 声がする!
 仮眠から跳ね起きて私は白い煙と共に水嵩の増した川へ顕れる。寝起きの体はうまく動かず平泳ぎっぽい滑稽な泳ぎになったがなんとか小さな命を救い出せた。
 あの子犬は無事に成長しただろうか?

 また1ページ捲れあがった。



「すごい!」

「なんだこれ」

「……」

 興味津々で見入っている和哉と薄気味悪そうに呟く渉に無言で浮き上がる文字と絵を追う俺。
 ページはどんどん捲られ最後の1ページとなった。
 ゆっくりとページが捲り上がる。俺を含む3人はいつの間にか息を呑んでその様子を見守っていた。

「ただいま〜! 昴ちゃんありがとね〜」

 そんな時ガチャンと音を立てて佳和子伯母さん帰ってきた。
 その音に気を取られた一瞬のうちに絵本はもとの白紙に戻っていた。

『あっ……』

 3人は同時に声を上げた。

「どうしたの? 3人して固まって、何見てるの?」

 そう言って佳和子伯母さんは3人の中心に鎮座した白紙の絵本を覗き込み。

「なんにも書いてないわね?」

 と言った。

「伯母さんも帰ってきたし誕生日会はじめよう!」

 俺はそう言って絵本をしまった。不思議そうに首を傾げる佳和子伯母さんを横目にあの絵本はなんだったのだろうかと考える。
 考えた所でわかるはずもないのだが。
 その後楽しく誕生日会を終えあの絵本は返品する事にした。和哉は渋ったが渉の説得もあり渋々承諾した。

「じゃ、お邪魔しました〜」

「いいえ、また来てね」

「バイバイ昴姉ちゃん!」

「もう、来んなよ」

 意味深に笑った後渉を殴ったのは、まぁ、それもご愛敬。
 こうして楽しい誕生日会は終わったとさ。

※※※※※※※※

「この絵本どうすっかな〜、返しにいくのもめんどいし……」

 俺は近くにあったゴミ捨て場に絵本を捨てた。


 昴が帰ってから暫くするとそのゴミ捨て場に小さな影が過った。その後ゴミ捨て場にあったはず絵本が消えていた。

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あきゅろす。
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