[携帯モード] [URL送信]

TickeT
不思議な男(5)
 僕が見ている事を気にしてか、それともただ書き終えただけなのか、彼は手帳を片付けた。


「お伝えしなければならない事は、全てお伝えしましたので、私はこれで失礼させていただきます」


 彼は一礼をし、そのまま歩いて何処かへ行ってしまった。

 夜の闇に紛れ、遠くから静かに響く足音だけを残して。


 僕は足音が小さくなり、聞こえなくなってからも、しばらくその場に立っていた。



 僕は嘘を吐き、他の人が手に入れるはずだった「運命」を自分の物にしてしまった。


 そのため知らず知らずの内に、そこに嵌るはずでなかった歯車──僕──は、運命の噛み合いを狂わせていた。



「今日は眠れそうにないな……」


 僕は微笑を浮かべながらそう呟いた。そっと扉を閉め、家の中に入った。


「眠れそうにないな」


 もう一度そう呟いた。

[back]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!