TickeT 不思議な男(5) 僕が見ている事を気にしてか、それともただ書き終えただけなのか、彼は手帳を片付けた。 「お伝えしなければならない事は、全てお伝えしましたので、私はこれで失礼させていただきます」 彼は一礼をし、そのまま歩いて何処かへ行ってしまった。 夜の闇に紛れ、遠くから静かに響く足音だけを残して。 僕は足音が小さくなり、聞こえなくなってからも、しばらくその場に立っていた。 僕は嘘を吐き、他の人が手に入れるはずだった「運命」を自分の物にしてしまった。 そのため知らず知らずの内に、そこに嵌るはずでなかった歯車──僕──は、運命の噛み合いを狂わせていた。 「今日は眠れそうにないな……」 僕は微笑を浮かべながらそう呟いた。そっと扉を閉め、家の中に入った。 「眠れそうにないな」 もう一度そう呟いた。 [back] [戻る] |