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詩集
家路
部屋を出ると
止まった景色のすき間で風がふいている

景色は風を感じていない
また誰かが帰ってしまった

階段を降りるつまさきが踊り場についたとき
消えるように家路についてしまった

過去
彼らは確かに目の前にいた

絶対に会うことのないその誰かを思うたびに
蓋を閉じられたびんの中で私はやりきれなくなる

それからじわりと切なくなる

この周りにはいつも誰かしらがいて
目を向けようとすると帰ってしまう

手をふれたびんの内側がくもる
彼らの家路がかすんでしまう

彼らにも家がある
彼らにも私と同じように
帰ってしまう誰かがいるのだと思う

私と同じように
やりきれなくなるときがあるのだと思う

そう考えてくもったびんを拭わずにいる
本当はそうでなかったとしても

彼らが私のそばにいたことを感じる
それだけで
私は幸せを感じなければならない

彼らの手を握ってやらなければならない

このくもったガラスのむこうの家路が
こおりのように冷え切っているかもしれない

誰かが彼らの耳を食んでやらなければならない

笑いながら、暖かなくちびるで
できるだけやさしく

生まれてきてはいけなかった子供のように
彼らが泣き出してしまわないように

彼らは部屋の鍵を持っていても
びんの蓋をあけることはできない

くもったガラスを拭って
びんを眺める彼らに向けて
私は笑わなければいけない

帰ってしまう彼らにとっての誰かに
彼らが同じように笑えるように



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