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詩集
夏の未来
ようやく咲いた雲も
やけににぎやかな空に
こころもち
埋まってしまって
夏の面子からは
すっかり
雲の白さが
追い出されてしまっていた
蝉の羽音も
わめく声も
湿り気の中に
熱気を帯びて
空に
きつく
マーブリングされていた

バックパッカーは
夏から逃げるように
むぎわら帽は
夏に飛び込んでいくように
歪みそうにあつい
路面のアスファルトを
踏み台にして
遠くのまちへ
呼びかけていた

声が
響いている
粗い
麻紐のような
ささくれた熱気を伝って
遠くのまちへ
夏のない未来へ
腫れぼったい
ゆるく握った空の風を
届けている
雪のまちへ

冬のまちは
あこがれている
情熱をふくんだ
雪にかこまれて
夏を
夢見ている

バックパッカーは
春の背に
バイクを停め
むぎわら帽子は
秋風のなかで
ひんやりとした
帽子を脱いだ

誰もいない夏の街を
冬の街は
夢みている
つづいた空の
夏からつながる
グラデイションを
夜が来るまで
夢みている
麻紐をたどり
夏の未来のなかで
過去から届く
おだやかな夢を
夏のにおいを
枯れた麻の根に
吹きかけてやっている

にぎやかな
寒空の先で
ごわついた麻紐が
切れてしまわないように

バックパッカーが
すこし
身震いをして
むぎわら帽子は
むぎわらを
また
被りなおした

とおくの街は
広がっていく
麻紐は
空を編みこんで
夏の未来へ
伸びきったまま
溶け込んでいる



あきゅろす。
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