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詩集
スコール
あの信号はあたまが悪いの、
と、きみがあんまりにも言うから、
夏からずっと彼はみどりいろのランプをつけたままだ
熱帯の植物みたいな色をした派手なランプの光が、冬の真夜中に開け放たれている
彼にもプライドがあるのに
熱帯の植物みたいな色の、ぎらぎらするプライドがあるのに

手袋も持たずに彼が立っているから、
わたしも手袋を持たないで、バイクに乗る
アクセルグリップはつめたいゴムで、
ブレーキのにぎりは氷でできている
ステンレスのキーシリンダーにはよつゆがたまっているから、彼も今濡れているのだろう
おおつぶのスコールを思い出しながら、よつゆにかじかんでいるのだろう
わたしがくちびるをなめると、夏の虫の羽音がした
みどりいろのランプを顔に貼りつけたまま、彼がすこし笑った

走りだしたバイクの周りの空気には、たくさんの泡がまじりこんでいる
この町の冷えたたんさんいんりょう、から逃げのびた泡
かれらはわたしのえりもとまで飛び込んできては、マフラーにしみこんだ
曲がり角の信号が点滅している
さわやかなオレンジ色のランプ
彼が冬の注射針につき刺されている町の隅の、
細い曲がり角には、点滅するオレンジ色のランプがある
彼はそれを知らない
わたしの手を注射針が刺した
手の甲からひきつった冬が流れ込んだ

キーシリンダーがちりちりと鳴いた
指で探るとよつゆがかわいていた

彼はやっぱり大通りに立っていた
手袋も、靴下も、マフラーも持たずに熱帯雨林の夢を見ていた
氷ったみずうみのような色のランプを貼り付けて、冷え切っていた
彼をおどろかさないように、わたしは作業員のような顔をつくって、
彼のそばの歩道にバイクを止めた
赤いブレーキランプがともるのに気づいて、彼はちいさくみじろぎしたように見えた

マフラーに顔をうずめて、息を吹き込む
わたしはあたたかった
やけどしそうなくらいに、
彼よりもずっとあたたかかった
えりもとからマフラーを抜きとって、低く息を吸う彼に、にぎらせてやった
わたしは上着のえりを立てて、これみよがしに身をふるわせて、
それから、一度だけ笑った



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