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詩集
ピエロはまだ空にいるか
祖父の牧場は
スペインの西のすみにあるのだそうだ
父の話をきけば
その土地には時おり
「水あめが降る」のだという
街の低い空から数ヶ月に一度
粘り気のつよいにごった雨が降り
水はけの悪い土のうえに重なっていく
鼓膜にはりつくような
重く小さい雨音のなかで
祖父の町は動き
日々の端をめぐるように眠った

祖分の街には
移動しながら興行する
規模のちいさなサーカスがひとつあって
しばらくのあいだ祖父はそこで
テントの設営係として働いた
看板から団員の手指の先まで
鮮やかなもも色に染めきった衣装が
サーカスのトレードマークだった

もも色のサーカスは
ペグの安定しないテントのなかで
毎日喝采を呼んだ
祖父はぬかるんだ土にペグを打ち
毎日ペグにむけて唾をはいた
もも色のタオルであせを拭き
湯気のあがるテントのしたに立って
ながれだす結露を拭いた

軒についたランプを消してから
ピエロなんていなかったんだ
と父は言った
この街の雨は糸をひくようにこぼれ
あとくされなく溝渠へ帰っていく
夜空の晴れた日には
父は少し口数が少ない



あきゅろす。
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