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詩集
ピエロ
芥子の実のように
雨つぶをまとった雨雲のあいだには
薄桃色の道化服をきた
ピエロが住んでいるそうだ
ピエロはいつか
ヨーロッパのすみで生まれ
牧場で育ち
もうずいぶんと歳をとってから
雨雲のあいだに移り住んだ
父から聞いた話だ

父は近頃
田舎町のすみに角家を買い
軒先に小さなランプを買った
その軒に腰をすえて
父は薄桃色のピエロの話をした

雨粒がくっきり見えるだろう
と父は言った
あのひとつひとつの中にピエロはいて
それぞれが話をもっている

ピエロはひとが好きなのだという
ランプのひかりの向こうに
父さんはピエロをすぐに見つける
ピエロも父さんを見つけて話をする
しずかな家族の話だ
ひとつぶの話が終われば
また次の雨つぶが父さんを見つける

父さんも話をする
父さんの話は雨つぶにうつりこんでとけ
ながれた先の海にとけて
また雨雲にかえっていく
雨雲のあいだには
父さんの話がうずたかく積まれている

あのころに祖父が死んで
もう十年が経つ



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