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詩集
白熱灯
ただ
区切られて
皮膚の薄い空気だけが詰まった
ぼくの部屋で
針のように
つめたく割れた琥珀色が
ぼくの呼吸をとめ
そこを動かなくていいと
無機質な声色で
云った

ぼくはかねてから
黒く溶けて
透明な空に丸まり
ぱっと広がって
消えてしまいたかったものだから
いつか閉めた窓をあけ
空に向けて
いやに寒気が強い
闇の中にのびる
ゆるやかな坂を
素足のまま駆け降りていった

ぼくの部屋の
窓の桟の上に乗る
なめらかに厚い
監獄の壁のような
ガラス板の向こうがわで
ぼくのあどけない逃亡を怒り
なにひとつ表情のない
ぼくの部屋の空気が
引きつり
音も無く千切れ
不安の中にさらされすぎて
ふくれた空気の
粘り気のつよい中身が
漏れでてしまっていた
この部屋に置かれ
今までずっと
吸いつづけてきた空気だというのに
ぼくは
木目のように走った裂け目から
膨れ上がり
あふれ出て
部屋の床に
したたりおちるその中身を
(それが
 分厚いガラス板のむこうの出来事だとしても)
目に入れることができなかった

今夜はいくぶん
調子のいい頭上の空が
透き通り
空を覆うガラスのむこう側から
隘路もなく
闇は
ぼくの目に染みていった
ようやく
ぼくに夜が訪れて
遠く
待ち望んだ夢の歩く
さらさらという足音が
坂の奥から
流れるように聞こえてきた
影に満ちて
輪郭のない
ガラスの空の中で
琥珀色の光が
もったりと光っていた

引きつれも
やぶれもしない
まっさらな空気に溶けたぼくは
目の前に
琥珀色の夢を引き寄せ
割れてしまった白熱灯の
かけらがちらばる
ぼくの部屋のガラス窓に
できるだけ
静かな夜にふさわしいような
おだやかな光をひとつ
映しこんでみた



あきゅろす。
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