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詩集
たまねぎ
僕の部屋の窓から焼却炉が見える
団地住宅に併設された
小さな灰色の炉は
押しつぶされたたまねぎみたいに見える
僕の部屋の窓には
すこし不恰好な焼却炉がいる

ひび割れそうにかわいた夜
窓の中の炉は一度だけ僕に
わがままを聞いてくれないかと
少年のような声で言った
マッチが欲しいんだと
炉は続けた
僕は泣き出しそうになってしまった

僕の部屋にはマッチがない
バーナーもランプもない
いつか恋人にもらった
銀色のライターがあった
僕はそのライターを
ジャケットのポケットに入れて
炉のところまで歩いていった

僕が隣に腰かけても
炉は何も言わなかった
騒ぎすぎてしまった犬みたいに
しっかりと見開いた目で
団地の壁をみつめていた

いたたまれなくなって
僕はライターを取り出して
その使い方について話し続けた

ほら、この円盤をまわすと火がつく
火打ち石は定期的に取り替えなきゃならない
きみは持っていないだろうから
なくなったらぼくのを分けてあげるよ
小さい灰色の石だ
これがなきゃ火はつかないんだ─



あきゅろす。
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