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二次創作/夢
貴方の指が心の琴線を震わせる。やめて。こんなに弱かっただなんて、私知りたくなかった。(東)



長い黒髪の、はきはきとした女性が好みなのだと言う。
それは決して私を指す言葉ではない。私の髪色は茶色だし、必要以上の発言をしないから物静かだとよく言われる程だ。彼が口にする理想像とは似ても似つかなかった。


東春秋とは、ただ職場を同じとするだけの関係である。浅い訳でもなく深い訳でもない間柄だったが、酒の席では話す機会が何故か多かった。初めて会話を交わしたのも宴会場での事で、そこで朔は彼の名前を見てぽつりと零したのである。



「はるあき、ですか…しゅんじゅうとも読めますね。古代中国にそういう名称の時代があるんです」



大学では東洋史学を専攻していた彼女は、自分の研究分野となると口が軽くなる傾向にある。ここでもそれが異端なく発揮され、寡黙なはずの朔が楽しそうに語り始めたのを、東は当初驚きの表情で受け止めていた。そんな彼に気がついた彼女は、またやってしまったと口をつぐむ。すみません、と言おうとして顔を上げると、何故か東は笑っていた。



「本当に好きなんだな…いいよ、続けて。俺も聞いてみたいから」


普段からそういう風に喋りなさいよ、と呆れたように言われる事が多かった彼女には、それは新鮮な反応だった。気持ち悪いとまで言われた事もあった。だから、朔には東のその言葉が何よりも嬉しかったのだ。まるで、好きなものは好きでいていいと言われたみたいで。

恋に落ちるのに大して時間はかからなかった。



しかし、彼は戦闘員で自分は広報の事務担当。やはり会話は酒盛りの場に限られ、本部内で出会っても会釈程度である。東を見つける度に浮つく心を、煩わしく思うこともあった。

―だって、可能性なんて無いに等しい。

ふと通りがかったラウンジで聞いた話は、信憑性が高いものだと彼女は思う。彼の好みに相応しい女性が、彼と親しかったからだ。綺麗な顔立ちで仕事も出来、しかも彼と同年代である。ああこれなら諦めもつく、と朔は笑った。








実を言うとお酒自体得意ではない朔は、終業後の飲み会に顔を出さなくなった。当然ながら、東との関わりも無くなる。それで良いと思った。自分が居なくなるくらい、ただの些末事なのだ。

(それなのに、どうしてあなたは私の腕を掴んでいるの)



「…最近、来ないんだね」



どうして。
よりにもよって貴方が、それを言うのですか。

震える心を取り繕って、やんわりとその大きな手をはずす。



「失礼、します」



―出来る事なら、数少ない貴方との記憶も消し去ってしまいたい。

肩に掛けていた鞄を抱き締めて、足早にその場を立ち去る。呼び止める声なんて、私は聞いていないのだ。

























貴方の指が心の琴線を震わせる。やめて。こんなに弱かっただなんて、私知りたくなかった。












* * * * * * * * * *




初めて触れた手に、その体温に、舞い上がっている私が居る。

―ああ、もう、泣いてしまいそう。






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あきゅろす。
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