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二次創作/夢
私を見つけないで。私に触れないで。私を見つめないで。私の心を、丸裸にしないでちょうだい。(犬飼)




弓なりにしなった瞳で見つめられるのが、ひどく苦手だと感じた。


ボーダーの人間程ではないけれど、自身も注目を浴びるタイプだと朔は自負している。それ故、彼女は目立つような行動を嫌った。書道部に所属する傍ら、生徒会にも籍を置く身では人目は避けられない。それでも彼女は仲のいい友人と、又は一人で過ごす時間しか好まなかった。

(また見られてる)

そんな朔を最近悩ませているのは、同じクラスの男子…しかもボーダーの人間である。名を犬飼澄晴と言い、明るい髪色と緩やかに弧を描く瞳が特徴的だ。普段、日常会話程度しか関わりは無いのだが、学校を出てしまえばそうもいかなくなる。


校内ではただ一人、朔の親が経営する会社がボーダーのスポンサーだと知っている男が犬飼なのだ。


これを本人から告げられた時、彼女はほとほと困り果ててしまった。まさか知られてしまうなんて。どこからそんな情報を入手したのかは興味無いが、ベラベラと喋られては困る。なんせ彼女は、波風立てず静かに学校生活を送りたいのだから。
そんな朔を見た犬飼は、彼女からすれば胡散臭い笑みを浮かべてこう言った。「学校では関わんないからさ、外では良いでしょ」、と。

何を思って彼がそんな交換条件を出したのかは皆目見当もつかないが、秘密にしてくれるならと彼女は頷いた。その時はまだ、知らなかったのだ。まさか休日や彼が非番の日に外を引きずり回されるだなんて事は。


それはさておき、学校で関わらないという約束は一応守られている。しかし、犬飼からの無言のメッセージは容赦なく朔の背中を毎日突き刺すのだ。いい加減鬱陶しくなった彼女は、メールで用件を尋ねる。


―そんなに見ないで、何か用なの。

―ムリ。放課後ちょっと付き合って。


即座に返ってきた文面に、思わず朔は驚きの声を上げた。放課後、制服のままどこかへ行くのは初めてである。ちらと目をやると、あれほど鬱陶しかった視線は窓の彼方へとそらされていた。






カラン、とグラスに当たって氷が音を立てた。
目の前に座る男は涼しい顔をしてアイスコーヒーを飲んでいる。自分の前に置かれたそれは一口しか飲んでおらず、温かな空気によって表面に汗をかいていた。

朔には、犬飼が分からない。こんな交換条件を出してそれが長らく続いていることや、今こうして制服で向かい合っていることも、理解できなかった。視線を落として、ストローをくるくると回す。グラスの底に溜まっていた砂糖が舞い上がって溶けていった。
とうにグラスを空にしていた犬飼は、困った顔の朔を見つめている。その瞳はやはり半円で、にこやかな形をしながら鋭く彼女を貫いていた。



「思う存分悩んでよ、朔ちゃん。俺は面倒なことはしない主義っていうのを前提にね」



ふいに落とされた言葉に、ぎくりと肩を揺らす。ゆっくりと視線を上げてその瞳を見つめれば、犬飼はまたにこりと笑った。


ああ、やはり苦手だと朔はぼんやりと考える。だって、そんなに熱い眼差しを向けられたら―…
















私を見つけないで。私に触れないで。私を見つめないで。私の心を、丸裸にしないでちょうだい。












* * * * * * * * * *




きっと貴方は気づいてる。でも、私は私を暴かれたくないの。

―それでもきっと、お構い無しなんでしょうね。




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あきゅろす。
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