[携帯モード] [URL送信]

二次創作/夢
何処に居たって君は見つけてくれるから、私は迷子になれる。そして其処で君を待ちわびるのよ。(佐鳥)




―思えば、様々な失態を彼にさらしてきたものだ。

幼い頃、家が近かった佐鳥とはよく近所の公園で遊びに興じていた。引っ込み思案の自分は、周りを苛々させる天才だったことだろう。しかし、彼だけは辛抱強く私の言葉を待って、手を引いてくれた。

言うなれば、彼は私のヒーローだった。


下駄箱で靴に履き替え、校門へと向かう。ふと顔を上げれば、見覚えのある顔が何人かの女子に囲まれている…案の定、佐鳥だった。
嵐山隊が広報部隊として活躍するようになってから、彼はお淑やかだったりギャルだったり、様々なタイプの女の子に話しかけられている。それに伴って、彼は彼女と過ごす時間が少なくなった。元々の性格が社交的故か、彼はどんなグループにもすっと溶け込む。まるで、最初からそこにいたみたいに。

耳に痛い高い声を遮るようにイヤホンをつけ、俯きながら歩く。数少ない親しい友人は、部活で共には帰れない。一人で集団の横を通らなければならない事は明白だった。


ああいう光景を見る度に、朔は思う。
どうして自分が佐鳥の幼なじみだったのだろう、もっと明るくて可愛い子が彼にはよく似合うのに、と。

視界の隅に映った幼なじみの顔を見る限り、まるで自分に気がついていない。それがなんだかおかしくて、朔はから笑いをした。

―私のヒーローじゃなくなっちゃった。

彼は今や、三門市を代表するような部隊の一員だ。もう手の届かない、遠い存在になってしまった。佐鳥は、三門市のヒーローになったのだ。



不自然に見えない程度に早足で校門をくぐる。耳にしたイヤホンからは軽快なポップミュージックが流れており、彼女の足取りを更に重いものにした。気分にあわないものは、良いわけでもない機嫌を急降下させるのだと一つ学んだ。
スマートホンを操作して、何か違う曲は無いかと一覧を目で追う。そこで、重厚な音楽と高く響く声がハーモニーを奏でる一曲を見つけた。これでいいや、とそれをタップして機体をポケットに仕舞い込む。緩めていた足を元の速さに戻そうとして、朔は踏鞴を踏むこととなった。



「、っ!?」



ひどく驚いたという思いを隠さないまま、彼女は振り向く。そこには、己の腕を掴んで満面の笑みを浮かべる佐鳥がいた。



「朔ちゃん見っけ!」


そう言われて、誰も見つけてほしいだなんて言ってないよと返す。素っ気ない返しにもかかわらず、彼は一緒に帰ろうと元気に言った。

昔から眩しい笑顔は、今も変わらない。

かくれんぼの時、最後まで隠れていた自分を周りは見つからないと投げ出した。それでも、彼だけは。白い歯を見せてにっかりと笑うのだ。「朔ちゃん見っけ!!」、と。






変わらない何かを見つけた気がして、目頭が熱くなる。掴まれた腕から伝わる体温が、心地よかった。



















何処に居たって君は見つけてくれるから、私は迷子になれる。そして其処で君を待ちわびるのよ。













* * * * * * * * * *




私達はずっと一緒ではないよね。それは分かっているけど、一つだけ。

―その笑顔だけは曇らせないで、お願い。





[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!