二次創作/夢 おまえは何者だ、と彼の人はその者に問うた。その者は、私は知者であると述べた。では知者とは何であるか、と彼の人は再び問うた。その者は、こう答えた。 「…あんたは動物使いか何かか?」 「うん?私がか?」 「いや、当真はまだしもカゲまで…」 「ああ、そういうことか。なに、刺さるものが無いから居心地がいいんだろう。ここのソファも大きいことだし」 いまいち納得していないような顔をした荒船を見て、朔は笑った。 場所は特別開発室、彼女の城である。 来客用に設置された大きな二つのソファは、二人の高校生によって占拠されていた。一人はアイマスクをして仰向けになっており、上下黒い服を着たもう一人は横向きに寝ている。 荒船からすれば二人ともタイプは違えど非常に扱いにくい人物だったので、朔がとんでもない奴に思えたのだ。当真は猫、影浦は黒豹だと考えれば、その思考にも納得できよう。 しかし、ここで彼は一つ失念している―… 岸川朔が当初噂となった原因は、城戸司令に大胆不敵にも交渉を持ちかけたからだという事を。 「荒船くんは二人のお迎えかな?」 「ああ…ここに来れば当真くらいはいるかと踏んだんだが、手間が省けたな」 「それは良かった。 君達は後はもう帰るだけかな?」 「?ああ…それがどうかしたのか?」 尋ねられた意味が分からなかった彼は、疑問に疑問で返す。すると朔は、相変わらず化粧っけのない綺麗な顔に笑みを浮かべた。 「なに、途中まで私もご一緒させて頂こうかと思ったのさ」 その言葉に合点のいった荒船は、軽く了承の意を返す。彼女もまた、自分達と帰路を同じくすると知っていたからだった。 そうと決まれば、ラウンジに待たせている鋼や穂刈の為にも早く二人を叩き起こすべきである。そう判断した彼は、容赦なく同級生の頭をはたいた。広い部屋にその音が大きく反響すると同時に、呻き声が二つ聞こえる。 その様子を見ていた朔は、楽しそうにカラカラと笑った。 「いってー…止めてくれたって良かったんじゃねえの?朔ちゃん」 「ええ?ふふ、悪いな」 「てめえ、荒船!手加減しろ!!」 「あ?寝こけてるおまえ等が悪いんだろうが。二人とも先にラウンジで待ってんぞ…朔さんも居るんだからサッサとしろ」 「え、朔ちゃんも一緒帰んの?」 荒船の言葉に、今まで寝ていた二人の視線が朔の方を向く。彼女のイスに掛けられていた薄手のトレンチコートはその腕にかけられているし、鞄もデスクの上に置いてある。帰宅する準備は既に整っていた。 その様子を見て、当真と影浦もソファから離れて支度を始める。流石に部屋の主が帰るとなれば、占領していた立場としては忍びないものがあったのだろう。村上や穂刈と合流するまでに、大した時間はかからなかった。そんな二人を見ると、荒船はやはり思うのである。 やっぱりこの人は動物使いだ…と。 さて、ラウンジに居た二人と合流して大人数となった時、彼等はいつものように地下通路へと向かおうとした。 ボーダー本部自体は警戒区域内にあるが、その地下通路さえ通れば警戒区域に出ることもない。何とも便利なものである。 だが、今日はここで朔からストップがかかった。なんと、彼女は警戒区域を歩きたいと言うのだ。 「朔さん、今はもう暗いし危ない。やめた方がいい」 「鋼の言う通りだな。いくら俺たちが居るとは言え…」 「なんだ、君らはバムスター一体にも手こずるような奴なのか?」 「…なんでバムスターって分かるんだ?」 「良い質問だな穂刈くん。 俺のサイドエフェクトがこう言ってる、だそうだよ」 「お〜迅さんか!じゃあ間違いねぇな。 良いんじゃねえの?なあカゲ」 「知るか。俺はあの部屋で寝かせてもらえりゃ何だって良い」 「いや、あのな…」 「ふふ、荒船くん。 そうだな…一緒に来てくれたら最高に面白いものが見れるぞ」 結局、一行は警戒区域を途中まで歩いていくこととなった。 最後まで渋っていた荒船も、朔の言葉の魅力には負けたようである。なんせ、彼女が「最高に面白い」と言う時は、決してその言葉が外れたことは無いのだ。勝てるはずもなかった。 所々しか街灯が付いていないせいか、空に浮かぶ星が心なしか明るく見える。まばゆいそれらの下を歩きながら、彼らは談笑していた。 「いやー、生身で警戒区域歩くって新鮮だな」 「確かにな。こういう所は専らトリオン体でくるからな」 「そういえば今日の防衛任務誰なんだ?」 「諏訪さんとこだ。レポート仕上げたかったのに、て嘆いてたぜ」 「おや、それは分野によっては私が協力できるかもしれないぞ」 一人会話には加わっていなかったが、背中を丸めて歩きながらも確かに会話に耳を傾けていた。時に繰り出される馬鹿な内容に、鼻で笑う様子も見られる。それに目ざとく気が付いた穂刈や当真がちょっかいを出したりと、一行は騒がしく道を進んでいた。 ―と、その時、けたたましいサイレンが鳴る。 彼女の話によると、迅はバムスターが一体出てくる未来を見たらしい。相手がわかっている上に実力派の強者がそろっているので、突然の警戒音に慌てふためく者など誰もいなかった。 彼等が一斉にトリオン体になろうとして、自身のトリガーを手にして口を開く…… …それよりも先に女性然とした声が、その言葉を紡いだ。 「―…トリガー、オン」 [*前へ][次へ#] [戻る] |