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二次創作/夢
精神攻撃性抜群メンバーズ











遠い目した絲が市街地のはるか上に広がる青空を眺めていると、米屋がおっチーム割り終わったみてーだなと声を上げた。その視線の先には肩を落とした者もいれば嬉しそうな者もいる。米屋は形のいい額に手を当てて集まっている各チームを眺め、ほー成程面白えチームになったなと楽しそうに体を揺らした。


「これって何チームに分かれてるの?お二人さん」

「ああ、三チームっすよ。見た感じ、俺は嵐山さんのチームで歌川と鳩原先輩がいるっぽいな…中々強いんじゃね?」

「オ゛」

「地味に弾バカのチームバランス良いよなあ、俺んとこすげえ尖ってるぜ?太刀川さんだろ、荒船さんだろ、三浦だろ、んで俺。弧月使いしかいねーし」

「キ゜」

「何だ今の音?」

「知らね」

「いや…待って…待つんだ」

「え?」

「どうしたんすか?絲さん」

「いやどうしたもこうしたもないが?嵐山さんって言った?」

「そっすね」

「しかも今太刀川さんとも言ったよね?個人総合1位の?何でいるの!?」

「最初俺が誘われてたんすけど、それを聞いて“こういう楽しそうなイベントに俺が参加しねー理由ないだろ!”って東さんに売り込みかけてましたよ」

「あー言いそう」

「あー言いそーじゃないんだわ米屋お前!!!」

「ウケるw」


こちとらチーム戦初心者マークバブちゃんやぞ。舐めとんのか。
心の中のヤンキーに従うままニヤつく米屋をガクガクと揺さぶる。力の限り揺さぶっているのに表情が笑顔で怖かったので、絲はソッと手を離して米屋から距離を置いた。出水は出水で、その様子を見ても特に構うことなく話の続きを語り始める。フリーダムだな。


「まあ太刀川さんを誘うつもりがなかったらしい東さんに断られて、最終的にすげえ駄々こねてました。きなこ餅の乱を起こすとかなんとか」

「太刀川さんも懲りねえな。ガッツすげえ」

「そんなもん駄々こねさせときゃ良かったじゃん……OK出すなよ……」

「太刀川さんの本気の駄々こね、舐めちゃダメっすよ」

「A級一位部隊の隊長がそれで良いのか?おいこっち見ろよ、おい……」


フッと無駄なキメ顔で言われたが、何もかっこよくない。きなこ餅の乱って何?懲りないって何?何やらかしたの?強さの代わりに人間性投げ出したの?と出水に尋ねても、目を逸らすばかりで答えはない。
まあバトルジャンキーと名高い太刀川は味方なら死ぬほど心強いが、オペレーターの並行処理の負担を考えるとチームは四人が普通だ。しかし先程聞いたところによれば、米屋のチームも出水のチームも四人揃っている。つまり太刀川は敵だ。なんてことだ。チーム戦初心者にはハードルが高過ぎる。センブリ茶を飲んだみたいな顔をしていたのか、米屋と出水がまたしても絲を見てダハハと笑っている。人の不幸を笑うな。

ウォォと頭を抱えているとおーいと爽やかな声がした。誰だ…と顔を上げると、絲の目にミラーボールが映る。ギュッと目蓋をたっぷり五秒は閉じて、再び目を開いた。やはりミラーボールだ。


「ハ?」


ビッカビッカと回転するそれを頭上に掲げた隊服を着ている。絲はボーダーに入る前からその男を知っていた。なにせ、あのはた迷惑な同級生がボーダーに入ろうと思い立った会見の中心人物である。三門市民であれば知らない人はいないと言われる嵐山准―その彼がにこやかに近付いてきてるのはいい。
それは良いのだが、頭上で目映く光を乱放射しているあのミラーボールは何なのか。よくよく目を凝らすと、ミラーボールの下にどっしり構えている横長の数字が見える。9万1500と見えるそれは、どうやら彼の数値らしい。まさかあのクソどデカいミラーボールはエフェクトだというのか。何?お祭り男なの?


「出水、チーム分けは終わったぞ!これからチームミーティングを挟んで模擬戦だ」

「了解でーす」

「それと…君が志島さんか!よく賢から話は聞いてる。迅も色々言ってたし、楽しみにしてたんだ!今日はよろしく」

「初めまして、志島です。こちらこそよろしくお願いします。
あの…佐鳥は分かるんですけど迅さんは一体何を…」


テレビで見るのと何ら変わりない笑顔で挨拶をされ、絲はお祭り男という印象を即座に破り捨てた。この人は多分眩しく仰がれる人(・・・・・・・・)だ。いつも光を浴びているということの現れなんだろう。それにしたってデカいミラーボールだが。
しかしミラーボールの謎が解けると、嵐山の口から出てきた迅のことが気に掛かる。迅はたまに休憩中の絲の所へフラッとやってきて、何でもない話をしながらぼんち揚げを差し出してくる人だ。実力者であると風間から聞き及んでいる通り、戦闘ログでは太刀川や風間と楽しそうに切り合っているのを見た覚えがある。正直浅い仲といえば浅い仲なので、一体嵐山が何を言われたのか見当がつかない。


「迅曰く“この模擬戦を面白くするのは志島ちゃんだよ”、だそうだ!」
 
「おっ、迅さんが言うなら確かだな!行きましょ、嵐山さん」

「ああ!それじゃあまた後で」


いや何も分からん。謎しかない。
嵐山は言うだけ言って白い歯を見せつつ出水と共に去っていった。その2つの背中をぽかんと見送って、隣の米屋に意味分かった?と尋ねる。すると意外そうな顔で見てきたので、絲はますます頭をひねった。


「そっか、志島さんまだ入って浅いから知らないのか。サイドエフェクトっつって分かります?」

「ああ、カゲの…」

「そうそう。迅さんも持ってるんすよ、未来視っつー超ヤベエやつ」

「へえ、成程。じゃあ嵐山さんに迅さんが伝えたのは未来の私の話ってことか」

「大正解ー」

「ワー」


米屋の説明を聞いてやっと腑に落ちる。未来視なんてまたトンチキなもんが出てきたなと思わないでもないが、身近に影浦という感情受信体質のサイドエフェクト持ちがいる。そういう色目で見られると大変だろうな、カゲなんか我慢できずに暴れてるしな…と考えていると、横から視線を感じた。


「どうした?」

「いや、未来視って言って志島さん全然驚かなかったんで」

「……まあ、身近にカゲがいるしね。サイドエフェクトっていうんならまあ有り得なくはないかなーと」

「へぇ。まあそんなもんか」


米屋の指摘にドキリとしながら無難な答えを返す。それ以上掘り返されなかったので、絲は内心ホッと胸を撫で下ろした。確かに未来視なんていくらサイドエフェクトとはいえチートすぎるし、驚くのが普通だろう。ところがどっこい、絲の視界はそれに負けず劣らずのビックリワンダーランドなのだ。正直数値にいつもビビるわ驚くわでこれ以上日常的に驚きようがない。まあそんなことを米屋に言う訳もなく、適当にそれっぽい言葉で誤魔化したのだ。

影浦からサイドエフェクトの話をされた時、絲はもしや自分のこの視界もサイドエフェクトなのでは?と疑った。しかし「物・人の強さや諸々が合算された数値が見える」だけならまだしも、「数値のフォントや動き、エフェクトにより心情や性質を把握できる」なんて盛り過ぎだ。ランクはおろか超感覚、超技能、特殊体質、強化五感のどれに当てはまるのかすら分からない。というかよく出入りしている開発室の面々にこの件についてバレたら、丸三日は不自由を強いられること間違いなしである。トリオン研究に余念のない彼らは、常日頃から爛々とした目の下に濃い隈を携えて研究をしているのだ。悪い人たちではないのだが、その矛先が自分に向くのは御免である。実験体になりたくはない。そのため不用意な発言は避け、この不可解な視界に結論付けるのを先送りにしているという訳だった。

そういえば自分のチームメイトは誰なんだろうと絲が軽く辺りを見回すと、見覚えのある黒い隊服が目に留まった。絲が心底対峙したくない男・太刀川その人である。太刀川も絲の視線に気が付いたらしく、おっ!と楽しそうに声を上げてズンズン近付いてきた。それと同時に絲の喉がヒュッと狭くなり、隘路を通った空気が変な音を立てる。防衛本能がガンガンと警鐘を鳴らしていた。


「ハッヒョ」

「お前が志島か!東さんから聞いてんだ、色々楽しませてくれよな!」

「…………ハイ、こちらこそォ゜」

「よっしゃ、米屋!作戦立てようぜ作戦、荒船がいいの考えてくれるってよ」

「おー了解っす。じゃ、志島さん模擬戦で」


戦うのが楽しみで仕方ないのだろう、太刀川は妙にウキウキしながら米屋の肩に手を回して去っていく。絲のか細くひっくり返った返事には微塵も気に留めていないようだった。固まる絲の視線が向かうのは、太刀川の肩にずっしりと構えている数値。その値は22万(・・・・・・・)。

(東さん超え―……!!!!??)

あの年不相応に老獪な雰囲気を漂わせる男とはまるで違う。ログからして前線で戦況をひっくり返すタイプだとは思っていたし、その実力を疑ったこともない。しかし限界値だと思っていた20万を2万も超えているとはどういうことだ。絲はあまりの衝撃にぽかりと口を開けて黒い背中を見送った。
太刀川の数値が高い理由として、純粋な戦闘力以外に誰とでもランク戦をするという戦うことへの奔放さが大きく絡んでいる。ノーマルトリガー最強の名を未だ冠する現本部長・忍田真史を師とし、戦闘センスが花開いた彼は戦い強くなることに楽しさを見出した。すべての熱量が戦闘に注がれた結果、少しでも面白そうと思えばすぐにランク戦を吹っ掛ける戦闘バカになったのである。そのため太刀川の実力を身を以て知っている人がボーダー隊員の大半を占め、彼らの畏怖や尊敬が数値を爆上げした結果が22万という数値なのだが―絲にはそれを知る由もない。


「おーい、志島ちゃーん?」

「…」

「もしもし志島ちゃん、カワイイお口が開いとるで」

「ング」


ようやっと正気に戻ったのは、いつの間にか絲の隣に立っていた生駒に顎をそっと押し戻された時である。そろりと師匠の方を向けば、ウキウキしてお尻(?)を振っている数字が目に入った。ぷりぷりしてて可愛い。いつも通りといえばいつも通りのその様子になんとも言えず固まっていると、生駒の淀みなく続く言葉の波に襲われた。


「いやーいつまで経っても来んから迎えに来てしもたわ。あんな、驚くことに俺らのチーム、同じ隊のが二人おんねん。スゴない?偶然やで?」

「おお…」

「しかも隊長が二人揃っとってどっちが隊長やるか揉めるんちゃうかと心配しとったんやけどな、満場一致で俺じゃない方に決まったんよ。スゴない?まあ俺もそう思うんやけども」

「ほお…」

「志島ちゃん聞いとる?」

「あ、はい」


とりあえず生駒がチームメイトであることは分かった。そして他のチームメイトは分からなかった。しかし自分が相槌を打たずとも続く生駒の話はいつも通りであり、それが今はとても有り難い。そして実力者の生駒が同じチーム、かつもう一人隊長が居ると聞いて心底安心した。もしその隊長とやらが精神安定剤(諏訪さん)なら言うことなしである。
ほな行こかと生駒に促されてその頭上を見ると、8万3000の数がヤッタ〜と言わんばかりに花を散らしながら踊っていた。知らぬ間に師匠への好感度が1000もアップしていたらしい。今日もキャッキャとはしゃいでいる生駒の数字に心癒され、絲はここでやっと模擬戦頑張ろう…と思えたのだった。











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