二 許しを請う必要はなくて
「つまらない、つまらない。ああ退屈すぎて死んでしまいそうだ。」
寝室の大きなベッドの上で彼は嘆いていた。
青年はわざと手を抜いて殺さなかったのだ。
そんなことは無かったかのように青年は涼しい顔で黙々と林檎の皮を剥いている。
「なんで。」
手を止めて呟いた。
「なんで貴方は怒らないんですか。」
「何を怒ったらいいんだ。」
彼はあくびをしてから林檎の皮をもそもそと食べ始めた。
「たまに貴方に仕えていていいものか、本当、考えちまいますよ。」
やれやれ、と切り終わった林檎を皿に乗せていく。
残った芯とナイフを置くと、ベッドの縁に腰掛けた。
「で、何だって。」
「主を殺そうとした執事に罰を与えなくて、それこそ殺さなくていいのかと聞いてるんです。」
「ああ、そういう。」
納得したようなしないような、曖昧な返事。
林檎の皮も食べたことだし、と実の方に伸ばした手はピシャリと叩かれた。
皿も、取り上げられた。
「言うまで食べさせませんぜ。」
しばらくの沈黙の後、仕方なさそうに切り出した。
「この家は貧乏だから、お前と給仕3人しか雇えない。それに俺の身内は散り散り、頼る当ても無い。まあ、付き合いも長いし、一種の情ってやつかもしれないな。」
「ふぅん。」
回答に満足はしなかったが、皿を戻すと彼はすかさず手を伸ばして林檎を貪りはじめた。
「貴方はそう、小さい頃から意地汚かった。」
「三つ子の魂百まで、って言うからな。」
「自分で言ってちゃあ、しようがないねえ。」
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