一 従者は主を赤く染めて 赤 を 主 は 者 従 く 染 め て 「あ。」 つい、と白い指を伝い落ちる赤。 傷は意外に深かったようで、じんじんと鈍く痛んだ。 「血、止めないんですかい。」 「嗚呼。」 返された言葉は呼びかけに対しての返事ではなくて感嘆詞。 手のひらにまで流れてきた血をうっとりと眺める彼は、熱に浮かされたかのように呟いた。 「綺麗だ。」 それを聞いた青年は鼻先でせせら笑った。 「もっと見たいですか。」 「いいや」 急に冷めた返事。 「此で十分」 なんだ、と青年が残念そうな顔で溜息を一つ。 「必要だったらいつでも言ってくださいよ。すぐにでもお見せしますからね」 「そう言って。俺のことが憎いから、ついでにって腹だろう」 「いいや、そんなことは」 手を胸に当て膝を突き、頭を垂れた。 青年なりの忠義の姿勢らしかった。 「暇があったら、寝首を掻くといい」 そう言って背を向けた彼の目は、穏やかで優しいものだった。 「では」 赤い飛沫が宙を舞った。 次へ |