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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story132 深まる闇

落ち着かない・・・

だって、マーシャがなかなか帰ってこないから。

あれから何分たっただろうか。

落ち着くにも落ち着いていられない。

『リオナ・・・・マーシャならきっと大丈夫だって』

シキはそんなリオナを見て、
若干あきれながらお茶を飲んでいる。

「・・・・そうかな。マーシャ、昔からカッとなるとすぐに手が出るから・・・・ルナにもしもの事があったら・・・・・・・・」

『なんだ・・・・そっちの心配か。』

なんだとはなんだ。

まったくシキは呑気なんだから。

それにしても、本当に遅い。

まさか、ルナを殺して・・・

「・・・・やっぱ俺、マーシャを」
「その必要はないよ、リオナ」

すると、
部屋の襖が開き、
更夜が戻ってきた。

マーシャとルナの姿は見えないが。

「大丈夫だよ。マーシャもルナも、ちゃんと仲直りしてたから。」

「・・・・本当?!」

「本当だよ。」

「はぁ・・・・よかった」

リオナは安堵のため息をつき、
ようやく腰を下ろした。

『・・・・だから大丈夫だって言っただろう』

「・・・シキの大丈夫は適当すぎだった。」

『失礼だな。』

とにかく、本当に良かった。

思わず顔が綻ぶ。

「へぇ、リオナも笑うんだ。」

すると更夜が顔を覗き込んできて、
ニコリと笑った。

この笑顔、
少し怖い。

「あのさ、リオナに見せたいものがあるんだ。一緒に来てくれる?」

・・・・見せたいもの?

突然だな。

それになんだか、少し怖い。

「・・・俺だけ?」

「そう。リオナにだけ。特別にね。ついておいで。」

そう言って更夜は部屋を出ていってしまった。
どうしようかとシキに目配せするが、
シキは「賢者に逆らうな」とでも言いたげに手で払い、
庭を楽しげに歩き回るシュナの元に行ってしまった。

シキの馬鹿‥‥

リオナは仕方なく、
戸惑いながらも更夜の後を追った。





この屋敷は本当に広い。

きっとここに1人放り投げられたら、
先ほどまでいた部屋に戻ることができないだろう。

更夜はある部屋の前までくると、
リオナに部屋に入るよう促した。

嫌だなぁと思いながらも、リオナは襖を開け、
中に入る。

するとその瞬間、
ぶわっと風がリオナの体を突き抜けた。
それと同時に、
目の前に巨大な木が目に入る。

部屋の中に‥‥木?

なんとも不思議な光景だが、
そんな事を忘れさせるくらい、
その光景は素晴らしいもので‥‥

「うわぁ‥‥」

枝の先には満開の薄紫色の花が咲き誇っており、
思わず見入ってしまうほどに美しかった。

今まで見てきた花よりも神秘的で、可憐。

しばらく言葉が出なかった。

「美しいだろう?」

「‥‥うん。これは‥」

「これは一般に“桜”と言うんだ。でも、この桜は少し特別でね。本来、桜というのは薄紅色であるのが普通なんだよ。」

「‥‥この桜は、色が違うな」

「そう。何でだと思う?」

何でと言われても‥‥さっぱりわからない。

「ははは。分かるわけないよね。」

だったら聞くな‥‥
と言ってやりたい気持ちを抑える。

「試しに、その桜に触ってご覧。」

「‥‥これに?」

「ああ。きっと、君なら触れば分かる。いや、君にしか分からない。」

意味不明な言葉に首を傾げながらも、
リオナは桜に近づいた。

気のせいだろうか。

この桜は木の幹から花びらの先まで、
薄い光の膜みたいなものが張られている気がする。

恐る恐る手を伸ばしてみる。

ピタっと指先が木の幹に触れた時、
不思議なことが起こった。

「‥‥‥‥!?」

ドクン‥‥ドクン‥‥ドクン‥‥

木の幹から規則正しい鼓動が伝わってくる。

いや、伝わるどころの話じゃない。

その鼓動にリオナの体が反応し始めたのだ。

まるでリオナの体に全てが流れ込んでくるかのように。

身動きが取れない。

言葉も発せられない。

何も、感じられない。

「やっぱり‥‥君で間違いない。」

更夜の言葉が耳に入るが、
何にも反応できない。

ただ分かるのは、
更夜が喜びに震えている事くらい。

なぜ‥‥喜んでいるんだ?

とにかく、早く解放されたい。

このままでは、意識までもが‥‥

「ああ、ごめんリオナ。」

すっかり忘れていたかのように、
更夜はようやくリオナを桜から切り離した。

「‥‥!!!」

突然離されたリオナは、
足に力が入らず、その場に座り込んでしまった。

‥‥何だったんだ‥‥一体‥‥‥‥‥

「この桜の木は、自然に出来たものじゃない。」

更夜はニコリと笑うと、
リオナを抱き上げ、耳元で囁いた。

「この木は、“神”が生み出したんだ。」

ゾワッとした。

身の毛がよだつとはまさにこのことか。

「僕が“賢者”になった日に、神が置いていった土産だ。まったく、神はどこまでも勝手だよ。」

「‥‥あんたは、神の使者だろ。なんでそんな風に言うんだ?」

賢者とは、神を称え、崇める存在ではないのか。

すると更夜はリオナの言葉にまたニコリと笑った。

でも、どこか悲しげなのは気のせいだろうか‥‥

「リオナ‥‥君には耐えられるかな」

「‥‥なにを」

「一族を殺した奴に、永遠に仕える事にさ‥‥」

どういう‥‥ことだ。

これじゃあまるで、神が更夜の家族を殺したとでも言ってるようだ。

いや、もしかしたら‥‥

「たぶん、リオナが思っている通りだよ。」

「‥‥」

「僕はね、神に一族を殺され、その代償として賢者となったんだ。なりたくてなったわけじゃない。」

「・・・なんで神はそんなこと」

「これを話すと長くなるから、簡潔に話すけど、僕には兄がいたんだ。その兄が突然化け物みたいになってね、暴れ出したんだよ。そこに神が現れた。一族の命を代償に、化け物になった兄を救うと。でも神がやったことは僕の想像したものとは違った。神は一族の命を神の力とし、僕の体に一族の命全てを宿した。そう、賢者として僕に兄を殺させたんだ。」

笑顔でそう言う更夜に、
リオナは何も言えなかった。

この笑顔に隠された妬み、憎しみを垣間見てしまった気がして。

「僕は賢者として神に仕えていられたのは、そうするよう体にインプットされていたからさ。でも、神が居ない今は、自由も同然。」

かつての主である神を5つの玉"ローズ・ソウル"に封印する手助けをしたのは賢者である更夜だ。

世間は彼の取った行動を「ただの気まぐれだ」と言ったが、
本当は気まぐれなんかじゃない。

その行動にこそ、彼の本心が隠されていたんだ。

「神は僕が寂しくないようにと、神の力を込めたこの桜を置いていったが、こんなの僕にとってはただの楔にしか見えない。この桜が枯れない限り、僕はこの世に存在し続ける。永遠にね。でも、少し状況が変わった・・・」

そう言って、更夜は俺の手を掴む。

そして、俺の前に跪いた。

「君が僕の・・・いや、世界の救世主だよ。」

この時、更夜の言葉とフェイターの言葉が重なった。

“・・・リオナは神になるんだ。”

その瞬間、俺は思い切り更夜の手を振り払っていた。

恐怖と、嫌悪で吐き気がする。

「・・・・・・何が目的だ」

こいつも・・・フェイターと一緒なのか?

リオナは赤い瞳を細める。

「率直に言うと、君に神を完全に消滅させて欲しいんだ。」

「・・・本当にそれだけか?」

殺気を見せると
ニコリと笑っていた更夜の顔から笑顔が消えた。

まるで感情なんて持ち合わせていないとでも言うかのように、
ひどく冷めた表情をしている。

「鋭いね。これだから君は侮れない。」

ようやく、更夜の素顔を見た気がした。

更夜は立ち上がり、リオナに背を向ける。

「僕は死にたいんだよ。」

「は・・・・・・なんで」

「さっきも言っただろ。僕には何千もの命がある。だから僕は死ねない。」

彼が言葉を発するたびに、風が巻き起こる。

まるで、呼応するように。

「君には、永遠に生き続けるこの辛さが分からないだろう。」

わからない・・・わかるはずもない。

でも、結局、俺だって不老の身。

長く生きる事になれば、実感することがあるかもしれない。

だが、想像くらいはできる。

永遠に生きる事がどれだけの苦しみを伴うか・・・

「・・・神が完全に消えれば、あんたは死ぬのか?」

リオナは殺気をしまいこむ。

「ああ。神の呪縛から解き放たれるからね。もちろん、ルナもだ・・・」

「ルナも・・・それを望んでるのか?」

「わからない。ただ、彼女は分かっている。時がきたんだと、ね。」

そう言って、更夜は寂しげに笑った。

本当は、彼にももっと違う生き方があったはずだ。

それを考えると、苦しくて仕方が無い。

「・・・・・・わかった。俺が絶対に、神を消滅させてみせる。」

それで、更夜とルナが救われるのなら・・・

「リオナ・・・」

ふとその時、更夜の瞳が揺れ動いたのをリオナは見逃さなかった。

まだ何かを、隠しているような・・・

「やっぱり、君には、本当の事を言っておきたい。」

ためらうように口を開く更夜に、
嫌な予感しかしない。

「僕が君に、君だけにこの桜を見せ、神を消滅させて欲しいと願い出たのには理由がある。そして君を救世主と言ったのには訳がある。」

「・・・・・・なに?」

「神を倒せるのは、マーシャでもビットウィックスでもない。君だけだ。」

「え・・・?」

どういうことだ。

マーシャもビットウィックスも俺より強い。

なのになんで・・・

「それはね・・・リオナ、君が“神の器”だからだよ。」

まただ・・・また、こんな戯言を。

「・・・・・・悪いけど、俺は神の器なんかになる気はさらさら無い。」

「君が器になるならないは関係ない。もう、生まれたときから決まっていたんだ。」

生まれたときから、俺が“神の器”だって?

ふざけるな。

こんな話誰が・・・

「信じられないよね。でも、さっき、答えは出た。」

「・・・・・・!」

「あの桜の木に触った時、君は桜に吸い寄せられていった。それは君が“神の器”であるからだ。僕が近寄ってもほら・・・何も起こらない。」

更夜は桜の幹に触れ、ニコリと笑った。

今ほど、この笑みが腹立たしいと思った事が無い。

「・・・なんで、なんで俺なんだよ。なら双子のウィキもその器とやらだったのか?」

「ううん。ウィキは違う。だから、君だけなんだって。だって、君は・・・・・・」

更夜の手が伸びてくる。

その瞬間、脳が危険信号を出し始めた。

こいつの言葉を聞いてはいけない。

耳を塞げ、目を閉じろ。

頭がそう訴えている。

でも、体が言う事をきかない。

それは恐らく、更夜の目が真実を語っているから。

もう・・・・・・逃げられない。

そして更夜は、リオナの頬に触れるか触れないかの直前でこう呟いた。

「だって君は、ルナが生み出した“人形”なんだから。」




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