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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story65 アイシテルからサヨウナラ






カラーカウンティー



この国の住人は
色を自在に操る能力に長けており

年に一度の芸術祭に向けて日々鍛練を積んでいる。


大陸は違うが
ミュージックカウンティーでは音楽祭をやるという風習が似ていることから
姉妹都市として交流がふかめられている。


そのため芸術祭と音楽祭は両国の合作と言ってもいいだろう。


普段この国は芸術祭のシーズン以外は中々観光客も訪れず
閑かな国として知られてはいたが、
今は異例の事態が起きていた。


原因は
隣国であったUWの爆破。


そのためUWの住人達が助けを求めて押し寄せていたのだ。


おかげでカラーカウンティーは商売繁盛に加え
シーズン別人気観光地ランキングに初めてランクインしたらしい。


普段働き者のUWの人々は、
久々の休暇だと言って楽しんでいるものも多かった。


だがそんな中
確実に楽しそうでない3人の男たちがいた。


その者達は人が行き交う広場のベンチに腰を掛けていた。


1人はまだ幼く
その少年を挟むように座るあとの2人は確実に成人している。


3人は何をしているかというと
空をただ見上げ
何度もため息を吐いているだけ。


だがそれに飽きた金色の髪をした男が
胸からタバコを取出し
口に加えて火を点けた。


そして思い切り空に向かって煙を吐くと
その煙を少年は興味ありげにじっと見つめていた。


「おいジーク。俺にも一本くれ。」


すると赤毛のボサボサ頭の男も
興味有りげというべきか物欲しげに呟いた。


「なんだマーシャも吸うのか。」


「あんまり吸わないようにはしてたんだけどな。吸うとリオナも吸いたがるから。クロードはそんな大人になっちゃダメだぞ?あっ、アイス屋がきてるじゃん。クロード、スキなの買ってこい。今なら何段重ねでも許す。」


「うんっ」


茶髪のこれまたくせっけの少年にお金を渡すと
マーシャもタバコを吸いはじめた。


「それにしてもひどい損害だなぁ。」


「・・それはUWがか?それとも少年と少女がか?」


「両方だよ、両方。あれから1週間以上たつのにニュースは未だにUWの話で持ちきりだ。ムジカは泣きっぱなしだし、リオナは・・・」


言葉を濁すマーシャ。


だがジークは何も言わずにもう一本マーシャにタバコを渡した。


「リオナは・・振り出しに戻った。」


「振り出しとは?」


「俺が初めてリオナに出会った時だ。あの頃のリオナは顔にも態度にも感情を見せないでただ冷たい目をしてた。何にも映し出すことがない瞳には光が無かった。まるで心が無いみたいにな。今のリオナはまさにこれだ。昔に戻っちまった・・」


「・・マーシャ。あまり気に病むな。お前のせいじゃない。たまたま少年には不幸が重なったんだ。」


「たまたま?たまたまなんかじゃない・・」


マーシャははじめのタバコを握り潰し
膝に肘を突いて頭を抱えた。


「あの時俺はなんて事をしたんだ・・。カイなんかを追っかけないでリオナとムジカの元にちゃんといたらあいつらが傷つけなくて済んだのに・・あいつらのあんな苦しげな表情を見なくて済んだのに・・」


「・・・・・マーシャ」


「俺は結局何も守れてない。十年前、リオナの親父と約束したのに。俺はまた同じ事を繰り返しちまったんだ・・。」


今にも血が出そうなくらいに強く握りしめられている手を
ジークはそっと離してやる。


「・・・マーシャも十分被害者だ。それにそう思うなら悔やむ前に何か策を考えろ。少年と少女が元気が出るようにな。」


「・・なるほどね。あっなんか少し元気出たかも。」


「単純な奴だな・・。」


2人は二本目のタバコに火をつる。


「でもよぉ、結局ローズ・ソウルはどこいったんだろうな。」


「さぁ?だがフェイターも手を引いたくらいだ。UWからすでにどこかの国に移された可能性が高い。」


「んだよぉ〜。無駄足だったか。」


すると向こうからアイスを持って嬉しそうにクロードが駆けてきた。


「走ると危ないぞ。」


そう言われてクロードは早歩きでマーシャ達の元に戻り
2人の間に座った。


そしてもう一度目を輝かせてアイスをまじまじと見つめている。


「三段にしたの・・・」


「えーっと上からチョコ、ミント、オレンジ?あーあチョコとオレンジは味的に合わないのに。」


マーシャのそんな言葉も気にも止めずにクロードは舐めはじめる。


マーシャは子供はいいなと呟きながら
大人の特権であるタバコを吸って吐いた。


「ああそうだ。ルナの捜索はどうするのだ?」


ジークが言いださなかったらすっかり忘れるところだった。


「でも行き先も犯人も分からないんだぜ?せめて脅迫状みたいなのでもくれればいいのになぁ。」


「きょーはくじょー・・・?」


「そう。"ルナを返して欲しければ今すぐ金を持って○○へこい!さもなければ殺すぞ!"みたいなやつ。」


「まぁ確かにヒントがほしいな・・・。だがそういった脅迫状すら無いということはもしかしたら犯人はルナを返す気が無いのでは?」


すると突然クロードは体をビクッさせ、ジークをゆっくり見た。


「・・・お姉ちゃん・・・帰ってこないの?」


不安げな表情をするクロードの綺麗なグリーンの瞳が陰る。


だがそんな不安を打ち消すように
ジークが立ち上がった。


「大丈夫だ。私に任せなさい!!なんて言ったって私は天才だからな!!クハハハハ!!」


「おい。恥ずかしいからやめろ。せめて座ってくれ。」


マーシャの制止にぶつぶつ文句を言いながら座りなおした。


「せめて犯人がわかればなぁ。クロードは何か覚えてないか?」


「・・うー」


クロードは目をつむって必死に考える。


「どこかで見たことある人だった・・・・・悪いイメージはないんだけど」


「それは本当かっ!?」


「うん・・・でも誰だったかなぁ・・・」


クロードの知り合いかもしれない・・・か。


マーシャは少し考えてみるが、すぐにやめた。


なぜならクロードは見た目は六歳だが生きてきた年数的にはリオナと同じくらいであるからだ。


だがなぜクロードの成長が止まったかは未だになぞのままだが。


「まぁ、クロードがそういうなら、きっと悪いやつじゃないんだろう。片っ端から探すしかないか。」


「そうだな・・。とりあえず聞き込みから・・」
《ぉーい!!!!!!!》


その時
遠くの方からB.B.の声が聞こえてきた。


「あ?B.B.か。なんだよそんなに急いで。」


B.B.はハァハァ言いながらマーシャの膝に着地した。


《大変なんだよぉ!!ムジカとリオナがケンカしはじめたんだ!!しかもホテルの部屋ぐちゃぐちゃ!!!》


「なんで!?なんでケンカはじめたんだよッ!!?」


《それは行きながら説明するのだ!!だから早くぅ!!》


「わかった。ジークはクロードの面倒見ててくれ。」


「任せろ。」


そう言ってマーシャはB.B.を頭に乗せて賑わう町を苦い表情で駆け抜けた。


「で?なんでケンカはじめたんだよ。」


《それがわかんないっていうか・・》


「わかんないって?」


《今日もリオナ朝からずーっとボケェってしてたじゃん。そんでオイラ部屋の隅で1人で遊んでたの。そしたらリオナが急に立ち上がって部屋出てっちゃうんだよぉ!それで急いで追い掛けたら隣のムジカの部屋に行っちゃってさぁ・・》


「リオナが何か言ったのか?」


《うん・・。"うるさい。いい加減泣くのやめて。耳障り。"って言ったんだよ!!》


まさかあのリオナがそんなことを言うなんて。


マーシャは唖然としてしまう。


「なんだか怖いな。」


まるで今まで知っていたリオナじゃない気がして。


そんなことを思いながら
自分達が泊まるホテルに到着した。


緊張した面持ちでエントランスを抜けて
エレベーターに乗り、部屋がある11階に向かう。


だが
エレベーターから降りると
すぐに事態の大変さがよくわかった。


なぜならムジカの部屋の前にホテルのボーイが数人いて騒がしくしていたから。


そしてボーイ達は保護者であるマーシャを見るとすぐに駆け付けてきた。


『お客様!!!困りますよ部屋を壊されては!!』


「え゙!あいつら部屋壊してんのかよ!!!!」


確かに廊下の端まで物凄い音が聞こえてくる。


「すみませんねぇ。いつもはこんな事する奴らじゃないんですが。今すぐ止めるんで。」


そう言ってマーシャは猛スピードで廊下をかけぬけ部屋に入る。


しかし部屋は思った以上にひどかった。


窓ガラスは割れ
机は粉々になり
布団は綿が飛び出していた。


唯一よかったのは
もう投げるものが無くなったらしく
リオナとムジカが黙って座っていたことだ。


「こら!!お前らなに喧嘩してんだ!!!」


マーシャはリオナとムジカに一発ずつ頭を叩く。


リオナはもちろん反応しないが
情緒不安定なムジカはまた泣きだしてしまった。


そのせいでまたリオナがムジカを睨む。


一体リオナはどうしたのか。


今までムジカに対して怒ることはしばしばあったが
こんなに冷たく当たることはけしてなかった。


もちろん彼の性格からは考えられない。


マーシャは複雑な気持ちを抱えながらも
とにかくリオナとムジカを離そうとする。


「ムジカは向こうの部屋に行こうな。リオナはここにいろ。どっか行ったらマジでキレるからな。」


そう言ってムジカを抱き抱えると隣の男部屋に移動した。


ムジカをベッドに座らせ
タオルで顔を拭いてやった。


「ムジカ、気にするな。お前が悪いわけじゃない。泣くことだって悪くない。泣きたきゃ泣きたいだけ泣けばいいんだ。」


そう言うとムジカは再び泣きはじめる。


だが次にムジカの口から出た言葉にマーシャは目を丸くした。


「リオ・・・・ナ・・な・・・んて・・だ・・・いき・・・らい・・・!!!」


「!?」


「リオナの・・・バ・・ガ・・・・!!!ゥゥ・・!!」


「他に何か言われたのか?」


ムジカはこくこくと首を縦に振った。


「なんて?」


「・・・トラヴァース・・・と・・・ナタリア・・なん・・か・・・忘れろって!!!」


・・・忘れろ、か。


確かにリオナならそう考えるだろう。


じゃなきゃ前に進めない。


「とにかく、ムジカ。今からリオナ君を叱り付けてくるからここで寝てなさい。わかったか?」


ムジカはこくっと頷くと
マーシャはニッと笑って
次にリオナがいる部屋に戻った。


マーシャは
リオナは99%の確率で部屋からいなくなっていると思っていた。


だが予想はあたらず。


リオナは言われた通り部屋から一歩も出ず
ベッドに座っていた。


ただじっと割れた窓ガラスから外を眺めている。


マーシャはわざと大きいため息を吐き
リオナの横に腰を掛けた。


「なぁ、なんでムジカにあんなこと言ったんだよ。」


「・・・・・。」


・・・シカトか・・・?


「お前なぁ、らしくねぇぞ?どうしたんだよ。」


「・・・・・・・・・・。」


リオナは一切答える気がなさそうだ。


・・・・・まったく・・・


マーシャは少しあきれ気味にため息をついた。


「あのなぁ・・これだけは言っとくが明らかに今日のはお前が悪いからな。あとでちゃんと謝れ・・・」
「よかったんだ・・・」
「え?」


ようやく口を開いたリオナは
無表情のままマーシャに顔を向けた。


「これで・・・・・よかったんだ。」


「リオナ?何がだよ。」


「・・・別に。・・・B.B.行くぞ。」


「ってリオナ!?おいまだ話は終わってないっての!」


だがリオナは戸惑っているB.B.を無理やり連れて
部屋を出ていってしまった。


「あのバカ!何考えてんだか全然分からねぇよ!だいたいなんでB.B.連れてくわけ!?俺連れてってよ!!!」


マーシャは一通り愚痴をこぼし
少しスッキリしたようで。


だが目の前の部屋の惨状を見て
自分が後始末をしなければいけないことに再び肩を落とした。



















《リオナぁ!!!痛いから放して!!》


耳を掴んで歩いていたリオナは
B.B.の要望通り放してやる。


だが突然放されたため
地面に激突してしまった。


《グピャ!!!!痛いぃ〜!!》


助けを求めるようにリオナを見るが
いつの間にかだいぶ先まで歩いて行ってしまっていた。


《ひどっ!》


B.B.は急いで飛んでいき
リオナの頭にしがみついた。


《置いてくなよ!!!》


「・・・・・・」


《ふんだっ!!!オイラもう知らないからねっ!!!》


そう言ってリオナの頭から離れようとする。


するといきなりリオナの手でがっちり押さえ付けられた。


《な、なんだよ。》


突きはなしたり
引き寄せたり。


リオナは少し気まずそうにB.B.を見た。


「・・・・・ごめん。謝るからちゃんと付いてきて・・。俺から離れないで・・。」


今にも消えそうなくらい小さな声で呟くと
再びリオナは歩きだした。


だが B.B.はまさかそんなことを言われるとは思わず
少しリオナを不気味がった。


だって普段だったら嫌がられるのに。


「・・・・・俺はお前無しじゃ弱いから。」


まるでB.B.の感情を読み取ったかのようにリオナは付け加えて話した。


その言葉でB.B.は少し顔を歪める。


あのUWの事件から
リオナは一睡もしていない。


寝てる風に見せかけて夜こっそりベランダで空を見ているのをB.B.は知っていた。


そのたびにリオナは小さくつぶやいている。


"俺には誰も守れない"


その時のリオナの表情は
歪んでも引きつってもいない。


ただただ無表情。


まるで感情を
心を無くしたみたいに。




何だかんだ考えていたら
リオナが突然足を止めた。


何事かと思ってB.B.はリオナの頭から前を見た。


すると視線の先にはジークとクロードがいた。


「・・・・B.B.」


《??》


「俺ジークに話があるから・・・ちょっとクロードとあっち行っててくれないか?」


《なんで??》


「・・・・・・・・」


《わかったよ。いきゃあいいんでしょ。》


少々嫌がりながらリオナの頭を離れ
クロードの元に飛んでいった。



リオナはクロードとB.B.がジークから離れるのを見ると
ゆっくりジークの元に行った。


ジークは、
ジークだけはリオナに対していつものように接してきた。


「少年。私に話があるなんて珍しいな。まさかこの私に惚れたか!?クハハハハ!!!なかなかいい目をしているぞ少年!!」


「・・・・・・。」


いつもならツッコんでくるリオナがツッコんでこなくても
ジークは気にしない。


「さぁ話とはなんだ?少年」


「・・・・・・お願いがあるんだ。」


リオナはジークの横に腰を下ろし
ジークが手に持っていたタバコを眺めながら口を開いた。


「ムジカを・・・・ジークに預けたい。」


突然何を言いだすのかと内心驚きながらも
タバコを吸って落ち着き、足を組みなおす。


「ジークは前に・・フラワーカウンティーに実家があるって言ってたよな・・・」


「ああ。私の家は名門の舞士一家だからとても大きいぞ。今は私の親戚に預けているがそいつらもいい奴らでな。孤児を拾ってきては私の家で面倒をみているようだ。だがそれがどうした?」


「・・・ムジカをジークの家においてほしい。」


再び繰り出された言葉に
ジークは少し頭を悩ませた。


「少女を旅には連れて行かないと言うことか?」


「・・・・ああ。」


「なぜだ?少女と少年は愛し合っていただろう?」


恥ずかしげもなく言い放った言葉に
リオナも思わず眉を寄せた。


「・・・・・好きだから、だ。好きだからこそ・・・・・ムジカをおいていく。」


「わからんな。愛しているなら連れて行けばよかろうが。」


「・・・・・・・・もう・・傷つけたくないんだ。」


「少年・・」


「それにムジカの中にローズ・ソウルがある・・・。だから狙われたりしたらムジカが危ない・・・・。」


「・・・確かにな。」


「だから頼むよ・・・ムジカを・・ジークが面倒を見てくれないか?」


まっすぐ見つめてくる瞳は
前みたいに光はないが
強い意志がにじみ出ていた。


「少女は・・嫌がるかもしれないぞ?」


「それはない・・。さっき散々言ったから・・・。」


「あ!まさか少年!さっきわざとケンカなんて・・」


だがリオナは何も言わずに顔を前に戻した。


ジークは呆れながらも考えに考えた。


でもリオナがそれを望むなら
そうしてやらないこともない。


「仕方ない。まぁ私自身も少々実家で仕事があったところだ。少女は私に任せてもいいだろう。」


「助かるよ・・・。あと・・・この事は俺が言ったんじゃなくて・・・ジークが考えたことにしてくれないか?」


「心配かけさせたくないか?」


コクッと頷くリオナに
ジークは苦笑いを向けた。


「アイツならきっと少年に話して欲しいと思うがな・・・まぁいい。」


それが少年のやり方なら。


そう呟き
ジークはタバコの煙を空に吐いた。


「なら今日の夜マーシャに話してみる。それでいいか?」


「うん・・・お願い。なぁ俺にも一本・・。」


「ダメだ。マーシャに怒られる。俺もお前も。」


「・・・・。」


少しふてくされた表情を見せながら
リオナは立ち上がってB.B.を呼んだ。


乱暴にB.B.の耳をつかみながらも
最後に小さく言った。


「・・・ありがとう。」


そのままスタスタと人混みの中を歩いていった。


「まったく。まぁどうせ隠したところでマーシャにはお見通しだろうがな。」

















「どうせリオナが言いだしたんだろ。」


「さえてるな。」


結局マーシャに話してもすべてお見通しだった。


夜になって
ジークは誰もいないベランダにマーシャを呼び出していた。


「当たり前だ。アイツのことだ。どうせ"心配かけさせたくない"とか思ってんだろうよ。」


「うむ。大大大正解だ。」


マーシャはハァ〜とため息をつきながら
頭を抱えた。


「ジークはいいのか?ムジカを面倒見れるのか?」


「私はかまわん。あっ。心配しないでくれ。私は女に興味はない。私は男を誰よりも愛・・」
「あーわかったわかった。これ以上言うと俺吐いちゃうよ。」


吐く真似をしながらも
マーシャは頭を悩ませた。


これからどう進むべきか。


「とりあえず俺たちはルナを探しに行かなきゃならない。だから一応ルナが見つかるまでジークがムジカを預かってほしい。もしルナを見つけた後、それでもムジカが旅を嫌がったら・・・」


「そのまま我が家にいてもかまわない。ただ騒がしい居候が何人かいるがな。」


きっと皆ジークに似ているだろうな。


なんて事を考えながら
マーシャは苦笑いを浮かべる。


しかしその時、
ベランダに2人以外の気配が現れた。


2人はバッと振り返った。


「な、ムジカ!?お前いつからいたんだよ?!」


ムジカは暗い顔をあげ
小さく呟いた。


「・・・・最初からだよ。」


「マジかよ。」


まさか聞かれるとは。


気まずい空気が流れる。


だがその空気を押し破ったのはジークでもマーシャでもなく
ムジカ本人だった。


「私・・・ジークが迷惑じゃないなら・・・ジークのお家に行く。」


「エッ、ムジカはそれでいいのか?」


「・・・・リオナがそう言ったんでしょ?ならもういいよ・・・。私は足手纏いなんだよ・・。」


「それは違うぞ少女。」


ジークは部屋に戻りかけたムジカの腕を掴み、こちらを向かせた。


「少年は少女を足手まといだなんて思ってない。少年は悩みに悩んだ末に出したのだと思・・」
「ならなおさらだよ・・・・」
「・・・・少女」


ムジカは声を震わせながら後ずさる。


「リオナ・・なんて・・・大嫌い・・・・!!!」


「あっおいムジカ!!」


部屋に戻って行ってしまったムジカの背中を見ながら
マーシャは今日何度めかわからない深いため息をついた。


「難しいな。リオナはムジカが大切だからこそおいていくって言ってるんだろうけど・・ムジカもリオナが好きだから、逆においていって欲しくないんだろうな。」


「だが・・私には少年の考えがわからんな。愛しているなら自分の傍においておけばよかろうが。」


「あいしてるって・・・まぁ俺はリオナの気持ちはわかるぜ。これ以上ムジカを傷つけたくないんだろう。」


「やはりマーシャにはお見通しだったか。」


「当たり前だ。俺はリオナの父親みたいなもんだ。」


でも本当にリオナの父親になれたら

もっとリオナの事を助けてやれるのに。


今夜もそんなことを考えながら
延々に続く空の果てを眺めた。




















それから3日がたった。


結局リオナはマーシャ、B.B.クロードと共にルナを探し、
ムジカはジークと共にしばらくの間、彼の実家でお世話になることになった。


そして今日が出発の日。


もうしばらく会えなくなるというのに
リオナはムジカと一切話していなかった。






リオナは荷物をカバンにつめながら
自分の頭にいるB.B.をチラリと見た。


なぜならさっきからB.B.が何か言いたげに見てくるからだ。


「・・・・・・・。」


《リオナぁ》


「・・・・・・。」


《ねぇオイラが何言いたいかわかる?》


「・・・・・・。」


《シカトすんなっ!!!!!!》


「・・・・痛」


B.B.に叩かれたおでこを擦りながら
リオナはギロっと頭上のウサギを睨んだ。


《なぁ本当にいいのかよ!!このままムジカと別れて!!!何も言わないままかよ!!!》


「・・・・・・」


《ムジカの事好きなんだろ!?だったらそう伝えればいいじゃん!素直にそう言えばいいじゃん!!》


「それを言ってどうなる・・・」


《???》


リオナは今まで動かしていた手を止めた。


「そんな感情・・・ただの慰めに過ぎない・・・。」


そう言って再び手を動かしはじめた。


《むぅ〜!!!リオナのバ・・》
「おーい。またお前らは喧嘩してるわけ?」


するとタイミングよくマーシャが部屋に入ってきた。


「・・・・・・・ケンカじゃない。」


「まぁどぉせB.B.がちょっかい出してきたんだろ?B.B.は寂しがりやだからなぁ。」


ニヤニヤしながらマーシャはB.B.をリオナの頭からたたき落とした。

《グピィ!!!!》


リオナは荷物を入れ終わると
ふとマーシャの顔を見た。


別に意味はなかったが
ただなんとなく見てしまった。


「なんだよぉリオナ君。そんなに見つめられると俺ズキュンってなっちゃう。」


あははと笑いながらリオナの首に腕を絡めた。


「・・・ハハ」


そしたら少しリオナが笑った気がして
マーシャは少し驚きと共に、内心すごく喜んでいた。


「じゃあそろそろ行くか?ジーク達ももう出発するみたいだから。」


「わかった・・・・。」


マーシャはリオナの頭をグシャグシャっと撫で部屋をでた。


その様子をじっと見ていたB.B.が
リオナの背中をはい上がり
黙って頭にしがみついた。


《・・・・》


「・・・・他に言うことは」


《ふんだ。もういいよーだ。早く行こー!!》


「はいはい・・・・」


リオナは荷物を持って
部屋をでる。


とりあえずホテルから出ると
すでに皆がいた。


ムジカは一切リオナを見ようとはしない。




・・・これで・・・いいんだ・・・・


リオナは黙ってクロードの横に立った。



「じゃあ俺たちはこれから隣の国に行ってみる。またチョクチョク連絡するから。」


「ああ。こっちもついたら連絡する。」


そう言って2人は互いに握手を交わした。


その時さりげなくリオナとムジカを見るが
何もいいそうに無かったため
2人は苦笑しつつ離れた。


「じゃあまたな。ムジカ、元気でな。」


マーシャは笑ってムジカを抱き締める。


「・・・・うん」


ムジカも声を震わせながら
マーシャに抱きついた。


「よし。行くか。」


「・・・・・・ああ」


そう言って歩きだすマーシャに続いてリオナはクロードの手を引き、
ムジカとジークに背中を向けた。


そしてそのままその場から離れていく。


ジークとムジカは見送るようにリオナ達を見つめていた。


すると突然
今まで黙っていたムジカがこぶしを握り締め
声を発した。


「・・・・・リオナ」


今にも消えてしまいそうな声でも
確実にリオナには届いていた。


だからリオナも思わず足を止めてしまう。


「リオナ・・・!!!」


それでも振り返るわけにはいかない。


振り返ってしまったら
離れられなくなる。


だからリオナはまた歩きだした。


「リオナ!!!リオナ!!」





まだ・・・声が聞こえる・・・








・・また泣いてるのかな・・・







でも・・・もう泣かなくていいんだよ・・・・








怖いことはもうないからさ・・・・・








だから・・・・笑って・・・・







「リオナ・・・いいのか?」


マーシャは苦い表情を浮かべながら
リオナに問い掛ける。


だがリオナは静かに首を縦に振った。


「いいんだ・・・行こう。」













ごめんな・・・・・ムジカ・・・・・













君は・・・俺のこと
嫌いになっちゃうかもね・・・・













でも・・・・・










俺は・・・・










たとえ俺を嫌いになっても














どこにいても
















何をしてても






















ムジカを愛してるから・・・・・












だから















どうかもう、苦しまないで・・・








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