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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story73 遥かな思い



孤児院に化神がいることが発覚して1週間がたつ。


自室で1人外を見つめるムジカは小さくため息をもらしていた。


「・・・どうしよう」


これをアンリに告げるべきか否か。


それだけを考えていたが
結局誰にも告げず
何もせずにムジカはいた。


おそらく化神の正体は孤児院の院長。


波長からしてそうだった。


ムジカは再びため息をつきながら
窓から孤児院を見つめた。


そんな時
突然部屋をノックする音がした。


ムジカはあわてて扉を開く。


「よっ。生きてるか??」


扉の向こうにたっていたのはアンリだった。


「なんとか・・生きてる」


ムジカは引きつった笑顔を見せながら
内心バクバクしていた。


そんなムジカにアンリは首を傾げながらムジカの顔を覗き込んできた。


「なんだか最近元気ないぞムジカ?何かあったか?」


「んーん・・ただ考え事してたの」


「考え事ね。そーゆー時はあれに限る!」


「アレって?」


頭にハテナが浮かぶムジカに対して
アンリは満面の笑みでかえした。


「それは行ってからのお楽しみってね!ほんじゃさっそく行きますかー!」


「ぇ・・・ちょっ・・・アンリ!?」


ムジカはアンリに手をひかれるままに外に連れ出されてしまった。





ところでアンリは一体どこに向かっているのか。


ジークの家をでて
バラの都を抜け
どんどん歩いていく。


若干足が疲れてきたが
アンリの足は止まらない。


むしろペースアップしてる気さえする。


「アンリまだ?」


「もう着くよ。ほら!あそこだよ!!」


突然走りだすアンリにムジカも手を引かれて走りださずにはいられなかった。


そしてアンリはようやく脚を止め
両手を大きく広げた。


「ジャジャーン!ここが世界三大絶景の1つ!"デッドエンド"だ!」


ムジカはアンリの後ろに広がる光景を眺める。


だがそれはムジカの予想をはるかに越えていて
思わず目を見開いた。


「キレー・・・!!!」


真っ青な海が延々と続き
まるで空とつながっているようだ。


「この海はどこにつながっているかまだ解明されていないんだ。探検にでた勇気ある者達も絶対に帰ってこない。だから人々はこの海の終わりに待つのは死だけだって信じ込んだ。だから"Dead End"って今でも呼ばれてるんだ。」


「そうなんだ・・」


ムジカは吸い込まれるようにうっとりとした目をしている。


こんなきれいな海がこの世にあるとは知らなかった。


「どうだ?これみたら悩みだって吹っ飛ぶだろ。俺は悩んだ時はここに必ずくる。ここにくれば俺の悩みなんてちっぽけだって気付かされるんだ。」


「アンリにも悩みがあるの?」


「そりゃあるさ!姉貴は今何やってんだとか生きてんのか死んでんのかとか!あとは今夜のごはんとか!」


「あはは!小さいね!」


「失礼だなぁ!これでも立派な悩みだ!」


ムジカとアンリは笑いながらデッドエンドを眺める。


こんな広い空を飛べたらどれだけ気持ちいいだろうか。


こんなきれいな海を泳げたらどんなに楽しいだろうか。


「ねぇ・・・アンリ?」


「なに?」


ムジカは戸惑いながら
小さく口を開く。


「・・・どうやったら・・・強くなれる?」


臆病な自分を倒すには


過去に取り残された自分を救うには


どうすればいい?


「はははは!」


だが意外にも
真剣に悩んでいたムジカはアンリに軽く笑われた。


「アンリ!?」


「悪い悪い!そんなことで悩んでたなんて!ははは!」


「な・・・!!ひどい!」


「ごめんったら!でもムジカ」


アンリはのびをしながら
目を細める。


「人は誰でも弱いもんだ。何かに怯えては逃げて、逃げては後悔して、後悔しては落ち込んで。人間だれもがこういうサイクルに陥る。だから人は強くなりたいと願う。でも願うだけじゃダメなんだ。」


願うだけじゃ・・・ダメ・・・


「やっぱりいっぱい頑張らなきゃいけないの?」


必死なムジカに対して
アンリは冷静にこたえた。


「そうじゃない。もちろん沢山の努力は必要だ。だけどそれ以前に大切なことがあるだろ?」


「大切なこと・・?」


「そう。大切なことだよ、ムジカ。」


それだけ言うと
アンリはただ微笑んで海を眺めていた。


「・・・・大切なこと」


・・・なんだろう・・・


目標・・?


力・・?


・・・・わかんないよ


結局答えが見当たらない。


せっかくアンリに連れてきてもらったのに。


「・・・ごめんねアンリ」


「え?」


「ううん、なんでもない。」





その日は結局アンリの買い物に付き合わされて。


もちろん楽しかったけれど
気持ちにわだかまりがあって実際買い物どころではなかった。


だが2人が家に帰った時
ジークの家に意外な来客がいた。

ムジカとアンリがリビングに行くと
その来客はジークと談笑していた。


「おお2人とも。帰ってきたか。」


アンリはジークの前に座る来客を見て
笑顔を浮かべた。


「あれ!?サラじゃん!いつ来てたんだ!?」


「久しぶりね。アンリ。」


サラさん・・!?


ムジカも驚いて顔を向けた。


その来客というのはサラだった。


そう言えばジークはサラと仕事の話があるといっていた。


だがまさかここだなんて。


ムジカは少し気まずそうに目を泳がせた。


なんてたって
自分の背中の悪魔の羽を奪い
半殺しにされた相手だ。


もうその件は気にしていないが
いくらリオナの幼なじみだからといっていきなり仲良くとはいかない。


そんなムジカに気が付いたジークは立ち上がろうとしたが
意外にもサラに止められた。


サラは席を立つと
ムジカの前までやってくる。


サラは優しい笑みを浮かべながらムジカの手を取った。


「・・・・?」


「ムジカも久しぶりね・・。ねぇ少しお話しない?」


「ぇ・・・」


「ちょうどジークもアンリと話があるみたいだし。ね?」


ムジカは少し動揺しながらジークを見る。


「悪いな少女。少しサラといてくれないか?」


こう言われては仕方がない。


ムジカはしぶしぶ頷き
サラとリビングをでた。




リビングを出たすぐ隣の客間に入るとサラは部屋の電気をつけてムジカに座るようにうながした。


ムジカはとりあえずソファーに座ると
サラも目の前のソファーに座った。


一体何を話すのか。


内心ドキドキしていると
サラが口を開いた。


「ムジカ・・・あの時は本当にごめんなさい。」


突然の謝罪に
ムジカは下げていた顔をバッとあげた。


サラは本当に申し訳なさそうに顔を歪めている。


「あの時・・私はあなたを傷つけたわ・・・勿論リオナも・・。謝ってすむ問題じゃないってこともよくわかる。でも私・・・あなたに許してもらいたくって・・・」


「サラさん・・・」


今にも泣きそうな表情のサラにムジカは手を伸ばしてサラの顔に触れる。



ほっぺ・・・あったかい・・・



そこでやっとムジカの表情に笑顔が浮かんだ。


「・・ムジカ?」


「サラさんは悪くないです。だから謝らないでください。」


「でも・・・!!!」


「確かにサラさんは私の羽を奪ったけど・・・それは悪魔の誰かがサラさんとリオナの国を壊したから・・・・大切な人達を奪ったから・・・だからサラさんは悪くないです。」


「ムジカ・・・」


「それに私、羽が無くなってよかったって思ってるんです。」


ムジカはサラの手を握り
優しく撫でる。


「羽が無くなって・・・初めて"人間"になれた気がしたんです。」


中途半端だった自分が腹立たしかった。


見た目も実力もどっち付かずな自分が嫌だった。


だから・・・


「これでよかったんです。だからこの話はこれでおしまい!」


「ムジカ・・本当にごめ・・」


「サラさんっ!」


ムジカは悪戯っぽく笑いながら
サラの口に指を押しあてた。


そんなムジカに
サラもようやく笑顔を見せた。


「あはは・・・・!!そうね。それじゃあムジカの言う通りに。」


「はい!」


和やかな空気になり
ムジカも一安心した。


けれどサラの言葉ですぐに空気がかわってしまう。


「リオナと・・・離れたみたいね。」


「・・・」


ムジカは表情を暗くし
小さく頷く。


「ジークから話は聞いたわ。色々大変だったみたいね。」


ムジカの頭を優しく撫でるサラの手がとても暖かくて。


今まで我慢してた何かが破裂したようで
少し涙ぐんでしまう。


「何かあった・・・?」


「私・・リオナとケンカしたんです。」


「ええ。」


「リオナは・・・死んだ友人を忘れろって・・・もぅ・・・・何考えてるかわからなくって・・・」


「それでそのままリオナと別れてきてしまったのね・・。」


「・・は・・い」


するとサラは突然大きくため息をついて
腕組をした。


ムジカも少し驚いて
ついつい口を開けてしまう。


「リオナはバカね!ホントあきれちゃう!!」


「・・・え」


サラはいつになく強気で文句を言い続ける。


「だいたいクールぶっちゃってさ!本当はスッゴい寂しがりやなくせに!!」


「・・・そうなんですか?」


「そうよ!?昔ね、リオナにはお師匠さまがいたのよ。その人が町を出るって聞いた時ね、リオナったらずーっといじけて外にも出なかったんだから!」


リオナの意外な過去に
ムジカも思わず笑ってしまう。


確かにリオナはよく人間味が無いとか色々言われているが
実際は表情にあまりださないだけで結構態度に見えている。


そう考えると自分はまだリオナを知り切れてない。


実際この前だってなんであんなことを言ってきたのかがわからない。


でももしかしたらリオナを知っていたら喧嘩なんてしなかったかもしれない。


そしたらなんだかもっと聞きたくなって。


「あの・・・」


「はい?」


「リオナのこと・・・もっと聞いてもいいですか?」


少し遠慮しがちなムジカに
サラは優しく頷く。


「ええもちろん。どういう話がいい?」


色々聞きたい事がある。


でもやっぱり一番聞きたいのは・・・


「リオナと・・弟さんの話・・・」


聞いてもいいものか不安だった。


リオナが覚えていないことを
勝手に知ってもいいものか。


でもリオナの事を知る最後のチャンスな気がして。


「小さいことでも何でもいいんです・・!教えてください・・・」


とにかく2人の事が知りたかった。


前にリオナに発作が起きた時を思い出す。


"本当に・・・大切だったんだ・・・・"


リオナの悲しみに満ちた声が今でも耳に焼き付いている。


でも・・聞くことは無理かもしれない・・



だってそれは同時にサラの心の傷をえぐることになるのだから。


「いいわよ。」


しかしサラは笑顔で頷いた。


サラはゆっくり写真を取り出すと
懐かしむようにムジカに差し出した。


そこにはリオナとサラとウィキが写っていた。


「ここにいるのがウィキ。見た目はそっくりだったけど性格はやっぱり違ったわ。クールなリオナに対してウィキは少し甘えん坊だった。だからいっつもリオナにくっついてた・・・ううん、くっついてたのはリオナだったのかも。」


「・・・・?」


「ウィキももちろんリオナを好きだったけど、リオナはそれ以上にウィキを愛してた。だからウィキがやりたいことに付き合ってウィキが行きたいところに連れていってたわ。それくらいウィキを愛してた。」


「仲がよかったんですね。」


「ええ。でも仲良くなったのは三歳の時なのよ?その前まではウィキは別としてリオナが・・・ね。」


意味ありげな言い方にムジカは首を傾げる。


「リオナはね、いつも自分の後ろをくっついてくるウィキが嫌だったのよ。だから昔は全然口きかなくてね。でもある日リオナが風邪を引いたときにね、ウィキがリオナが死ぬと思ったらしくて泣きながら町中走り回って薬をもらいに行ったの。でもその後ウィキが帰ってこなくって。だからリオナも熱があるのに家飛び出してウィキを探しに行ったわ。結局2人とも風邪引いちゃって。それからかしら・・リオナがウィキと一緒にいるようになったのは。」


「かわいいですね・・ウィキ」


「そうかしら?ある意味リオナよりも腹黒かったわよ?」


リオナより腹黒いって・・・・


そもそもリオナはそんなに腹黒くない。


「でももうウィキは死んでしまったわ・・」 


悲しそうに呟くサラに
ムジカも心が痛む。


「ねぇムジカ・・」


「・・?」


するとサラはムジカの手を握った。


その手は小さく震えている。


「リオナね・・ウィキのこと・・全部は覚えてないでしょう?」


「・・はい」


「でも・・・心のどこかで絶対にさみしがってるの。ウィキのいない空間に・・・違和感を感じてるはずなの・・・だから・・だから・・リオナを支えてあげて・・・」


サラの暖かい手に涙が落ちる。


「リオナを・・・助けてあげて・・・」


サラは小さく泣きながらうつむく。


・・リオナを・・・助ける・・・


でも・・・


私は・・・


「私はリオナに嫌わ・・」
「バカ・・!」
「!?」


今までうつむいていた顔をバッとあげ
ムジカの顔を両手でつかむ。


「リオナは・・・1人で戦う気なのよ・・・あなたをこれ以上傷つけたくないから・・・」


「ぇ・・・・」


「ムジカ・・・あなたは弱くていいの・・・何もしなくていいの・・・ただリオナのそばにいてくれるだけでいいの・・・だから・・・リオナを信じてあげて・・・」


リオナを信じる・・・


わからなくなる。




信じる・・?


どうやって・・・


私は・・・


どうすれば・・・


どうすればいいの・・・?



<ガシャンッ!!!!>


しかしその瞬間
リビングの方から何かが割れる音がした。


ムジカとサラは顔を見合わせた。


リビングにはジークとアンリがいる。


そういわれればかすかに怒鳴り声が聞こえてくる。


「ケンカ・・・?」


「かもしれないわ。」


2人は壁に耳を押しあてた。






「放せよジーちゃん!!!」


「落ち着かんか!!今貴様が行ったところで何になる!!」


「行ってみなきゃわからねぇだろーが!!!」


「バカが!!!何もわからないのに孤児院に飛び込んでどうする!?下手したら貴様も殺されるんだぞ!?」


「そんなこと言ってたら子供たちが先に殺される!!!早くあの院長から子供たちを離さなきゃいけないだろ!?」





殺される・・・!?



ムジカは壁から耳を離す。


「ジークが言ってたわ・・」


するとサラはばつの悪そうな顔をして話しだす。


「アンリが子供達を預けた孤児院の院長・・あの人、他の子供を殺してるようなの・・・」


・・・子供を殺す・・・



ムジカは体を震わせる。


違う・・・


それは院長が・・・


・・・化神だから・・・




握りこぶしを震わすムジカに
サラは心配そうに顔をのぞいた。


「・・ムジカ?」


「・・・急がないと」


「え?ムジカどうし・・」


その瞬間
ムジカは部屋の窓に向かって走った。


そして窓を思い切り開くと外へ飛び出した。


「ムジカ!?待って!!」


だがサラが窓から外を見たときには
すでにムジカは夜の暗闇に姿を消していた。


「ジークに知らせないと・・!!!」


サラは駆け足でリビングに向かった。












・・早く・・・


・・早くしないと・・・!!!


ムジカは夜の町をひたすら走る。


頭のなかでは何度も何度も後悔の念が繰り返されていた。


どうしてあの時に倒しておかなかったのか。


「・・・・私のバカ!」


ムジカは民家の屋根に登り
位置を確かめる。


「あそこだ・・・」


そのまま屋根を駆け
家々を飛び越えていく。


孤児院が近づくに連れて心臓の鼓動も大きくなる。


孤児院の玄関が見えると
ムジカはそこにおりた。


「ここね・・・」


でもどうやって入るか。


窓からこっそり入るか・・


でも・・・


「考えてる暇なんてないもんね・・!」


その瞬間ムジカの瞳がより一層赤みを増した。


久々の悪魔としての力の解放に緊張が走る。


ムジカは呼吸を整えて拳を握った。


「せー・・のっ!!!」


ドカーン!!!


扉を思い切りぶち破る。


こんなに力があったとは。


自分自身ビックリしてしまう。


だがその時


『キャァァァ!!』


孤児院の中からおびただしい悲鳴が聞こえてきたのだ。


ムジカは顔を青くし
体の震えを取り戻す。


・・・怖い・・


怖いょ・・・


足が動かなくなる。


けれど頭の中に
ふとアンリの顔が浮かんだ。



アンリの顔が悲しみに満ちたら・・・


あの笑顔が無くなったら・・・



「嫌だよ・・・」


絶対にいや。


アンリから笑顔が消えるなんて。


ムジカは手を握り
真っ直ぐ前を向く。


「守ってみせる・・・!!」


ムジカは悲鳴のあった方へと駆け出した。


手を大きく振ってひたすら走る。


・・お願い・・・・・間に合って・・・!!!


ムジカは廊下の隅にあった部屋を思い切り蹴りあけた。


そこには小さな子供たちと
1人の子供の首を掴む化神がいた。


シュゥゥゥゥゥゥ・・・・・・


化神はムジカに気が付くと
子供を投げ捨てた。


化神はすでに人間の形を失い
完全に化け物と化している。


子供たちは泣きじゃくりながら部屋の隅に逃げていた。


・・・ドク・・・ドク・・・ドク・・・・ドク


ムジカは今にも飛び出しそうな心臓を押さえながら
化神の前に立った。


化神はムジカに飛び掛かろうとするが
すばやくよける。


「・・・」


ムジカは爪をぎらつかせ
神経をとがらせる。


そう・・・


私はできる・・・


私なら・・できる


勇気をもって・・・


あの時みたいに・・


お兄様と・・お父様から逃げた・・・


あの日みたいに・・・


「・・はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ムジカはものすごい勢いで化神を切り裂く。


その次の瞬間
闇が一気に赤く染まった。


弧を描くように化神から吹き出す血は
容赦なく降り掛かる。


「おわっ・・・た」


緊張がとれたのか
ムジカはバタンと膝を着いた。


背中からは子供たちの恐怖で怯えた悲鳴が聞こえてくる。


「・・・私・・・・わかったよ・・・・」


アンリが言ってた言葉・・・


一番大切なのは・・・


・・自分を信じること・・だよね


私・・


ようやく信じれたよ・・・


強くなれたことより・・・


・・・そっちの方がなんだか嬉しい・・


「・・・・・・リオナ」


ねぇ・・・リオナ・・・?


私・・


今度は・・・


リオナを信じても・・・いいかな?






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