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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story72 アンリ=クラン







"お兄さま"





私の大好きな・・・・お兄さま






"なんだいムジカ?"





優しくて・・・頼もしくて・・・




"わたしね・・また明日実験なの。"



私を撫でてくれる・・・その手が好きだった。



"怖い?"



いつからかな・・・・



"ちょっと・・怖い。"




お兄さまが・・・怖くなったのは・・・





"大丈夫だよムジカ。僕がそばにいてあげるよ。"





最後に抱き締めて貰ったのは






"ホント?"






いつだったかな







"嘘はつかないよ。ただしいい子にしていられたらね。"





ねぇ・・・お兄さま・・・







"うん!いい子にしてる!"






いい子にしてるから・・・







"仕方ないな"







いつもみたいに優しくして・・・・

















「うわぁ・・・きれい!」


「クハハハ!驚いたか少女!これが我が故郷フラワーカウンティーだ!」


ムジカとジークはフラワーカウンティーに到着した。


ようやく到着することができたフラワーカウンティーにムジカは目を輝かせる。


辺りは一面花畑で
その合間合間に家が建っていた。


「お花・・」


ムジカはしゃがんで花を見る。


その表情は少し暗い。


「ルナ姉が見たら・・・喜ぶね。」


ルナ姉・・・どこ行っちゃったの?


そんなムジカに
ジークは花を一つつみ、
ムジカに手渡した。


「今度はルナも連れていこう。」


「・・うん!」


その言葉にムジカはうれしそうに頷いた。


2人はさっそくジークの実家があるバラの都へ向かった。


「私の実家には今従兄のガキとそいつが連れてきた小さいガキどもが住んでいる。騒がしいとは思うが我慢してくれ。まぁ一応使用人がいるから困りはしないと思うが。」


「大丈夫だよ。ありがとう。」


ムジカはニコッと笑う。


だがやっぱりどこか寂しそうで。


あの日から。


リオナと別れたあの日から。


ジークは少し心配しながら様子を伺うが
ムジカが「何?」と首を傾げてきたため見るのをやめた。


「そういえばジークの言ってた仕事ってなーに?」


「え?ああ。実は今フラワーカウンティーにサラが来ているんだ。」


「サラさん・・?」


サラは悪魔狩りのヘッドでリオナの幼なじみ。


そういえば悪魔狩り本部が壊滅してからどうなったのだろうか。


「今サラは元・悪魔狩りのメンバーを集めて違う組織を作っている。だが安心したまえ。少女たち悪魔をもう退治するつもりはない。」


「よかった。でも何を倒すの??」


「まぁ何かを倒すだけが組織ではないからな。今のところは難民の救助だ。フェイターにやられて負傷している人々は数多くいるからな。」


「すごいね・・!!ジークもその組織に入るの?」


「いや。正確には私は情報屋的な存在だ。今は少女や少年やマーシャと旅をしているからな。」


「よかった・・。ジークがいなきゃ寂しいもん。」


「クハハハ!私は偉大だな!クハハハ!」


実際
ジークの能天気さにムジカは何度も救われてきた。


ジークがいたから少し立ち直ることもできた。


だからムジカは心のどこかで少しホッとしていた。







フラワーカウンティーをだいぶ行くと
真っ赤なバラで作られたアーチのトンネルが見えてきた。


おそらくこの先がバラの都なのだろう。


「なんだかドキドキしてきた・・」


ムジカはアーチの前で立ち止まる。


悪魔だって・・・嫌われるんじゃないか


そんなことが頭をよぎる。


だがジークはいつもみたいにクハハハと笑いながら
ムジカの頭に手を置いた。


「なーに。大丈夫だ。あいつらは悪魔に理解がある。」


「そ・・そうなの?」


「まぁ行けばわかるさ。」


ジークのその自信の根拠がよくわからないが
今はジークを信じるしかない。


「じゃあ・・いってみよー!」


2人はバラの都に続くアーチをくぐる。


アーチを抜けると一瞬にして世界が変わった。


辺り一面に咲く花はすべてバラで
バラのいい香も漂ってくる。


「ここが我が家だ!」


そんないい気分を満喫していると
いつの間にかジークの家にたどり着いた。


ジークの家は都の中心にあり
気のせいかどの家よりも目立っている。


家の周りにはバラ園が広がっていて
ジークが留守にも関わらず花は綺麗に咲いている。


ジークによると
今ジークの家に住んでいる従弟が手入れをしているらしい。


そのジークの従弟とはどういう人なのか。


彼に似て男色家なのだろうか。


ムジカの頭に色々な想像が浮かぶ中
ジークは家の門をズカズカ入り
玄関の呼び鈴を鳴らした。


ムジカはあまりの勢いにビクビクしながら彼の背中に隠れた。


だがしばらくしても扉は開かない。


「なぜでない!?さてはアンリのやつ寝ているな!?」


「アンリ・・?」


それが従弟の名前だろうか。


ジークはイライラしながら扉をドンドンと叩く。


「おいアンリ!!寝てる暇があったら働け!!そして扉を開けろ!!!さもないと・・」
「あれ??ジーちゃん?」


突然後ろから声が聞こえ
ムジカはドキッとする。


心臓がバクバクして今にも爆発しそうになり
ムジカは無意識にジークを回転させてまた後ろに隠れた。


「どうした少女?・・・ってアンリ!?!?!」


「あ!やっぱりジーちゃんだ!」


ジークの前に立つ黒髪の青年は
大きな袋を抱えながら満面の笑みを見せた。


「貴様その呼び方やめんか!!」


「まぁいいじゃん!ってあれ??この子は??」


アンリはジークの後ろに隠れるムジカを覗く。


ムジカはビクビクしながら少し顔を出した。


「こ・・こん・・にちは・・・」


赤い瞳を見られるのが怖くて
少し下を向く。


「この少女が前に言った子だ。」


「ああ!あの悪魔の子ね!」


その言葉にムジカは目を見開く。


なんで・・!?もう知ってるの!?


ムジカはチラッとジークを見ると
ジークは苦笑して逆にムジカを前に押し出した。


「ジーク!?」


「そう恥ずかしがるな少女。こいつは悪い奴じゃない。」


そんなこと言われたって・・・


ムジカは若干上目遣いでアンリを見る。


するとアンリは少しかがんで
ムジカの前髪をそっと上げた。


「・・・!」


「ホントに悪魔なんだ!」


「は・・・はい」


「でも綺麗だなぁ」


「え・・・?」


アンリは目を輝かせながら
ムジカの瞳をじっと見つめる。


「その真っ赤な瞳。何度見ても綺麗だよ。」


予想外なことを言われ
少し戸惑ってしまう。


けれどなんだか嬉しくて。


「そんなこと言われたの・・・・」


リオナ以来だよ・・・・


「とにかく中に入れてくれアンリ。少女も疲れてるだろうから。」


「はいはい。」


アンリはポケットから鍵を取り出すと
慣れた手つきで鍵を開ける。


どっちが家の所有者かわからなくなりそうだ。


「ここはレディーファーストで。」


アンリはそう言ってムジカの荷物を預かり
先に中にいれた。


「うぁ・・・すごい」


中は綺麗な大理石の床で
目の前には二階に続く階段があった。


アンリはムジカの手をひきながら二階へ上がる。


「ムジカの部屋はここ!トイレはあっちでついでに俺の部屋は真向かい。何かあったら呼べよな。」


アンリはまたニコッと笑いムジカの頭を撫でた。


・・よく笑うなぁ


そんな彼を少しうらやましく思う。


「なんだか妹ができたみたいだな!」


「妹?」


突然何を言いだすのかとムジカは首を傾げる。


「あれ?ムジカいくつ?」


「15・・・くらい」


「15かぁ!じゃあ俺とは10歳差か!」


「じゃ・・・じゃあ25歳!?」


全然若く見える。


「俺童顔だからなぁ〜」


手で数を数えるアンリを
思わずじっと見つめてしまう。


それはアンリをどこかで見たことがある気がしたから。


「あ・・あの・・・」


「ん?」


「わたし・・どこかでアンリさんに会ったことありました?」


「アンリでいいよ。んー俺はムジカに会ったことはないけど。もしかしたら俺の姉貴なら会ったことあるかも。」


「お姉さんに?」


「そ。俺の姉貴はダーク・ホームでエージェントやってるの。」


「え!?」


ムジカは思わず目を見開く。


同じ家系に悪魔と悪魔狩りが存在するなんて。


「あれ??ジーちゃん言ってなかった??」


「うん。」


「まぁジーちゃんと姉貴は仲悪かったからな。まぁとにかく俺はジーちゃんと違って悪魔に理解があるから安心してよ。」


・・・だから赤い瞳を・・


ムジカはなんだか謎が解けた感じがして
少し表情を緩めた。


「あ!ようやく笑った!」


「あ・・」


ムジカは恥ずかしくて思わず顔を押さえる。


「かわいーなぁ!まっ、緊張しないで楽にしてよ。夕飯になったら呼ぶからさ。」


そう言ってアンリはまた一階に降りていった。


ムジカはこれから暮らす自室へ入る。


「すごーい・・・」


テレビも本も色々置いてあり
飽きそうにない。


でもベッドは一人で寝るには広すぎる。


ムジカはドサッと寝転がる。


「寂しい・・・」


縮こまればさらに淋しさが増す。


そして彼の言葉が頭に響く。


"・・・・アイツらの事は忘れろ。"


"・・・トラヴァースとナタリアは死んだんだ。泣いたって戻ってこない。"


わかってる・・・わかってるけど・・・


「リオナの・・・バカ・・・」


大っきらいだよ・・・


・・・大嫌い・・・


「リオナのバカッ・・!!!!!!!!!」


ムジカは枕をボスンと叩く。


けれど叩いたところで何も変わらない。


味わうのは虚しさだけ。


「・・・・バカ」


そんな事を考えていたらいつのまにか眠りについていた。


夢の中ではあの人が笑っているから。











フラワーカウンティーにきてから1週間がたった。


なんとなく慣れてきたこの生活にもちょっとした事実が発覚した。


「なに!?誘拐されただと!?」


朝、ムジカは起きてみるとリビングでジークがアンリに掴み掛かっているのを見て顔を青くした。


ムジカは急いで駆け寄る。


「ジーク!?」


「おお少女!よく眠れたか?」


「い・・・いやあの・・・アンリが!」


指差すムジカを見て
ジークは慌ててアンリを手から放した。


アンリは苦しそうに咳をしながら
涙目でジークに訴える。


「ゲホッ・・!!ゲホ!ちょっとジーちゃんッ!!!苦しいでしょーが!!」


「あ?ああ悪い。じゃないだろう!!!!子供たちが誘拐されただと!?」


・・・誘拐?


ムジカは聞きなれない言葉を必死に考えるが
ようやく理解したときには目が飛び出すほど驚いていた。


そういえばこの家に来てからアンリが預かっているという子供たちをまだ1人も見かけていない。


「それはいつだ!」


「ちょっと落ち着けって。もう何ヵ月も前だよ。それに誘拐じゃないし。」


「バカが!!勝手に子供を連れていく奴が誘拐犯じゃないと言えるかっ!!」


興奮するジークに対し
アンリは落ち着きを払いながら話す。


「だから聞けって。はじめは確かにいきなり子供たちが消えたからメチャクチャ心配して警察にも連絡した。でもそのあとすぐに犯人が家に来たんだ。その犯人が実は今メッチャ財力がある孤児院の院長だったんだよ。」


「あの胡散臭いおやじがか!?」


「まぁそう言うなって。あの人は見た目はあれだけど中身はしっかりした人だよ。子供たちを連れ去ったあの日も外で遊んでる子供たちが家無き子だと思ったらしくて急いで連れ帰ったらしい。だから俺はあの子供達を預けた。」


アンリはジークの腕を払いながら
サラリと述べた。


けれどジークはしつこくアンリの腕を掴む。


「だからって!アンリはどうなんだ!アンリはそれでいいのか!?」


「これでよかったんだよ。あいつらはその方が幸せなんだ。それに俺がワガママ言ってちゃあいつらを幸せにできないでしょーが。」


そう言って笑うアンリにジークは呆れたようにため息をついた。


「全く・・・お前という奴は。後悔しても知らんぞ!!」


「はいはーい!んじゃあ朝飯にしよう。ムジカ!ここ座って!」


ムジカはアンリに流されるままに椅子に座った。


向かいに座ったジークは
舌打ちをしながらイライラしている。


そんなジークを見て
アンリは苦笑しながらムジカにボソッとつぶやく。


「ジーちゃんってさ、案外やさしーんだよ。」


「うんっ」


ジークは優しい。


それは数か月いただけのムジカでもわかる。


「おいアンリ!くだらんこと話してないで早く朝食用意しろ!」


「もうジーちゃんったら恥ずかしがり屋なんだから。あっムジカ!まだ町とか見てないだろ??ご飯食べたら色々案内してやるよ!」


そう言ってアンリはまたニコッと笑った。


その笑顔を見ると
なんだか不安も吹っ飛んでしまう。


「あ・・ありがとう!!」


「いーえー」


・・楽しみだなぁ


自然とムジカの顔もほころんできて。


それをみたジークはイライラも忘れて
ムジカをここに連れてきて正解だったと心で安心していた。












「ムジカこっち!」


そのあと
ムジカはアンリに連れられて町に出た。


町はバラの香で満ちていて
それだけでもよかった。


「花屋が多いだろ?」


「うん。やっぱり皆お花屋さんになりたがるの??」


「いや。そんなことないぞ。肉屋だって魚屋だってある。」


「あはは!ほんとだ!」


「ただ皆は舞士に憧れてんだ。」


「舞士って?」


「舞士っていうのはな、花を自在に操ることができる奴らのことだよ。フラワーカウンティーに今11人いるんだ。でも舞士にはなかなかなれない。難しいんだ。花の呼吸を感じ取れなきゃダメなんだぜ?」


「花も呼吸するの?」


「そりゃ生きものだからな。だから皆舞士になるためにまずは花屋になるんだ。その中でも一番売れる花屋が舞士になれる可能性があるんだ。」


ムジカはなんとなく理解しながらふとジークを思い出した。


「ジークってバラ操ってるよね?ジークは舞士じゃないの?」


「ジーちゃんと俺のクラン一族は昔から舞士を生み出してきてんだ。ただジークは・・」


アンリは苦笑しながら小声で話す。


「・・舞士だったんだけどさ、除名されたんだ。」


「なんで!?」


「ジーちゃんは強くなりたかったんだ。ほら、ジーちゃんの弟ってダーク・ホームの奴に殺されちゃっただろ?まぁあれは仕方がなかったって姉貴から聞いたけど。だから仇をとるためにね。別に舞士になるつもりは無かったけどさ、理事会で決められちゃったんだよ。舞士になるための条件はすべてクリアしてたからさ。でもジーちゃんはなにがなんでも弟の仇を打ちたかったんだ。だから舞士の地位を捨てて変なオカルト集団に入ったんだ。悪魔狩りだっけ??あの時の理事会の奴らの顔は怖かったなぁ。」


ジークの過去は少し聞いたことはあったが
こんな深く聞いたことはなかった。


だから意外な話にビックリした。


「ついでにジーちゃんはもう俺たちクラン一族の人間じゃないんだ。その件でジーちゃんは一族からも除名された。だから今メイリンっていう名前を名乗ってるだろ?ジーちゃんは色々大変なんだ。」


アンリは頭を掻きながら笑う。


それでもどこか淋しそうで。


「アンリは・・・今のジークをどう思う?」


ムジカは少し気まずそうに口を開いた。


唐突な質問にアンリは若干困ったように頭を傾げる。


「そうだなぁ・・難しいな。ジーちゃんが今これでいいならそれでいいかなって感じ。でも・・」


アンリは足を止めて空を見上げる。


「ジーちゃんには・・・いつか舞士に戻ってほしい。」


「アンリ・・」


「ジーちゃんは俺の憧れなんだ!だからジーちゃんにはずっと俺の目標であって欲しい。いつか抜かせるように常に前にいて欲しいんだ。」


アンリのその目はまっすぐで
思いが真摯に伝わってくる。


「じゃあアンリも舞士を目指してるんだね。」


アンリは思い切りガッツポーズをとる。


「そう!俺は舞士になってこのクラン家を繁栄させるのが夢なんだ!なんか夢って感じじゃないけどな。」


「ううん。いい夢だよ。」


夢・・か


私の夢はなんだろう・・・


夢ってどういうものなんだろう


「・・・リオナ」


今・・・何してるの?


どこにいるの?


何を考えてるの?


何を見てるの?


私を覚えてる?


ねぇ・・私たち・・


どうしてこうなったの・・?


「ムジカ?」


「あっ・・ゴメンね・・!ぼぉっとしてた・・!!」


「?」


訝しげに見てくるアンリから逃れるように
ムジカは前に出た。


話を逸らすために目の前にある建物を指差す。


「あっ!ねぇアンリ!あのおっきな建物は?」


だがその瞬間
アンリの表情が一気に暗くなってしまった。


「あれは・・孤児院だよ。」


「・・!」


・・あの孤児院が・・・アンリの子供たちを連れてったっていう・・・


・・私のバカ!!


ムジカは聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして
自分の頭を叩いた。


けれどアンリはいつもの優しい笑みを浮かべながらムジカの手を取った。


「気にすんなよムジカ!言っただろ?あいつらの幸せが俺の幸せなんだよ。な?」


「アンリ・・・」


「ほらそんな顔しない!終わったことをクヨクヨ悩んでたら彼氏に捨てられちゃうぞ?」


「か・・彼氏なんていないもん・・・」


「え?"リオナ"って彼氏じゃないの?」


その言葉にムジカは顔を真っ赤にさせる。


「ま・・・さか!!全然違うよ!!というかなんで!?」


「え?だってさっき恋しそうにリオナって呼んでたから。」


「恋しそうにって・・・」


私はどんな顔してたのよっ!!


「と・・とにかくリオナは関係ないの・・!!これからその名前は禁句!」


「えー。リオナ?」


「アンリっ!!」


「はははっ!はいはい。わかったよ!」


アンリはからかうように笑いながらムジカの頭をぽんぽんと撫でる。


そして満面の笑みを浮かべながらムジカと向き合った。


「いつか」


「・・え?」


「いつか教えろよ?俺待ってるから!」


いつか・・か。


「なんで知りたいの?」


「そりゃあムジカは妹みたいだし?兄貴としてムジカに近づく男のことは把握してやらにゃいかんでしょ?」


そう言ってアンリはニカッと笑う。


そんなアンリを見てムジカは少し苦笑した。


「アンリはお兄ちゃんより友達がいい。」


「え。なんかショック!」


「なんで??お兄ちゃんだったら喧嘩しちゃうでしょ?」


「いや・・友達も喧嘩しちゃうと思うけど。」


そう言いながらアンリはもう一度孤児院を見る。


何かを決意したその目は真っ直ぐで。


でも本当に・・これでいいのだろうか。


ムジカの心にモヤモヤが残る。


「ムジカ?」


「あ、ごめんなさい」


「ははっ!どうする?俺はもうそろそろ花に水やりに行かなきゃなんないんだけど。」


「あー・・私はもうちょっと町を見てみる。」


「そう。あんま遅くなるなよ?」


「はーい」


ムジカはアンリの背中が見えなくなるのを確認すると
先ほどの孤児院に向けて走りだした。


なんとなく気になる。


本当に子供たちが幸せなのか。


アンリがいなくて平気なのか。


それを確かめたくてムジカは夢中で走る。



孤児院までたどり着くと
息を整えながら垣根に身を隠す。


そぉっと顔を出して窓をのぞくと
そこは寝室だった。


人の姿はない。


ムジカは身を屈ませながら窓を覗いていく。


すると五つ目の窓でムジカはさっとかがんだ。


声が聞こえるのだ。


ムジカは耳を澄ませて壁に張りつく。


その声はいくつか聞こえて
どれも高い。


「・・子供?」


ムジカは恐る恐る窓を覗くと
そこには5人の子供がいた。


子供たちは狭く暗い部屋で丸まっている。


その部屋の扉にはなぜか大きな鍵がかかっている。


「・・?」


これが孤児院・・?


子供を閉じ込めてるの・・・?


ムジカは子供達の表情を見る。


目には光が無く
子供らしい無邪気な笑顔がない。


「・・・・これじゃあまるで・・・」


・・昔の私みたい・・・


その時
ムジカの耳にある単語が入ってきた。


『アンリにぃーちゃん・・・』


ムジカはドキリとしながら再びかがむ。


どうしよう・・・


窓を破って連れ出すことはできるけど・・・


・・・アンリはそれを望まないかも

でも子供達は幸せなんかじゃないんだよ・・・


アンリがいなきゃ・・・


・・・でも


「・・・怖い」


ムジカの脳裏にあの日の光景がよみがえる。


トラヴァースとナタリアが殺された瞬間を。


「無理・・・だよ・・・」


私には・・できない・・・


・・・何も守れない


弱い私には・・・



ムジカは深いため息をつく。


そのまま子供たちに背を向けて帰ろうとした。


その時だった。


「・・・!!!?」


体中に電気が走るような感覚に陥る。


血が逆流する感覚。


この感じは・・・久々に感じるこの感覚は・・・


「化神・・!?」


感じられるのは確実に孤児院の中。


ムジカは息を呑みながら孤児院を見上げる。


「っ・・・」


でも・・・でも・・・


ムジカは拳を強く握り締めたまま
孤児院から走り去っていった。










勝てない。










もう








恐怖にも









臆病な自分にも。






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あきゅろす。
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