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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story67 伯爵の贈り物



民族衣装チックな正装とは言いがたい服に着替え、
リオナ達は執事の老人に連れられて夕食に向かっていた。


しかし未だにこの正装を嫌がる男がいる。


「俺は認めねぇぞ。」


「・・・・・我慢しようよ。」


「あのねぇリオナ君。キミはもっとお洒落に興味を持つべきだよ?いつも俺がチョイスしてあげてるからイケメン保ってられてるんだよ?」


「・・・・・・頭ボサボサのマーシャに言われたくはない。」


「じゃあ足して2で割りゃあちょうどイイって話か。」


「・・・・・・足すことも割ることも出来ないけどね。」


そんなボヤキをはきながら
リオナ達は暗く長い廊下を抜けていく。


「きゃっ・・・・・」


すると足元にあった猫の像にビックリしたクロードが
小さい悲鳴をあげてリオナの足をキュッと掴んだ。


クロードはお墓を見てからずっとこの状態で
何を見てもお化けと勘違いをしてしまう。


「・・・・頑張れクロード。ほら・・・きっと今から美味しいご飯が食べられるから。・・・・・マーシャいわくだけど。」


「それで美味しくなかったら俺のせいみたいじゃん。」


「・・・・そうとも言う。」


リオナはクロードの手を握って歩きながら
廊下の装飾品を鑑賞していた。


どれも年季が入っているようで
ピカピカではないが
少し黒ずんでいて逆に高級感が漂っている。


それにしてもこの屋敷の持ち主である伯爵は
一体どのような者なのか。


マーシャが吸血鬼だとか死神だとか、
自分が悪魔だということを棚に上げて言うから
伯爵のイメージは悪くなる一方だ。


結局
マーシャが出した最終結論は
"ゾンビ"。


なぜこのような答えが出たのかは
彼にしかわからない。


「・・・・ゾンビはないだろ。」


「何か言ったか?」


「・・・・・何も。」


やはりこの屋敷の広さは半端なく、
ダイニングにつくまでにどれくらいかかっただろうか。


着いた頃には眠気が襲っていた。


『それではお入りください。』


そう言って執事は扉を開いた。


《オイラいっちばーん!!!!!》


予想通り、
B.B.が真っ先に入っていく。


それに続くようにリオナ達も入っていった。


部屋はとても天井が高く
上からは煌びやかなシャンデリアが光をだしていた。


中心には長い机があり
食器が綺麗に並べられている。


だが伯爵の姿はまだない。


《すごいのだぁ〜!》


リオナは飛び回るB.B.をなんとか捕まえて、
執事に従って席につく。


『それでは今から主人を呼んでまいりますので。しばしお待ちを。』


そう言って再び執事は部屋を出ていった。


「おいお前ら。」


「・・・・?」


すると突然
マーシャが小声で話しはじめる。


「食事が出てきてもすぐに食べるなよ?俺が食べてから食べろ。」


《ぇえ!?何でよぉ!!!オイラも食べたい!!》


「・・・・バカ。・・・マーシャは毒が盛ってないか確かめてくれるんだよ。」


「え・・・・でもマー兄は大丈夫なの・・?」


「あはは。大丈夫大丈夫。俺って中に悪魔入ってるじゃん?だから毒盛られたぐらいじゃ中々死なないの。」


《じゃあオイラなんて悪魔中の悪魔だぞぉ!!》


「お前はバカだから毒が入ってても気付かないだろうが。」


《そんなことないもーんッ!!!》


言い争う2人をリオナとクロードは冷めた目で見つめた。


するとその時
奥の大きな扉が開いた。


地響きのような音を立てるため
リオナ達は思わず顔を歪める。


『やぁ、お待たせしてしまったね。』


そして扉が開ききると
1人の長身の男が出てきた。


薄茶の長い髪を下の方で一本で結い、
歩く度に髪をゆらした。


「・・・・・・」


キレー・・・


リオナは思わず見とれてしまい
口をポカンとあける。


そんなリオナをみて
マーシャは少しムッとした。


「リオナのバカ。」


「・・・・は?」


煌びやかな光を放った男は
一番端の全員の顔が見える位置に座った。


『お待たせして申し訳ない。わたくしがこの屋敷のビンクスです。』


これが伯爵か。


もっと年を取っていて
青白い顔をしているかと思ったが
案外年も若く
元気そうだ。


もちろんマーシャがいう吸血鬼でも死神でもゾンビでもなさそう。


「これはどうも。俺たちはただの旅人でして。」


『執事のカリマから聞いております。さぁお話でもしながら夕食を楽しみましょう。』


するといつの間にか自分たちの目の前には温かいスープやらなにやらが置いてあった。


執事のカリマ
なかなかの腕前だ。


そしてまずはマーシャがスープに口をつける。


その様子を3人はじっと見つめた。


だがマーシャの様子は変わらなく
安全だとわかったので
リオナ達もスプーンをもった。


『はははははっ!!』


しかし突然
伯爵が大きな声をあげて笑いだした。


何事かとリオナ達は目を丸くして顔を見合わせた。


『はははっ!!これは失礼。いや皆さんがあまりにも用心深いのでつい。大丈夫ですよ、毒は盛ってありません。』


すべてお見通しだったとは。


なぜか恥ずかしくなり
リオナは顔を赤くする。


それにしてもすごい伯爵だ。


人を見抜く力があるようだ。


『ところで皆さんはUWからいらしたのですか?』


「な!?」


思わずマーシャは吹き出しそうになった。


「アンタなんでわかるんだ?」


『実はわたくしは情報屋みたいなものをやっておりまして。最近までお仲間が二人ほどいたようですね。』


これにはリオナも驚いた。


「・・・・なんでそんな細かいことまでわかるんですか?」


すると伯爵は苦笑を浮かべながら
手に持っていたスプーンを一旦テーブルに置いた。



『実はわたくし、人を介してその人の情報を見ることができるんです。あっ、でもプライベートなことはあまり詮索しないのでご安心ください。』


《・・・すごいのだぁ!!!》


『ははは。ありがとうございます。』


まさかこの世にこんな能力者がいたとは。


リオナはますます見とれてしまう。


そんなリオナを伯爵はやさしくほほ笑みながら見つめ返した。


『大丈夫ですか?』


「・・・・・!!!!・・・だ・・・・・大丈夫です。」


すごいなぁ・・・・


リオナは率直に彼を尊敬した。


一方マーシャはそんなリオナを見てむくれる一方だが。


「ところで伯爵。なんでこんな何にもない場所に屋敷をたてたんだ?まさか昔ここにも国があったとか?」


『いいえ。わたくしたちビンクス一家は元からこの土地にいました。我々は以前は陸上貿易をしていたもので。』


「へぇ。でも今はアンタとそのじいさんしかいないんだな。」


『はい。他の者はみな情報収集に出払っています。』


大人達が会話を続けるなか、
クロードは必死に肉を切ろうとしていた。


しかしなかなか切ることができない。


「・・・・・・クロード、切るから貸して。」


「うん」


リオナはクロードの皿をとって
食べやすいように切ってやる。


「・・・ちゃんと噛めよ。」


「ありがとう」


リオナは少しほほ笑みながら
再びフォークをとる。


だが
妙に熱い視線を感じ
手を止める。


ゆっくり顔を上げると
伯爵が楽しそうにじっとリオナを見ていた。


だからリオナは顔を引きつらせた。


「・・・・・何か?」


『いや、キミはクールそうに見えて案外心は優しいんだね。ああ、予想通りだ。私はずっと君を待っていた。』


「・・・・え?」


意味ありげに笑う伯爵に
リオナは訝しげな表情を向けた。


だが
伯爵はそれ以上何も言わなかった。


『さぁ皆さん、何か知りたいことは?わたくしはあなた方に3つだけ情報を与えることができます。』


「え、無料?」


『はい、今日はあなた方に我が兵士が無礼を働いたので。今回は無料でやらせていただきます。ただし答えははっきり出せない場合もあります。我が情報屋は人生においての答えではなくヒントを与えることしかできませんので。』


だがそれだけでも充分じゃないか。


マーシャはゆっくり考える。


そして口を開いた。


「今俺たちは"ルナ=ローズ"を探している。そいつの居場所ってわかるか?」


『はい。わかります。』


まさかの速答にリオナ達は目を丸くした。


『けれど場所は教えられません。申し訳ありませんが、先ほど言ったように規則なので。ですがルナ=ローズを連れ去った者の情報ならお教えできます。』


「まじか!それでいい。教えてくれ。」


すると伯爵は執事のカリマから一枚の紙と羽ペンを受け取り
何かを書留はじめた。


『ルナ=ローズを誘拐したのは"更夜"と言う名の男です。』


「更夜・・・・!!」


すると今まで静かだったクロードが一番に反応した。


『クロード君、あなたは一度彼にお会いしたことがありますよね?』


その言葉にクロードはコクッとうなずいた。


そう言えば
時天大帝国壊滅時に、クロードは更夜に助けられたと言っていた。


『更夜という男は伝説で言われているように賢者です。神から対等の力を授かったものと言われています。しかし彼は神と違って人間や世界なんかに興味が無かったんでしょうね。だから彼自身で神を封じてしまった。まぁそんな歴史は置いておいて。今ルナ=ローズは更夜とともにいます。外傷もありません。そして彼は・・・』


伯爵は一気に書き留めた紙をマーシャに差し出した。


『あなたたちを待っています。ある国で。』


「はぁ!?」


『情報はココまでです。でも彼はあなたたちが来るまでその国を離れるつもりはないようですね。』


・・・・更夜



奴は一体何を考えているだ・・・?



でもここまでわかるとは。


本当に伯爵は何者なのか。


『さぁあと2つお教えできますよ?』


すると伯爵はまた執事から新しい紙を受け取った。


どうやらあの紙に情報を書き込んで渡してくれるようだ。


《あっ!!ねぇマーシャ!!UWにあったはずのローズ=ソウルの行方は!?》


「確かに。でもそれは教えてもらえないんじゃ・・」
『いえ、それはお答えできますよ。』


伯爵は屈託のない笑みで答える。


『答えというよりはアドバイスでしょうか。あなた方が今やるべきことはとにかくルナ=ローズと更夜を見つけだすことです。そうすれば自然とUWにあったローズ・ソウルも見つかるはずです。』


よくわからないが
伯爵が言うからそうなのだろう。


今はこの言葉を信じるしかない。

「情報はあと一個か。慎重に聞かねばってね。」


マーシャが頭を悩ます中
リオナはある事を考えていた。





・・もしかしたら・・・・・・







伯爵は・・・あの日の・・・






ウィキが死んだあの日の事を・・・






・・・知ってるかもしれない






でもこんなこと聞いたって
マーシャ達にはなんの利益にもならない。


他のもっとこれから役にたつ情報を聞かなければ。


リオナは少し気を落すが
すぐに頭を切り替える。


しかし他に欲しい情報がこれといって見つからず
リオナ達は黙ってしまう。


『別に今すぐ聞かなくても大丈夫ですよ。明日の朝までいらっしゃるのですから今夜1日考えてみてください。』


「・・・・ありがとうございます。」


『いえ。わたしこそお礼がしたいくらいだ。』


「・・・・?」


『ははっ、あまり深くとらないでおくれ。さて私はこれで失礼します。皆さんはごゆっくり。』


そう言って伯爵は椅子から立ち上がる。


『ああ、そうだリオナ君。』


「・・・・?」


伯爵に呼び止められ
リオナはキョトンとした顔を向けた。


『リオナ君に話したいことがあるんですが、少しいいですか?』


突然のことで何といえば良いかわからなかったが、
とりあえず頷いて立ち上がった。


「じゃあ俺たちは先に部屋に戻ってるから。」


「・・・・わかった。」


リオナはマーシャたちと別れ
伯爵の後ろをついていった。






長い廊下を抜けて
伯爵のものと思われる部屋に入った。


部屋は広く
しかし壁にはびっちりと本が並んでいる。


『さぁそこの椅子にでもかけてください。』


「・・・・・はい。」


リオナは伯爵が座る机の前に置かれたソファーに腰を掛けた。


「・・・・・・話したいことって?」


『はい。』


すると伯爵は両肘を机につき
指を組んで真剣な表情をした。


『リオナ君。私に何か聞きたいことはないかい?』


「・・・・聞きたいこと?」


『はい。例えば・・・あなたの弟さんのこと、とか。』


「・・・・!!!」


その言葉にリオナは思わず立ち上がった。


「な・・・んで・・・・・・!」


『これが私の能力なのですよ。私はずっとあなたを待っていた・・・リオナ=ヴァンズマン。』


次々にでてくる単語一つ一つがまるで呪文のようで
リオナは頭がくらくらする。


『以前からあなたを見ていました。』


「なぜ・・・俺を?」


『それはあなたが特別な存在だからですよ。』


「・・・・・?」


『まぁ簡単に、君は世界を破壊させる可能性がある、とでも言いましょうか。』




・・・破壊・・・・・だと?





「・・・・・ふざけるな。俺はフェイターみたいになんかならない・・!」


『そうですね。確かにフェイターにはならないでしょう。しかし・・』


伯爵は少し顔を歪め
リオナの頬に触れる。


『神ならどうですか?』


「・・・・・・!?」


こいつ・・・・何言ってるんだ・・・?


『あなたは今、世界中の生きる人間の中で一番神に近い存在と言えます。』


「ちょっと待ってくれ・・・!!」


突然大声を出したリオナは
伯爵から逃げるようにソファーに座った。


「・・・・なんで見ず知らずのアンタにこんなことを言われなきゃならない!!だいたい情報屋にしてもここまで俺たちの事を知ってるなんて・・・おかしすぎる!!」


強く言い放ち
リオナは伯爵の顔を見る。


すると伯爵はさらに顔を悲しげに歪ませながら小さくため息を吐いた。


『そうですね。いきなり見ず知らずの男にこんなことを言われるのはおかしいですよね。』


そう言って
彼はゆっくり椅子に座った。


そしてなぜか机の引き出しをあさりはじめた。


『リオナ君、あなたにお話する前に・・・私の本当の事をあなたにお教えいたします。』


「・・・・・・本当のこと?」


『はい。』


すると伯爵は一枚の写真を取り出し
それをリオナに見せた。


そこには今と変わらぬ伯爵と執事
それと屋敷の使用人らしき人物たちが大勢映っている。


『これは約10年以上も前の写真です。このころ我々は世界有数の陸上貿易の会社でした。』


「・・じゅ・・・・10年!?」


リオナは目の前にいる伯爵と写真の中の伯爵を見比べた。


しかし写真の中の伯爵も目の前にいる伯爵も
なにもかわらない。


だがすぐに衝撃の事実が告げられた。


『しかしこの写真をとった一週間後、我々は皆殺されました。』


「・・・・・・え!?」


・・・殺された・・・・!?


皆・・・!?


でも伯爵は目の前に・・・!!


『不思議でしょう?なぜ私が今リオナ君の目の前にいるのか。』


そう言って爽やかに笑う伯爵を
リオナはただただぽかんと見つめることしかできなかった。


『信じてもらえるかわかりませんが・・・ここにいる私も執事のカリマも入り口の兵隊たちも・・・全員死者です。』


その言葉でリオナは思い出す。


兵士たちを殴ったときについた緑色の液体・・・あれは血だったんだ。


今更ながらに鳥肌が立った。


『あの時、私は確かに死を実感しました。体から魂が離れる感覚を。しかし次に目覚めたときには今までと変わりなくこの屋敷にいたのです。もちろん執事のカリマも他の使用人たちも。だけどやはり皆怪しみました。一度は死んだはずなのにと。けれどその時、我々は"声"を聞いたのです。』


「・・・・・それは」


『未だに、誰かはわかりません。』


お告げのようなものなのだろうか・・・・


『初めは私も信じられませんでした。しかし"声"は私に告げたのです。"この世でやり残した仕事を遣り遂げよ"と。はじめは何をおっしゃっているのかがわからず、戸惑う毎日でした。しかしある日気付いたんです。我々に、ある筋の情報のみが自然と頭に流れ込んでくるのです。』


ある筋・・・・・?


もしかして・・・・


『フェイターとローズ・ソウル、そしてあなたの・・リオナ=ヴァンズマンの情報です。』


「・・・!?」


『"声"は私を通してあなたに世界の危機を伝えたかったのでしょう。だから私はその"声"を信じ、そして"幽霊"としての体質を利用して今まで使用人を世界中に飛ばしました。より確実なあなたの情報を手に入れるために。そしてリオナ君、いつか危機が訪れた時にあなたにそれを伝えられるように。』


初めて聞かされる事実にリオナは目を見開く。


「じゃ・・・じゃあ・・・・あなたはすべて・・・・」


『はい。知っています。』


「でも・・・なんであなたが・・・!!」


『それはきっと・・・私が初めてフェイターの存在に気が付き、そしてフェイターに初めて殺されたから、でしょうか。』


「・・・・・!?」


『以前は陸上貿易をやっていたと言いましたよね?仕事柄我々は世界を飛び回っていましてね、そのせいか我々は世界の表だけではなく、裏まで見ることができてしまいました。その一つが光妖大帝国のフェイターの存在、そしてフェイターの光妖大帝国への裏切りでした。それを知ってから私は悩みました。これを他の帝国に伝えるべきか。しかしそれがあやまりでした。あの時私は悩まずに伝えればよかったのに。迷っているうちにフェイター自体に感付かれ、気付いた時には殺されていました。だから"声"は私に最後のチャンスをくださったのです。』


長い話になりましたが、と
伯爵は苦笑を浮かべた。


しかしこれを聞かされては伯爵を信じないわけにはいかない。


リオナは息を呑む。


「じゃあ・・・俺が・・・・神に近いって・・・・どういうことだ・・・」


『知ってますか?神の復活にはローズ・ソウルだけではなく、"生きた屍"が必要なんです。』


「生きた屍・・・・」


『そう、生きているのに死んでいる。いわゆる"心"がない人間のことです。今、それに近いのがリオナ君、あなたなんですよ。』


・・・・・俺・・・が・・


心・・・が・・・ない・・・・


『最近あなたは夢にでてくる"弟のウィキ"にもてあそばれていますね?』


・・・ウィキ・・・・に・・?



この俺が・・・・?



・・・もてあそばれてるだって?


『ウィキに惑わされてはいけません。リオナ君。』


・・・俺は・・


『彼の言う事はすべて偽りです。』


・・・ウィキは・・・


『意志をしっかりもってください。でないとあなたは世界を・・・・』
「・・・・黙れ。」
『!?リオナくん・・・』
「・・・・・・・・黙れ!!!!」


まるで人格が変わったかのように
リオナはふらつきながら立ち上がった。


瞳孔は開き
口元を引きつらせている。


「・・・・アンタに何がわかる!!!ウィキの何がわかる!?ウィキは俺をもてあそんだりしない!!ウィキは俺を惑わせない!!」


『リオナ君・・・!!』


伯爵は悲しげに顔を歪ませる。


だがリオナには届かない。


「これ以上ウィキを悪く言ったら許さない・・・!!!俺はウィキを信じる!!お前の言葉になんかだまされない!!!」


『落ち着いてください・・!!私はただあなたに助言をしたかったんです!!!世界を壊すことも救えることもあなたにだったらできるんです!!!』


「いやだ・・・!!!やめてくれ!!聞きたくない・・!!!俺に世界を押しつけるな!!!」


手元にあったクッションを伯爵に投げつける。


そして逃げるようにして部屋を飛び出して行ってしまった。















・・・・・遅いなぁ。


何話してんのかなぁ?


マーシャは帰ってこないリオナが心配で
一人、部屋の前の廊下をうろついていた。


あの伯爵・・・・俺のリオナに何か変なことしてんじゃないだろうな?


あーもー!!!


気になって仕方ねぇっての!


マーシャは頭をかきむしると
少し駆け足でリオナを探しに部屋から離れた。


とりあえず
さっき食事をした部屋に戻ることにした。


あれぇ?ここからリオナどこいったんだろ?


あっちかな?


とにかく伯爵の部屋らしき大きな扉を探す。


だが方向音痴のマーシャに捜し出せるはずもなく
むしろ彼自身が迷ってしまった。


22にして迷子とは。


どうしよう。


「ここは試しに大声を出して・・」


マーシャは大きく息を吸った。


しかしその瞬間。



ドンッ!!!!!



「ギャァ!」


背中に何かがぶつかる感覚があった。


しかしぶつかったものは背中にビッタリくっついて
離れる様子がない。


あまりの恐怖に
体が固まる。


しかも背中からは真っ白な腕が伸びてきて
マーシャ自身を抱き締めるように包み込まれた。




まずい・・・。




これって幽霊!?





このままじゃ俺もあの世に・・!!!?




「・・・ぁ・・・・ぁ・・・・」


・・・・え?


背中からなにか声が聞こえる。


しかしマーシャはすぐにハッとした。


もしかして・・・・



この声・・・!!



「リオナ!?」


マーシャはバッと振り返った。


その瞬間
マーシャより頭一つ分背が低いリオナが
マーシャに抱きついてきた。


きれいな銀髪がマーシャの鼻をかすめ
肩に顔を埋めてくる。


普段なら考えられない。


だがマーシャはそれが嬉しく
しかも幽霊ではないことに安堵のため息を吐いた。


「んだよぉ〜リオナ。いつになく熱烈なお迎えだねぇ。俺嬉しくてやばいことになっちゃいそう。って・・・おーい?リオナ?」


しかしマーシャが話し掛けても
リオナから反応はない。


というより
むしろリオナはさらにマーシャに抱きついてくる。


そこでようやくリオナの異変に気が付いた。


「リオナ。お前あの伯爵に何かされ・・・」
「・・・も・・・ゃだ・・・・・・・・」


肩ごしにリオナの熱を感じる。


リオナが震えてるのがわかる。


「・・・こゎ・・ぃょ・・・・ぁぁ・・・・ぃゃだ・・・・」


「リオナ?」


「・・・・俺に・・・・は・・・・ウィキしか・・・いなぃんだ・・・・!!!!・・・・ウィキだけ・・・なんだ・・・・!!!」


その言葉に
マーシャは唖然とする。


・・・・・ツキン


あれ・・・なんでだ・・・?


「・・俺に・・・は・・・世界は・・・救えなぃ・・・・」




ツキン・・・・





まただ・・・・




「ウィキがいれば・・・何もいらないんだ・・・!!!!」




ツキン・・・ツキン・・・




なんか・・・痛い。




心臓?




いや違う・・・・









心が・・・・・・痛いんだ







「・・・マー・・・・シャ・・・・・・?」


気が付けば自分がボケッとしてて。


リオナが心配そうに見ていた。


「ぇ・・・ああ。悪い。大丈夫だ。」


そう言っていつもみたいに笑ってやる。


心はそうでもないのに。


「・・・・ねぇ・・・早くこんなとこ出たい・・・・」


「・・・そうだな。夜が過ぎればすぐに帰れるから。」


「・・・・うん」


マーシャはリオナの肩を支えながら
部屋にもどった。









わかってた・・・・














・・・・わかってたさ















リオナがウィキを求めてることくらい















理解してるつもりだった・・・・















でも
















はっきり言われると















・・・・寂しいんだ














リオナが必要としてるのは











俺じゃなくって















ウィキだって










わかってても












苦しいんだ・・・・
















なぁ・・・・















リオナ















リオナは・・・















俺を求めてはくれないのか・・・?














俺じゃなくて













ウィキじゃなきゃだめなのか?















なぁ・・














・・頼むよ・・・・















お前が望むこと・・













・・何でもする・・・・












だから












俺に
















リオナの























心をちょうだい。

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