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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story64 鬼は静かに夢を見る








俺がいつも求めていたのは














世界の平穏だと












そう思っていたんだ












でも











本当は











戦いのない世界とか












神のいない世界とか












そんなもの


どうでもよかったのかもしれない












上辺だけで












生きてきたのかもしれない










愛なんていらない












幸せなんて求めない











希望なんて欲しくない













だって











どうせ











届く前に











消えてしまうのだから
















ダーク・ホーム


食堂


夜中の12時になっても未だにテーブルを囲っている3つの影があった。


「おいシキ!!!お前さすがに飲み過ぎだぜ!?」


「そうね。シキ、あんたこのお酒いくらすると思ってるの?」


「って値段かよっ!!!!」


そこにはシキとラードとユリスがいた。


シキはどうやら飲み過ぎで机に俯せていたが
まだまだいけると言って再び手にビンをとる。


「おいおい!さすがにやめとけっ!!」


ラードがビンを取り上げると
シキはムッとした顔をして睨み付けてきた。


「・・・・・酒。追加ぁ〜。してくらさ〜い。」


「あっ。しなくて結構よ。」


ユリスが慣れた手つきで扱い
シキは漸く静かになった。


「それにしてもシキどうしたんだよ。何があったんだ?」


「別にぃ〜・・・・」


「水臭いわね。ほらっ!さっさとはいちゃいなさいよ!!!」


バシッ!!!!!


「グェッ〜!!」


「あ"!!!ばかユリス!!力強すぎだっての!マジで吐いちまったじゃねぇか!!あーあーこんなとこで吐くなよぉ!!」


「ん〜・・・・スッキリしらね。」


・・・・お前はな。


2人はシキに向けて精一杯の笑顔を向けた。


「ねぇ何があったのよ?アンタがこんなになるまで飲んでるなんて珍しいわよ?」


「・・・・・・そうらね。」


「言えよシキ。俺たち誰にも言わねぇからよっ!!」


「嘘ら。ぜっらい言う。」


「言わないわよぉ!


シキは2人を品定めするように眺め
しばらくしてから口を開いた。


「マーシャ達が・・・UWにいたんらよ。」


その言葉を聞き終わる前に
ラードとユリスは酒を吹きだした。


シキがこんなに落ち込むのだから失恋話だと思い込んでいたからだ。


「ぇえ!?何でまたあんなとこに!!!」


「さぁ・・・でも知ってたか?UWにローズ・ソウルがあったんらって。ヒック!」


「なにぃ!?」


「じゃあまさかマーシャ達はローズ・ソウルをとりに行ったわけ!?」


「・・・・それはわからない。偶然かもしれないし・・。ただな・・・マーシャ達がUWにいることと・・ローズ・ソウルがUWにあること両方ともすでにマスターは知っている。しかも2つの捜索隊までだしたらしい。片方はキャロル三兄弟だ。」


段々とすごい話になっていくのに対し
ラードもユリスも唖然としてしまう。


「てかなんでそれをシキが知ってて俺たちが知らねぇんだよ!!」


「・・この話はDr.デヴィスに聞いたんだ。デヴィスは救護班として任務を任されたらしいが断ったんだって。どうやらこの話はマーシャやリオナと仲が良かった者達には極秘だったらしいんだ・・・・。」


「んなっ!!!早く言ってくれてりゃ俺たちが先に見つけて逃がしてやれたのに!!」


「バカね。マスターはそれを恐れてわざと私たちに隠したのよ。」


「んで!?今どういう状況なんだよ!!!!」


なぜか今にもシキを殴り飛ばしそうな体勢になるラード。


そんな彼を押し退けながら
シキは深くため息をついた。


「それが・・・最悪な事態になった。」


「ぁあ!?」


「UWが全焼した・・・。」


「ぇえぇぇぇえ!?」


ユリスは散々叫んだが
今更ながらに周りに誰もいないことを確認した。


「じゃあダーク・ホームの捜索隊は!?」


「幸か不幸か・・・その前にUW側が入るのを拒否したらしいんだ。最初はダーク・ホームが入るのを許可したらしいんだがな・・・恐らくダーク・ホームの思惑に気が付いたんだろう。だからついこの間、引き返してた。」


「通りでビットウィックスの機嫌が悪いわけだ。」


「それアンタにはいつもでしょう。」


「でもなんで全焼・・・ま、まさか!!!フェイター!?」


シキは無言で頷く。


「じゃあローズ・ソウルは奪われたってか!!!」


「・・・わからないが・・・奪われた可能性は高い。」


「ローズ・ソウルなんかどうでもいいわっ!!!とにかく今はマーシャ達が無事かどうかよ!!!」


「・・・・・・そうだな。あ・・・この話は俺たちだけの秘密だからな。」


「え?ベンとコールには言わないの!?」


その名前を聞いた瞬間
シキの顔が明らかに嫌そうな顔をした。


「コールは・・もう知ってる。しかもすでに探しにも行ってるみたいだ・・・。」


「そう言われれば最近見ないものね。でもベンには言ってもかまわないでしょう?」


「・・・・いや、ベンには・・・・」


「・・・?」


黙りこくるシキに対し
ラードとユリスは首を傾げた。


だがその瞬間、
食堂内に今までなかった多くの足音が鳴り響いた。


3人は何事かと顔を入り口へ向ける。


そして一気に顔を引きつらせた。


「こんな夜遅くに宴会ですか?まぁこの顔触れじゃあただの反省会程度にしかなりませんかね。」


嫌味を軽く言い放つ男
ダーク・ホームのマスターであるビットウィックスはにこやかな笑みで3人に近づいてきた。


しかもその後ろにはビットウィックスお気に入りのキャロル三兄弟に加え
スバルを含めた使用人軍団がぞろぞろとくっついていた。


「ぁあ!?んでてめぇみてぇなお偉い奴がこんな食堂にきてんだぁ!?」


真っ先に立ち上がり
ビットウィックスにガンを付けたのはもちろんラード。


「ふん。またキミか。いつもいつも目障りですね。」


「うっせぇよ!シスコンの癖に偉そうにいうなっての!」


「シスコン?聞き捨てなりませんね。私はただ兄としてムジカを心配しているのですよ。」


「はぁ!?適当なこと言いやがって!だったらなんでムジカが天上界で虐待されてたんだよ!?」


「ほう、ムジカがそう言っていたのですか?なら誤解ですね。私は彼女を思って・・・」
「マスター・・!」


スバルの呼びかけでようやくシスコン論議に終止符を打った。


「すまないスバル。こんな話をしに来たわけではないのにな。」


そう言ってビットウィックスはラードを押し退け
ユリスとシキが座るテーブルの前にやってきた。


「シキ。今日はあなたにお話したいことがあります。」


いきなりの出来事にユリスは驚きの表情でシキを見た。


だがシキは予想以上に落ち着きを払っている。


「・・・俺に何のようですか。」


「詳しくはここで言えないですが・・・そうですね。簡単に言うとあなたの"裏切り"ですかね。」


そう笑顔で語るビットウィックスに対し
シキはただ無表情を貫く。


「はぁ!?裏切りって何だよ!!!誰が誰を裏ぎったってんだ!?」


「だから、シキが我々ダーク・ホームを裏切ったんですよ。」


だが未だに状況が掴めないラードとユリスは怪訝そうな表情を浮かべ
ビットウィックスを睨んだ。


「一体何を言ってるの・・・?」


「まだわかりませんか?シキはダーク・ホームに潜む敵・・・フェイターなのですよ。」


「なに!?!?」


まさかの言葉にラードは目をひんむいてシキを見た。


だがシキはラードの視線から逃れるように顔を背けるだけ。


「まさか・・・シキが!?」


「ないわっ!絶対」


「でも残念ながら証拠も挙がってるんですよ。」


そう言ってシキの前に
様々な物が乱雑に置かれた。


「この通信機や・・日記帳。すべてを物語っていたけど、もちろんあなたも見覚えありますよね。」


「・・・・・知らないな。」


「しらをきるつもりですか?これはすべてあなたに与えた研究室から出てきたものですよ?しかも証言者もいます。」


「証言者だと!?誰だそんなこと言った奴は!!ぇえ!?」


「残念ですが匿名希望でしてね。お教えはできませんが・・・」


クスクス笑いながらも
ビットウィックスはシキに冷たい視線を送った。


「今回のダーク・ホームのUWへの入国できなかった件・・・あなたがあちらの国にいらぬ事を吹き込んだと聞いております。」


「・・・・俺は何もしていない。」


「ですがね、録音記録があるんですよ?ほら・・」


そう言ってビットウィックスは手に持っていた再生機を押した。


するとそこからは確かにシキと思われる声が聞こえてきたのだ。


「・・・・・・っ!!!!!!!!」


シキもあまりの衝撃に言葉が出ない。


「どうですかシキ?このあなたの行動が何よりの証拠です。おかげでローズ・ソウルを逃してしまいましたよ。」


「・・・・・・俺じゃない!!!!!」


シキは立ち上がり
ビットウィックスに掴み掛かろうとする。


「・・・俺じゃない!!そもそも俺はこの事すら知らなかったんだ・・!!!」


「何を言いだすのかと思えば・・。もう遅いですよ。スバル。捕らえなさい。」


スバルは何人かの使用人を連れてシキを抑えつけ
腕を縛り上げた。


シキはすでに叫ぶのも止め
ただ茫然とその状況に身を任せていた。


だがその表情は何か言いたげで、
でも何も口にしない。


「連れていけ。」


そうしてシキはゆっくりとスバルに引かれて歩きだした。


だがそんなシキを見て
ついにラードの堪忍袋の緒が切れた。


「おい!!!てめぇら待てよ!!!シキ!!!シキもなんとか言えって!!!あきらめんのかよ!!え!?」


呼び掛けても反応を見せない。


「シキィ!!!!!」


だが最後に
シキはピタリと足を止めた。


そして予想外の行動に出る。


シキは一度だけ体を大きく振り、スバルの手から逃れ
走ってラードとユリスの元に走ってきたのだ。


二人は驚きながらも
シキのふらつく体を支えた。


「おいシ・・」
「・・・時間が無い・・・!」
「え?」
「マーシャに・・・伝えてくれ・・!!!」


だが言い終える前にビットウィックスにとらえられてしまう。


「行きますよ。」
「くっ・・・・・!!!!!」


シキは無理矢理連れていかれ
ほとんど引きずられる状況でもシキは何度もラードとユリスを振り返る。


そしてシキは最後の力を振り絞って叫んだ。


「"鬼は静かに夢を見る"と・・・!!!!!!」


それだけを残し
シキは連れていかれてしまった。


取り残されたラードとユリスは
顔を見合わせていた。


「"鬼は静かに夢を見る"?」


「意味がわからないわね・・。」


2人は頭を悩ませながらももう一度テーブルにつく。


「もしかして・・真犯人じゃない!?」


「なに!?」


「絶対そうよ!!きっと真犯人を伝えるものよ!」


「そうか!!それでマーシャならそれを知ってるのか!!!」


「じゃあそれを伝えに・・・」
「・・・・・二人とも・・何をしている・・・」
「!!!?」


突然誰に話し掛けられたのかと
ラードとユリスはビクッと顔を上げた。


するとそこには静かにベンが立っていた。

「なによ!!!ベン!!脅かさないでちょうだい!!!」


「・・すまない・・・・何をやっているのかと思ってな・・・・・」


ベンはテーブルに置かれたコップの数を見て不思議そうな顔をした。


「・・・シキか・・・・?」


「ええ・・。何だかわからないけど捕まっちゃったのよ。フェイターのスパイだとか言われてね。」


「・・・スパイ・・・」


ベンは表情を変えずにぼそりとつぶやく。


「・・ところで・・・何を伝えに行くんだ・・・・・?」


「え?」


「・・・さっき・・・・何かを伝えるとかなんとか聞こえたから・・・・・」


「ああ!!そうそう!!実は・・・」
「Dr.デヴィスにだよ!!!!」
「ラード!?」


今まで黙っていたラードが
ユリスの言葉をさえぎるように入ってきた。


「・・・デヴィスに・・・・?」


「ああ!シキがデヴィスに薬頼んでたんだよ!後で持ってきてくれってさ!それを伝えに行くべきか行かないべきか悩んでたんだよ!!な!?ユリス!」


「え・・ええ!!!」


2人の話に少し表情を変えながらも
ベンは静かに頷いた。


「・・・そうか・・・・・なら伝えてやれ・・あまり飲み過ぎるなよ・・・」


そう言ってベンは手を振りながら食堂を出ていった。


またまた残されたラードとユリス。


だがすぐにラードの頭に拳骨が降り注いだ。


「いってぇぇ!!!!!!!」


「あんたなんでベンに嘘ついたのよっ!!!!」


「何でって・・・なんとなく・・だよ。」


珍しく弱気のラードにユリスは怪訝そうな表情を浮かべる。


「だってよ・・さっきシキがベンの名前を濁したから・・アイツには言わないほうがいいのかって思ってよ。」


「ふぅん。確かに、ね。さえてるじゃない。」


「うっせぇよ!!」


「とにかく。これは重大機密よ。早くマーシャに伝えなくちゃ。」


そう言ってユリスは立ち上がり
すたすた歩きだす。


「おい!!ユリス!?」


「なによ?あんたも早く準備しなさいよ!!!」


「今から行くのか!?だって夜中だぜ!?」


「ばかね。昼間に行けるわけ無いでしょう。行くなら今よ。」


そう言ってユリスは再び歩みをすすめた。


「ったく!これだからアイツは彼氏に逃げられるんだよ!!」


「何か言ったかしら?」


「別に。」


ラードも立ち上がり
ユリスの跡を追う。


「なぁユリス。」


「今度は何。」


「俺さ、なんだかもうダーク・ホームには戻れない気がしてきた。」


またまた珍しく弱音を吐くラードに対し
ユリスは少し笑みをこぼした。


「私もよ。でもそれでいいじゃない。シキを助けられるならね。」


「まっそうだな。」


2人は黒いコートを羽織ると
そぉっと外に出た。


そして一度も振り返ることなく
ダーク・ホームの外へと繋がる扉をくぐった。







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