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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story159 はじまりの場所
全ての始まりは大魔帝国だった。

人口約3500万人という民族にしては最大規模を誇っている国。

魔術という特有の能力を持つ種族が集まり、高い戦闘力を評価されてきた。

帝国内では階級制度が厳しくなり、貧困の差が大きい国でもあったが、国民の生活水準はどの国よりも満たされていた。

だがそんな国でも、終わりがある。

俺にとっての始まりはいつだって、
故郷であるここ、大魔帝国だ。

生まれた場所
家族を失った場所
"あの人"と出会った場所。

そして今日、ここで、再び始まりを迎える。















あの日以来、一度も足を踏み入れることが無かった大魔帝国。

行こうと思ったことは何度もあった。

それでも行かなかったのは、やはりココロがまだ拒絶していたからかもしれない。

帝国が壊滅したということはもちろん知っている。

だが実際に目で見た時、
俺は再び前を見て進めるのか、不安だった。

「・・・・・・・・ただいま」

大魔帝国に足を踏み入れたリオナは、
小さな声で囁く。

返事が無いと分かっていながらも、やはりここは自分の故郷なんだと思いたかったから。

大魔帝国の入り口には、かつて巨大な門があり、そこを守る巨神兵が2体いた。
だがその巨神兵も姿を無くしている。

歩みを進めると、まずたどり着くのがカルバーデンという町。
童話に出てくるような可愛らしい家々が立ち並ぶ町で、観光客向けに作られたものだ。

外から来るものたちには、汚いものではなく綺麗なものしか見せない。
それが大魔帝国のモットーだから。

それが本当に正しいことなのだとしたら、なんと汚く、醜い者たちなのだろうと思う。

確かにここは自分の故郷ではあるが、国としては最悪の国だった。

ダーク・ホームに入り任務で世界中にある国々へ行ったことで、自分の故郷がどれだけ独裁的で、民主的でないかを実感させられた。

だから入り口から道なりに沿って歩いていても、汚いものなんて一切ない。

観光客はこのまま綺麗な町並みに囲まれながら、メインである中央都市にたどり着くことができるのだ。

その裏に、貧しい者たちの汚らしい町があることも知らずに。

そんな見せかけの可愛らしい町も、人も、今や全て失われていた。

けれど崩れ去った家々を見ても、リオナはあまり痛みを感じなかった。

ココロがもうほとんど無いせいなのか。

わからない。

ある意味、更夜に感謝しなければと思った。

もし普通の"リオナ"として来ていたら、
おそらく耐えられなかっただろう。
痛みと悲しみに。



リオナがここに来たのには"理由"が2つある。

1つは魔術書を探しに来たということ。

ただの魔術書ではない。禁忌魔法が書かれた魔術書だ。

最期の戦争に備え、準備をしなければならない。

2つ目の理由は、"月の谷"。

"3回目の満月の夜"に、"月の谷"に行かなくてはならない。

ただ"月の谷"がどこにあるのかがわからない。
調べても全くわからなかった。

けれど、魔術書に関しても、"月の谷"に関しても、
どちらも大魔帝国に来ればわかる気がして。

なぜならここ大魔帝国には、誰にも負けない"偉大なる師匠"がいたからだ。







気がつけば中央都市にたどり着いていた。

ここに来たのは3回目。

1度目は家族で。

2度目は・・・・ウィキと。

「何も・・・・変わってない。」

最後に見たのは、燃え盛る家。倒壊する街。

あの時の状況が目に焼き付いている。

街の中央にある巨大なクリスマスツリーも、
今や燃え落ち、原形を無くしている。

何度も思った。
もし、あの時に戻れたらと。
家族みんなで笑って過ごしたあの日々に。

お金がなくたって、服がボロボロだって、食べ物が何もなくたって、
ただ、父さんと母さん、ウィキ、バルド、サラ、トラ婆さえいれば、それで良かった。

もし戻れるなら・・・・、戻れるなら?

俺は戻るのだろうか。






ようやく中央都市を抜け、たどり着いたのはラグの町。

生まれ育った、本当の故郷。

しかし、リオナは愕然とした。
目の前に広がる光景に。

中央都市は家の残骸が残っていたものの、
ラグの町は何もない更地になっていた。

木や草も一本もない、瓦礫すらない、無の土地と化していた。

全て、奪われてしまったのか。
思い出すらも、奪われてしまった。

リオナは唇を噛み締め、何も見ないようラグの町を早足で歩く。

自分がここへやってきた目的も無駄になるような気がして、焦りを押さえながら前に進む。

しばらくすると、リオナは突然足を止めた。

下を向いたままだった顔をゆっくりと上げると、
リオナは驚きで目を見開いた。

「・・・・あった」

リオナがここ、大魔帝国に来た理由。

それは、師匠であるバルドの家に行くためだった。

バルドは大魔帝国一の魔法使い。
知識もバルドの上をいくものは恐らく誰もいないはず。

そんな彼の家には沢山の本があった。

バルドの家に行けば、禁忌魔法、そして"月の谷"の場所がわかるかもしれない。

そう思ってここへ来た。

バルドの家は他の家とは違い、鉄やら銅やらで作られた頑丈かつヘンテコな形の家だったため、もしかしたら残っているのではと思って来てみれば大当たりだ。

かなり痛んではいるものの、更地に一つだけポツンと残されている。

リオナは思わず走った。

懐かしいバルドの家に胸を躍らせて。

「バルド・・・・」

大好きだった、世界でたった一人の師匠。
自分を孫のように育ててくれた。
たくさんたくさん、愛をくれた。

リオナはドアノブを握り、捻ってみる。

やはり、鍵が掛かっていた。

だがリオナには"鍵"がある。

バルドとの別れの日に、バルドがリオナとウィキに一つずつ渡した家の鍵が。

リオナはポケットから大事にしまっていた鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。

恐る恐る捻ってみると、カチャっと音がして扉が開いた。

高鳴る胸を抑え込むように一呼吸置いて、
リオナはゆっくりと中へ入って行った。

バルドの家の中は、あの時のまま時間が止まっていた。

3人で使っていたテーブル。
悪戯書きばかりの壁。
バルドが吸っていたタバコの吸殻。

どれもこれも、あの時のままだ。

すると、リオナの目にある物が映った。

床に散らばったガラスの欠片。

リオナはそっとしゃがみこみ、欠片を拾い上げる。

ああ・・・・忘れるか、忘れられるものか。

これは俺が、バルドに投げつけた花瓶の欠片だ。

あの時俺は、バルドにこの町から出て行くと別れを告げられ、哀しみのあまりバルドに酷い事を言って花瓶を投げつけたんだ。

"俺はバルドみたいになんかなりたくないっ!!!バルドなんて大っ嫌いだ!!!"

なんだ・・・・俺はあの頃から何一つ成長していない。

思ってもいない事を口にして、後悔ばかりする。

なぜあの時、俺は素直に喜んであげられなかったのだろうか。

ウィキのように、素直に「おめでとう」と言えなかったのか。

今だってそうだ。
"彼"と別れる時だって、「愛してる」と言えなかった。
クラッピーにだって・・・・・・・・

俺が放つ言葉は、いつだって拒絶の言葉。

自分が傷つくのが怖いから、いつだって逃げてきた。

なんて・・・・なんて最低で、愚かなのだろうか。

涙が溢れ出る。

リオナはその場にうずくまり、声を出さずに涙を流した。

















泣き疲れたせいか、それともようやく落ち着ける場所に来たせいか、気が緩んでリオナは眠ってしまっていた。

ここなら鍵もかけられるため、安心して体を休めることができた。

何日ぶりに眠っただろうか。
疲れ切っていた体も少しばかり体力を取り戻した。

目が覚めてから、リオナは本棚を漁った。

こんなに沢山の魔術書があるなんて・・・・

久々に胸が踊る。

自分が知らない魔術が沢山あって、1日があっという間に終わってしまう。

目的であった禁忌魔法の本はすぐには見つからなかった。

だが、本棚を漁っているうちに隠し棚を見つけ、そこから禁忌魔法に関する本が見つかった。

バルドは子供だった俺たちの手の届かないところに、この危険な本を隠していたのだろう。

こうして1日中本を読み漁る日々が続き、5日がたった。

夢中になり過ぎて、寝ることすら忘れていたくらいだ。

ようやく冷静になり、リオナは一度本を手放す。

一旦落ち着こうと立ち上がったその時だった。

ガチャ・・・・ガチャガチャ・・・

突然、家の玄関のドアノブが捻られた音がした。

リオナはとっさに身を隠す。

まさか、もう追っ手が・・・・?

緊張が高まる中、リオナは武器を構える。

なぜ居場所がばれたのか。
なぜ自分は追っ手に気がつかなかったのか。

頭の中に焦りと不安が募る。

ガチャリ。

そしてついに、ドアが開く音がした。

ゴクリと唾を飲み込み、息を止める。

けれど気配からして近づいてくるのはたった1人。
しかも、悪魔の反応は感じられない。

だが、遠くの方から強い悪魔の反応を感じる。
ものすごく強い・・・・。

もう逃げ道はない。
でも、たった1人なら部屋に入ってきた瞬間に仕留めることができる・・・・

足音が徐々に近づいてくるのがわかる。

リオナの視界に何者かの足が入り込んだ瞬間、
リオナは地面を蹴り、その何者かを勢い良く地面に押し倒した。

「・・・黙れ。声を出したら殺・・・・・・・・」

その時、リオナは目を疑った。

自分が地面に押さえつけている人物に。

今までにないくらい、
驚きと動揺を隠せずにいた。

自分と同じくらいの体格に、銀色の柔らかい髪。

真っ白な肌と対照的にまん丸と見開かれた漆黒の瞳がリオナを捉えている。

まさか・・・・まさか、まさか。

この時を、十何年待ちわびたことか。

押さえつけていたリオナの手が震える。

ゆっくりと手を離し、その顔をしっかりと見た。

「リ・・・・オナ・・・?」

「・・・・ウィキ?」




そう、ここはいつだって俺の、"俺たち"のはじまりの場所。

けれどこれが最後のはじまり。

"はじまり"にはいつだって、"別れ"が伴う。

そうだろ・・・・ウィキ。


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あきゅろす。
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