【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story158 大切な家族
「じゃ、じゃあリオ兄は神を復活させるの!?」
「・・・・シッ。」
「ご・・・ごめんなさい」
リオナたち3人は足早に道を進みながら、
何も知らなかったクロードにすべてを話をした。
更夜との契約、
ダーク・ホームからの脱走、
そしてこれからのことを。
もちろんクロードは目を丸くして驚いていたが。
「・・・・巻き込んでごめん。だけど、ここまでくるにはクロノスの力が必要だったんだ。」
「リオ兄・・・・」
クロードは足を止め、暗い表情のまま顔を下げた。
ああ、やはり巻き込むべきではなかった。
後先考えずに自分の利益のために彼らを利用してしまった。
でも仕方がなかった。
この話は、更夜の契約によって他の者には一切できなかったから。
少しでも話そうとすると口が動かなくなった。
だが、更夜の友人であり、時の神である彼らになら話せるのではないかと踏んで話してみれば、大当たりだった。
おかげでここまで来れたのだ。
だが、結果的に彼らを巻き込み、危険に晒したのには間違いない。
後悔しても、遅い。
「・・・・クロード、俺は」
「リオ兄は間違ってる。」
すると、クロードの口から思いもよらない否定の言葉が飛び出した。
リオナは驚き、顔を上げる。
「リオ兄は間違ってるよ・・・!!!!」
クロードの目から涙が流れ落ちる。
その表情は悲しみより怒りで満ち溢れていて・・・・
「自分の命を粗末に扱うなんて許せないっ!!!」
「・・・・っ、」
何も、なんにも言い返せなかった。
こんな幼い子に言われるなんて。
「マー兄の気持ちも仲間の気持ちも何も考えてない・・!!!リオ兄を大切に想う人の気持ち考えればそんなことできない筈だよ・・・・!!!」
クロードの言う通りだ・・・・。
俺は自分のことしか考えてない。
自分が良ければ・・・と。
ズキズキと、胸が痛む。
情けない。
「リオ兄はっ・・・・」
<待つッチョ。>
すると、今まで黙って聞いていたクラッピーが、クロードの言葉を遮った。
クラッピーはクロードの前でしゃがみ、クロードの顔を覗き込んだ。
<これ以上リオナを責めちゃダメッチョ。リオナも色々考えた末にこの答えを出したッチョ。>
「クラッピー・・・・っでも、」
<それに、リオナに手を貸したのはボクちんたち、"クロノス"だッチョ。"クロノス"の意志はボクちんたちの意志。違うッチョか?>
クラッピーの問いかけに、クロードは不満気な表情を浮かべながらも、小さく頷いた。
「・・・・、・・・うん、クロノスの意志は僕たちの意志だね。」
クラッピーはニコッと笑い、クロードの涙を拭ってやる。
<成長したッチョね!良い子良い子だッチョ♪>
まさかクラッピーが間に入るとは思いもしなかった。
驚きでぼんやりしていると、クロードはこちらに近寄り、目を真っ赤にさせて呟いた。
「リオ兄・・・・ごめんなさい」
なぜクロードが謝る必要がある?
何も悪くないのに。
ただ、本当のことを言っただけなのに。
「・・・・謝るのは俺の方だ。」
「違うよ・・・・ただ、悲しかったの。リオ兄が・・・・リオ兄が死んじゃうのはイヤ・・・・っ」
ぎゅぅぅぅっと抱きついてくるクロードを、
リオナは抱き返せなかった。
自分は・・・・汚れてる。
さっきクロードが言っていた通り、俺は・・・・
<・・・・。>
日が暮れるのはあっという間だ。
1日が過ぎるのが最近ではもっと早く感じる。
闇が刻一刻と近づく音がする。
夜、
精神面でも肉体面でも疲れが限界に達しそうなリオナたちは、一度休むことにした。
生い茂る森に身を隠し、
体を休める。
クラッピーは昼間のクロードとリオナのいざこざを思い出しながら、体を横にした。
クロノスは普段あんなに声を荒げて怒る方ではない。
だから正直驚いた。
感情的になるくらい、リオナが大切な存在だということなのか・・・。
それとも・・・・
でもそれより、リオナのあの時の表情が忘れられない。
無表情だったけど、
あれは傷ついた顔だった・・・・。
<・・・・・・・・、>
クラッピーは横で眠るクロードを起こさないように体を起こす。
<あれ・・・?>
さっきまで目の前で目を閉じて座っていたリオナの姿が無かった。
ここ最近、リオナが寝ることはない。
ずっと起きている。
だが、姿をくらますことはなかった。
嫌な予感がする。
まさか自分たちを置いて1人で・・・・!
クラッピーは慌てて辺りを探し回った。
<リオナ・・・・リオナ・・・!!!>
リオナは責任を感じている。
ボクちんたちを巻き込んだことに。
けれどこれは"必然"であって、"偶然"じゃない。
だからリオナが負い目を感じることは・・・・っ
と、その時。
<イデッ・・・・うわぁぁあ!?!?>
クラッピーは木の根っこに足を引っ掛け、
思いっきり転んでしまった。
<ギャッ!!!!>
盛大に声をあげて。
だがその時、
クラッピーが捜し求めていた声が頭上から降り注いだ。
「・・・・クラッピー?」
<え、・・・・リオナ!?>
なんというタイミングというかシチュエーションというか。
目の前にリオナが現れた。
驚きと共に安心感でいっぱいになる。
<よ、よかったッチョ〜・・・!!!!>
「・・・・は?全然良くないだろう。ほら。」
変人でも見るような目を向けてくるリオナ。
そんな表情をされても嬉しいから全然気にしない!!!!
リオナに差し伸べられた手をぎゅっと握り、
立ち上がる。
<ありが・・・・、・・・・!!!!>
気がつけば、リオナとの距離が近かった。
クラッピーはドキドキしながら、
自分より少し背の高いリオナを見上げる。
透き通るような銀の髪が月明かりで輝きを増す一方、
顔色は日に日に悪くなっていっている。
それでも、美しさは増すばかり。
なぜだろうか。
「・・・・クラッピー?大丈夫か?」
<はっ!!!つい見とれてしまってましたッチョ!!!>
「・・・・大丈夫そうだな。」
リオナはクラッピーの頭をクシャクシャっと撫でる。
そんなことでも、嬉しくて舞い上がってしまう。
はぁ・・・・やっぱりボクちんはまだ・・・
<じ、実はね、リオナに・・・・おいていかれたかと思ったッチョ・・>
「・・・・なんで?」
<なんとなく、だッチョ・・・・。>
その言葉に、リオナはクスクスと笑った。
久々に見たリオナの笑顔・・・・やっぱ最高だッチョ!!!!
と何故かクラッピーの頬が赤く染まる。
「はは・・・・ただ見張ってただけだよ。皆で寝るわけにもいかないだろう。それにこんな森に2人をおいていくわけない。万が一そんなことするとしたら、ちゃんと安全な場所において・・・・」
<嫌だおいていくなッチョ!!!!!!>
思わず大声をあげてしまう。
<リオナ・・・っ、お願いだからボクちんを連れてって・・・・!!>
「クラッピー・・・・」
<約束したでしょ!!!破らないで!!!!>
クラッピーはリオナの服を掴み、必死で訴える。
だが、そんなクラッピーにもリオナは無表情で見つめるだけ。
それがもどかしくて、もどかしくて・・・・
<リオナっ・・・・>
名前を呼べば、ようやく口を開いてくれた。
「・・・・クラッピー、俺は汚い。」
リオナの眉間に皺がよる。
「・・・・俺はお前たちを利用して使い捨てのようにした汚い奴だ。さっきクロードに言われてようやく気がついた。自分は偽善者だ。神を倒すために、弟を助けるためにって言ってるけど、結局は全部自分のためだ・・・・。」
<そんなことな・・・・>
「死にたいんだ・・・・」
<・・・・!?>
「俺は弱く・・・・醜い。これ以上傷つくのも苦しむのも嫌で・・・死にたくて死にたくてたまらない。毎日毎分毎秒そう思ってる・・・・!!・・・でも俺は・・・・惨めに死ぬくらいなら、いっそ美しく死にたいと思ってたのかもしれない。」
リオナの瞳から、一筋の涙が流れ落ちる。
「俺はね、クラッピー・・・・本当は"人間"じゃないんだ。クラッピーと同じ・・・"人形"なんだ。」
<・・・・っ!?!?>
突然明かされた事実に、クラッピーの目が見開かれる。
<じょ・・・・冗談でしょ・・!?>
「冗談だったらよかったのにね・・・・。俺は最初から神の器として作られた空っぽの人形だったんだ。なのに一緒に生まれてきた弟の心を奪って、人間になってしまった。その上、その事実を知らずに今までのうのうと生きてきてしまった。弟の心を奪ってまで、生にしがみついてしまった・・・・」
<リオナ・・・・っ>
「偽善者なんだっ、クラッピー・・・・俺は汚くて醜い・・。だからお前たちをこれ以上俺のせいで汚したくない・・・・」
リオナが今までどれだけ葛藤し、悩み続けていたのか、今ようやく気がついた。
なぜもっと早くに気がつかなかったのか。
そうすれば、リオナにこんな想いをさせなくてすんだのに。
<違う・・・・リオナは汚くない。>
クラッピーはリオナの両手を掴む。
リオナは振り払おうとしたが、
クラッピーの力の方が強かった。
<リオナ・・・・聞いて。ボクちんは・・・・いや、ボクはね、リオナが汚れてようが綺麗だろうが、どうでも良いんだよ。>
だってボクを暗闇から救い出してくれたのは、
誰でもないリオナなんだから。
<人間だろうが人形だろうが関係ない。リオナはボクの大好きで大切な"リオナ"だよ。>
「クラッピー・・・・」
<ボクさ、一回リオナにフられちゃったけど、今でも大好きなんだ。リオナの全部がスキ。だからリオナについてきた。やっぱり初恋は忘れられないなぁ〜って、さっき思った。>
クラッピーはリオナの手をギュッと握りしめ、しっかりと見据える。
<リオナは偽善者なんかじゃない。もしボクを助けたのも偽善だって言うなら、ボクはそのリオナの偽善に心から感謝する!ありがとうって!1人でもリオナに感謝してる人がここにいるんだよ?それでも偽善だって言える?言えないよね。だからこれ以上・・・・自分を責めないで。>
その瞬間、クラッピーの体がグイっと引き寄せられた。
そしてそのまま、強く抱きしめられた。
あの、リオナに。
<り、リオナッ!?!?////>
顔がカァァァっと熱くなる。
「クラッピー・・・・ありがとう。」
リオナの声が、震えていて。
クラッピーはそっとリオナの背中に手を回す。
最近はクラッピーやクロードを守るために必死になって戦ってくれて、改めてリオナの強さや男らしさを感じてはいたが、その分リオナへの負担は大きかったに違いない。
精神的にも肉体的にも。
リオナの弱い部分を、支えたい。
ボク自身が、力になりたい。
素直にそう思った。
<リオナ・・>
「・・・クラッピーはすごい。クラッピーはいつだってみんなの気持ちを明るくしてくれる。」
<違うよリオナ・・・・。ボクはリオナが大好きだから、リオナには笑っていて欲しいから。リオナにだけだよ。>
そう、リオナだけ・・・・
だけどその想いが強すぎて、ボクは・・・
<・・・・、あのねリオナ。話があるの。>
「・・・・?何かあったのか?」
<実は・・・・>
その時だった。
クラッピーが大事な話をしようとした瞬間、
リオナが勢い良くクラッピーの手を引き走り出した。
何が起きたのかクラッピーにはすぐに理解ができなかった。
<ちょ・・・・リオナ!?>
「ごめんクラッピー・・・!!!追っ手だ!!!!!すぐ近くにいる!!!」
リオナは、木のそばで眠るクロードの場所まで駆けつけると、クロードを背負って再び走り出す。
リオナの顔色が悪いのは一目瞭然だ。
体調が最悪の状態の時に、最悪の事態。
走る振動でようやく目を覚ましたクロードは、怯えるようにリオナの背中にしがみついていた。
「り、リオ兄・・・・っ」
「大丈夫だクロード・・・・大丈夫。俺が必ず守るから。」
そんなリオナを見て、
クラッピーは表情を歪める。
無理だ・・・・。
リオナはもう限界に近づいている。
<リオナ・・っ、敵はどれくらい!!?>
「恐らく・・・・30はいる。みんな1stエージェントだ。」
30・・・・その数字にクラッピーだけではなく、クロードも絶望したことだろう。
そんな人数相手にできるわけがない。
リオナだってまだ魔力は回復していないはずだ。
もう、これは賭けにでるしかない。
クラッピーは走る足をとめた。
「・・・・クラッピー?!走れ!!!」
突然立ち止まるクラッピーに、リオナは何をしているんだと声を荒げる。
何を考えてるんだこのピエロは。
<リオナ、ここはボクに任せて逃げて。>
「何を言ってるんだクラッピー・・!!!!お前1人じゃ無理だ!!!!今は逃げるしかない・・・・!!」
<ボクにならできるかもしれない!!!分からないけど・・・・多分できる!!!>
「寝ぼけたこと言ってないで早く走・・・・」
<・・・良いから黙って見てて!!!!!>
クラッピーの強い覇気に、どうしたものかとリオナは焦る。
このまま1人ここに残すわけにもいかない。
リオナも仕方なくクロードを下ろし、武器を構える。
「・・・お前、これで捕まったら本気で殺すからな。」
<わかってるってば・・・・!!!>
クラッピーはゆっくりと瞳を閉じた。
その様子を、リオナはジッと見つめる。
何をするつもりなのか。
"時の力"はクロードと一緒にならなければそこまで使えないはず。
徐々に近づいてくる追っ手の気配に、心臓の音が早まる。
「・・・・クラッピー、来る!!!!!」
<・・・・!!!!>
その瞬間、茂みの中からダーク・ホームの追っ手が飛び出してきた。
その数はリオナの読み通り30人以上。
クラッピーが何をしようとしているか分からないが、間に合わない。
リオナは舌打ちと共に追っ手に向かい走り出そうとした。
だが、その時がだった。
クラッピーが両手を突き出し、
そこから波動を放った。
その波動で、リオナも後ろに倒れてしまう。
「なっ・・・・」
クラッピーの放った波動は黄金に輝き広がってゆき、
追っ手のエージェント全員を包み込んだ。
そして黄金のベールに包まれたエージェントたちはピタリと動きを止めてしまった。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
だが答えは自然と出てきた。
「まさかクラッピー・・・・お前」
"時"を止めたのか・・・・?
この大人数を?
クラッピーはゆっくりと振り返ると、
黄金に輝く瞳を細めた。
<ボク・・・・クロノスの力を全て奪ってしまったみたい。>
そう言って笑うクラッピーは、どこか悲しげだった。
あれからリオナ達は奇跡的に難を逃れ、
追っ手を振り切ることができた。
正確には、振り切ったというよりは止まったエージェント達を縛り上げて放置してきたのだが。
3人は疲れ切った体に鞭を打ち、なんとか歩みを進めていた。
リオナは朦朧とする意識の中、
先ほど起こった事を思い出していた。
元々はクラッピーとクロードは双子の兄弟。
クラッピーが兄でクロードが弟。
だが、クラッピーは生まれてすぐに死んでしまい、"時の力"は弟のクロードに継承された。
その後、クラッピーは魂を宿した人形として生まれ変わり、クロードの半身として生きてきた。
まだ幼いクロードが力を発揮するには、
半身であるクラッピーと一緒になり、時の神"クロノス"を具現化させることで成し得ていた。
しかし、どうやら事態は急変したようだ。
あれほど大きな"時の力"を使えるのは、"時の力"の継承者以外ありえない。
それにあの黄金に輝く瞳が何よりの証拠だ。
"時の力"の継承者が、変わったのだ。
クロードから、クラッピーに。
「なぁ・・・・クラッピー、」
<・・・なんだッチョ。>
すっかり落ち込んでしまっているクラッピーに聞いていいのかどうか迷ったが、
今は迷っている場合ではなかった。
「お前・・・・いつから"時の力"を?」
<・・・・、恐らく、ボクちんたちが"クロノス"になってたあたり、かなぁ・・・・ボクちんにも分からないッチョ・・・>
「やっぱり、継承者がクラッピーになったのか・・・・?」
<ボクちんが継承者なわけない・・・・ただ、"時の神クロノス"であった時の記憶がボクちんにはあって、クロノスには無いってなったあの時、気が付いたッチョ。もしかしたら・・・・ボクちんが継承者であるクロノスから"時の力"を全部奪ってしまったんじゃないかって・・・・っ>
今にも泣きだしそうなクラッピー。
目に涙をためて、唇を噛みしめる。
そうか、数日前から様子が変だったのはこのせいかと、ようやく辻褄が合った。
<ボクちん・・・リオナが大好きで・・・リオナの力になりたくてっ・・・リオナの力になるには"時の力"さえあればなんて思ったこともあって、だから・・・・っ!!!>
涙をボロボロこぼすクラッピーに、リオナはそっと手を伸ばす。
クラッピーが泣く姿は見たくない・・・。
胸が引き裂かれたような痛みを伴うから。
だがリオナより先に、クロードがクラッピーの手を掴んだ。
小さな小さな手が、
しっかりとクラッピーの手を包み込む。
<く、クロノス・・・・、ボクちんはっ・・・>
「クラッピー、ごめんね。」
<え・・・・?>
なぜか謝るクロードに、クラッピーは目を丸くする。
「こうなったのは・・・・僕のせいなんだ。」
<ど・・・・どういう・・>
何を言い出すのかと、クラッピーとリオナはじっとクロードを見つめる。
「僕は・・・やっぱりリオ兄の考え方には賛成できない・・・・っ。例えそれが世界のためであっても・・!僕はマー兄たちの気持ちをもっともっと大事にして欲しかった・・・・。」
「クロード・・・・」
「だけど、"クロノス"はリオ兄と一緒に行くことを望んでる。でも僕は・・・・行きたくない。マー兄のところに帰りたい・・・!!」
涙を流しながら訴えるクロードに、リオナは何も言えなかった。
ショックというのもあるが、
まさかクロードがこんなことを思っていたとは予想もしていなかった。
「だから僕は・・・・このまま"クロノス"の継承者ではいられないと思った。僕は"クロノス"の意志には従えないから・・・。だから、このチカラを手放して、クラッピーに押しつけたんだ・・・・。」
クロードとクロノス。
同じなようで同じじゃない。
だが、同じでなければならない。
継承者として。
だが少しでも違えば、継承者として失格となってしまう。
それをクロードは分かっていて、あえてこの道を選んだんだ。
それほどクロードにとって、ダーク・ホームの仲間たちは家族のようにかけがえのない存在だったのだ。
<じゃ・・・・じゃあ、クロノス、あなたはもう・・・・>
「僕はもう・・・・ただの人間の子供だよ。ごめんねクラッピー・・・僕は・・・・マー兄のところへ、みんなのところに帰りたい・・・っ」
そう言ってボロボロと泣き出すクロードに、
リオナは背中を向けて、歩き出す。
何も言わずに歩き出すリオナに、クラッピーは慌てて手を掴んだ。
<ま、待ってリオナ・・!!!!どうするの!?>
クラッピーの不安で揺れる瞳を直視できなかった。
「・・・どうするもこうするも、好きにすればいい。ダーク・ホームに帰れ。今すぐ。」
冷たく言い放つリオナに、クロードはますます涙を流す。
「"あの人"に会いたいなら帰れ。俺はもう戻る気はない。」
「なんで・・・!?マー兄のこと嫌いになったの!?あんなに優しくしてくれたのに・・・・!!!」
今までこんなに自分の意思を示すことがなかったクロードが、こんなにも感情的になるなんて。
ズキズキと痛む胸を押さえ、リオナは唇を噛み、静かに言い放った。
「そんなことどうだっていい。俺にはやることがある。帰りたいなら今すぐ帰れ。」
その言葉は、クロードの胸にも突き刺さる。
クロードはキッとリオナを睨み上げ、
そして背を向けて大きな声で叫んだ。
「リオ兄なんて人の痛みもわからない大バカものだよ・・・!!!嫌い・・・・大嫌い・・・・!!!!!!!!!!!」
<く、クロノス!?!?>
そのまま引き返すようにクロードは駆けて行ってしまった。
<ど、どどどうしよう・・・・!!!!!!!>
慌てるクラッピーに対し、リオナは暫くすると再び歩みを進める。
何事も無かったかのように。
<リオナ・・!!!!!待ってよクロノスがっ・・・・!!!!>
「・・・・」
<待ってってば・・・・!!!!!!>
クラッピーはリオナの腕に縋り付き、必死に引っ張る。
そしてようやく足を止めたリオナを無理矢理こちらを向かせた。
<聞いてリオ・・・・、・・・・!?>
だがリオナは、下を見たまま目を合わせない。
歯を食いしばり、必死に涙を押し殺していたからだ。
<リオナ・・・・>
弟のように可愛がってきたクロードにああ言われ、ココロが痛まないはずはなかった。
でも、ああさせたのは、自分自身・・・・だから。
「クラッピー・・・・行け。」
リオナの言葉に、クラッピーは目を見開く。
<え・・・・!?>
「早く、クロードを追え・・・・クラッピー。」
リオナはクラッピーを強く押し返す。
<で、も・・・っ、リオナは!?>
「俺のことはいい・・・・早く行け。クロードを守れ。」
<い、嫌だよリオナ・・・・!!!ボクはリオナを守りたいから一緒に・・・・!!!!>
「黙れ・・・・!!!!行けって言ってるだろう!!!!お前もクロードも目障りだ!!!!!!」
ああ、また言ってしまった。
思ってもいないことを。
<・・・・っ!!!!わ、わかったよ・・・もう、いい・・・・!!!!!>
クラッピーの傷ついた表情が目に焼きつく。
涙を流しながらクラッピーはクロードを追うように森に入って行った。
「・・・・、・・・・ごめんね、クラッピー」
俺はやっぱり、皆を傷つけることしかできない。
リオナは空を見上げ、目を細める。
「・・・・苦しい・・・、苦しいよ・・・・っ、マー・・・・」
駄目だ。呼んでは駄目だ。
その場に膝をつき、うずくまる。
涙が溢れないように。
感情が溢れださないように。
"生"を望まないように。
"死"を求めるように。
大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・
いつものまじないを唱える。
目的地はもう目の前。
止まるわけには、いかなかった。
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