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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story157 本音と建前
私の選択肢は、いつだって正しいとは言えなかった。

自分がどの立場なのか、どの立ち位置でありたいのか。
曖昧にしてきた。

だが、もう選んでいる余地はない。

我ら悪魔の一族を護るため、人類存亡のため、
私は決断をした。

悪魔の長として、ダーク・ホームのマスターとして。

たとえそれが大切な仲間を、友を、見失ったとしても。
誤った選択だったとしても。

私は、"掟"を護り通す。

護り通さなければならない。

それが"サタン"としての務めだと、父から教わったから・・・・











ダーク・ホーム
マスタールーム

薄暗い部屋は光を遮り、
音を失くす。

まるで"無"に帰ったかのように、静まり返っていた。

そんな中、1人デスクに突っ伏すビットウィックスがいた。

片手に1枚の写真を持っており、時折顔を上げてはその写真を見て、深い深いため息をついていた。

「またため息ですか、マスター。」

すると、この陰湿な空気を払拭するように、部屋に凛とした声が響いた。

ビットウィックスは聞きなれたその声に顔を上げる。

「シキか・・・どうだい調子は。」

「お陰様で絶好調です。気分は最悪ですが。」

いつも通りシキは真顔で淡々とのべる。

相変わらずつまらん男だ。

「それで、リオナは見つかったかい?」

「ええ。見つかりました。逃げられましたが。」

「・・・スペシャルマスターは何をしている?」

「スペシャルマスターの3人、ラード、ユリス、ナツなら、先ほどリオナ捜索のため出発しました。」

「ほう、よくあの3人を説得したな。」

「・・・・。」

シキは何も言わず、お茶を淹れ始める。

「それで、リオナは今どこに向かっているんだ?」

「さぁ、見当もつきません。」

表情ひとつ変えることなく返事をするシキに、
ビットウィックスは瞳を細めた。

シキは何か隠している・・・・・・

「見当もつかないのに、スペシャルマスターを行かせたのか?」

「ええ。一刻を争いますから。」

そう言ってお茶を出してきたシキの手を思わず掴む。

そのままグイッと強く引き寄せた。

「・・・何を隠している、シキ。」

「何も。」

「お前は私に忠実だろう?」

「お言葉ですがマスター・・・・」

シキは蒼い瞳を細め、睨むようにビットウィックスを見た。

「私があなたに隠してるんじゃない。あなたが何も知ろうとしていないだけだ。」

「何を言う・・・・」

「あなたはリオナのことなんて全く知ろうとしなかった。だからあんな残酷な指令を出すことができたのでしょうね。」

「その口ぶりでは、君は知っているということか。」

「ええ。」

「言いなさい。」

「嫌です。」

「反逆罪で牢に入れるぞ。」

「どうぞご自由に。私を捉えたところで、事態はもう動き出している。止めることはできない。」

笑うシキに、ビットウィックスはようやく冷静になり、再び深いため息を漏らした。

「まったく・・・・君は本当に強情だね。」

「あなたの方が強情じゃないですか。」

「そうかな?」

「そうやってリオナの写真ばかり毎日見てるくせに、あえて冷酷な指示ばかりを出すじゃないですか。本音と建前、ですか。」

「・・・・。」

シキはそれ以上何も言わず、黙って自身のデスクに向かって座った。

いつも通りに仕事を始めるシキに、ビットウィックスだけがモヤモヤした納得のいかない感情を抱いた。

「・・・・何か言ってくれ、シキ。」

「はい?」

平然と返事をするシキに、とうとうビットウィックスは白旗を上げた。

そうだ。わかってる。
話したいのは自分だ。

これ以上自分自身を殺すのは、無理だ。

「降参だ、シキ・・・・君の言う通りだ。」

「・・・・」

「私はリオナを・・・知ろうとしなかった。できなかった。たとえ知ったとしても、私は彼を罰せずにはいられない。私はサタンであり、ダーク・ホームのマスターでもある。何十もの罪を犯した彼を許すわけにはいかない。彼は・・・・リオナは罪を犯しすぎた。彼だけを許すわけにはいかないんだよ。」

真実を知ってしまえば・・・きっと罰せられなくなる。許してしまう。
だから、知りたくなかった。

「私は・・・・マスターとして、サタンとして間違ったことはしていない。だが・・・」

「人として、仲間として、あなたは間違いましたね。」

ハッキリとした言葉に、これ以上何も言えなかった。

「マスター、貴方はやはり先代のサタンに似ている。良い意味で、そっくりです。」

「・・・どういう意味だ?」

「先代のサタンは規則に忠実だった。だからこそ天上界とダーク・ホームの均衡は保たれていた。だからあなたは、ご自身でもおっしゃっていたようにサタンとして、マスターとしては正しい選択をした。けれど、本当にそれで満足してるんですか?」

シキはジッとビットウィックスの瞳を見つめる。

ああ、そうか。
いつだってそうだ。

シキには、なんでもお見通しなんだ。

「満足していないからこんな想いをするんです。マスター、あなたは先代のサタンやマスターが成し得なかったことをしたんです。天上界と、人間界であるダーク・ホームとのボーダーラインを取っ払ったんですよ。未だかつて、サタンとマスターの座を両方手にした者はいません。それをあなたはやってのけた。今や悪魔も我々エージェントも同じです。それはあなたが天上界とダーク・ホームの長だからです。」

「シキ・・・・だが私は」

「これ以上弱音なんか吐かないで下さい。あなたがやらないで誰がやるんですか。あなたが目指すものは何ですか?先代のサタンですか?歴代のマスターですか?それとも・・・・」

シキの蒼い瞳が、紅く燃える。

「それとも、今までの"常識"を覆し・・・いや、壊した、新しい"存在"ですか?」

それだけ言うと、シキは再びデスクに向かい、仕事を始めた。

まったく・・・・大した男だ。

さすが第一使用人なだけある。

ビットウィックスは小さく笑うと、
力強く立ち上がった。

「シキ、エージェント全員に伝達しなさい。」

「・・・・?」

「リオナを見つけ次第、殺さず、生きたままダーク・ホームに連れて帰るように。」

その言葉に、シキは口元を緩め、すぐに立ち上がった。

「・・・・はい。ただちに。」

「シキ。」

「はい?」

「ありがとう。」

「・・・・、何言ってるんですか。私が決めたんじゃない。マスターが決めたんです。」

そう言ってシキは部屋を出ようとする。

が、もう一度振り返り、優しく笑った。

「後でリオナの件でお話したいことがあるんですが、聞いていただけますか?」

「もちろんだとも。是非聞かせてくれ。」

そう、
私の選択肢は、いつだって正しいとは言えなかった。

自分がどの立場なのか、どの立ち位置でありたいのか。
曖昧にしてきた。

だが、もう迷わない。

たとえ先代からの伝統を破ったとしても。

自分が何を大切にするべきか。
自分が何を護りたいのか。

人間とサタンとの子供である私が、
サタンとマスターである私が、

天上界と人間界を繋ぐこの私ができることを。

私にしか、できないことを。



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