【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story153 闇はすぐそばに
ノースアイランドのとある国ーー
<リオナ起きるッチョ!!!!>
突然だが、目の前にクラッピーがいた。しかも小さい人形の状態で。
リオナとクロノスは昨晩、体を休めるために、人気のない森で休息をとっていた。
そして朝目覚めて、今に至る。
昨晩までは人型のクロノスだったのに、いつの間にこうなったのか。
というか、クラッピーがいるということはもしや・・・・
「・・・・嘘だろ。」
横には、まだスヤスヤと眠るクロードがいた。
まさかこんなタイミングで子供の2人に戻るなんて。
クラッピーに関しては人ですらない。
リオナは頭を抱えてうずくまる。
<リオナ落ち込まないでッチョ〜!!ボクちんだってまさかこんなタイミングで戻るなんて思わなかったッチョ!!!>
「・・・・良いんだよ、仕方ないもんね・・・・良いんだよ。」
<全然良くない感じがひしひしと伝わってくるッチョ。>
どうしようか。
こんな子供2人を連れて行くわけにはいかない。
かといって2人を今更ダーク・ホームに帰せるはずもない。
<リオナ!とりあえずボクちんを人型に戻してッチョ!!!>
「・・え?どうやって?」
<たくさんご飯食べさせてくれれば大丈夫ッチョ!>
とりあえず人形よりかは人型のほうがまだ役に立つだろうと考えたリオナは、近くの市場でありったけの食べ物を買い、クラッピーに食べさせた。
<えー、どっかレストランとか行きたいッチョ・・。>
「・・・ごめん無理だ。跡を残したくないから。」
クラッピーが言ったように、食べ物を完食した時にはすでにいつもの人型ピエロと化していた。
相変わらず派手な見た目だ。
「・・・・さて、どうしようかな。」
そういえば、クロノスから元に戻ったクラッピーとクロードだが、クロノスだった時の記憶はあるのだろうか。
以前は無かった気がする。
そうなるといちいち説明するのは厄介だ。
特にクラッピーに関しては・・・・。
「・・・・クラッピー、あのさ」
<気にしないでッチョリオナ。ボクちん全部覚えてるから。>
「・・・・え、本当?」
<うん。クロノスの記憶は全部ボクちんの中にあるッチョ。だから説明しなくてもいいッチョよ。>
そう言って、クラッピーはいつもみたいに呑気に歌い始める。
<でもリオナも大胆なことをしたッチョねぇ。ま、あの変人マーシャをフったのは大正解だけどね!!!!>
「・・・・その名前は聞きたくない。やめて。」
<・・・・、そ、そうッチョか?わかったッチョ。もう言わないッチョ!>
ちょっと動揺しているクラッピーに、少し申し訳なく思う。
もう、彼の名前は聞きたくない。
だって、思い出してしまうから。
「・・・じゃあ、クロードも覚えてるのかな。」
<え、なにを?>
「・・・・クロノスだった時の記憶を」
<まぁボクちんが覚えてるくらいだからクロノスも・・・・>
その時、話題の中心だったクロードがようやく目を覚ましたようだ。
モゾモゾと動き、パチリと目を開けた。
「・・・・おはよう、クロード」
『・・・・、・・・・?』
だが、少し様子がおかしい。
周りをキョロキョロし、突然立ち上がった。
『え、ここ、どこ・・・・?』
リオナの嫌な予感が的中した。
「・・・やっぱり。」
『リオ兄・・・・?僕たち・・・・何をしてるの?さっきまでお部屋で・・、・・・・あれ?何してたんだっけ・・・・』
どうやらクロードにはクロノスであった時の記憶が無いらしい。
なんて説明しようか。
リオナは頭を悩ませていると、
横にいたクラッピーがものすごい大きな叫び声を上げた。
<ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!>
「ちょ・・・・クラッピー静かに・・!!!!」
リオナは慌ててクラッピーの口に手を当てる。
一体どうしたのか。
ただ、クラッピーの顔色が今までに見たことが無いくらい、真っ青だった。
「落ち着けクラッピー・・・・何があった?」
<お・・・おおおお落ち着いていられるかあああああ!!!!!!!>
クラッピーはしゃがみ込んでブツブツと何かを呟き始める。
<・・・・ぼ、ボクちんじゃないボクちんじゃないボクちんじゃない気のせいだ気のせいだ気のせいだきっと何かの間違いだ・・・・っ>
尋常じゃない雰囲気に、しばらく言葉が出なかった。
だがしばらくすると、さっきまでのパニックが嘘みたいに収まり、
スッとクラッピーが立ち上がった。
『だ、大丈夫クラッピー・・・?』
<もちろん大丈夫だッチョ!心配かけてごめんッチョ♪>
そう言って普段通りまた歌い始めるクラッピー。
一体どうしたというのか。
本当におかしい。
何かを隠している。
リオナはクラッピーの肩を掴み、こちらを向かせた。
「おい・・・・何がどうした。何が気のせいなんだ?」
その問いかけに、
クラッピーの顔から笑顔が消えた。
再び顔を真っ青にさせ、指先を震わせている。
「ちょ、クラッ・・」
<これ以上聞くな・・・っ、ダメだ、絶対話せない・・・・ッ!!!>
そう言って、クラッピーは荷物をまとめ始めた。
<リオナ・・・クロードを安全なところに連れていくッチョ。ボクちんからのお願いだッチョ。クロードは連れて行けない。>
至って冷静なクラッピーに、リオナも何も言えなかった。
ただ一人、クロードだけが全く状況が掴めずにいた。
しばらく、リオナたちは誰一人として口を開かなかった。
リオナ自身、クロードにどこからどこまでを話すべきか悩んでいたからだ。
全く記憶が無いのなら、何も知らない方がクロードの為でもある気がする。
だが、このまま一人ここには置いて行けない。
ダーク・ホームに一人で帰すのも危険だ。
当のクロードは、この状況に関して聞きたい想いでいっぱいだろうに、幼いながらに場の空気を読んでか、すっかり黙りこくっている。
そんなクロードを見て、
リオナは答えを導きだすために思考を巡らす。
その時だった。
辺りの空気がピンッと張り詰めたのをリオナは感じ取った。
それは波動のように、波打っている。
「・・・・っ、クロード、クラッピーこっちに来て。」
『え・・・・?』
<良い案でも浮かんだッチョか?>
「・・・・静かに。」
リオナは2人を抱き寄せ、草木の茂みに隠れる。
「・・・・半径500m以内に悪魔の反応を感じる。」
<・・・・!?>
「・・・追っ手だ。きっと俺の悪魔の力を嗅ぎつけてきた。」
見渡す限り、まだ近くにはいないようだ。
逃げるなら今しかない。
「俺にちゃんとしがみ付いてて。走るから。」
<え!?は、走るの!?!?ぎゃぁぁぁ!!!!>
「クロード・・・・この馬鹿の口塞いどいて。」
『う、うん・・・・!!』
物凄いスピードで森を駆け抜けるリオナに、クラッピーは悲鳴を上げながら必死にしがみ付いていた。
まさかこんなに早く追いつかれるとは・・・・。
確かに、ダーク・ホームで負った傷を治すのに少し時間が掛かった。
だが、予想より遥かに早い。
恐らくビットウィックスが血眼になって探しているのだろう。
「・・・・まずい、近づいてくる」
『リオ兄!!!うしろ・・・・!!!!!』
クロードが言うように、すぐ後ろから黒装束の集団が近くまで迫ってきていた。
人数は8人。
恐らくまだ周りにいる。
レベルは1stエージェントといったところか・・・・
「・・・2人とも、」
<な、なんだッチョか!?>
「そこの大木に隠れて・・・・!!!!」
リオナはそう言うと走っていた足を止め、急停止した。
そして2人を大木に向けて投げた。
<な、何するッチョかぁぁ!!!!>
『く、クラッピー隠れるよほら!!!!』
2人が大木に隠れた時には、すでに戦闘が始まっていた。
リオナと黒装束の者達がひたすら刃を交えている。
1対8で人数的に明らかに黒装束の者達が優勢だ。
だが、リオナはまるでダンスを踊っているかのごとく、
相手の攻撃を軽やかにかわし、なぎ倒してゆく。
トランプで作り出されてるとは思えないほど美しい刀は、
決して相手を傷つけることない。
ただ気絶程度に攻撃をする。
『リオ兄・・・・すごい』
クロードの口からも思わず感嘆の声が漏れる。
そしてリオナはあっと言う間に黒装束の集団を倒してしまった。
傷一つ付けることなく。
だが、やはり体力に限界があるのだろう。
顔色はますます悪くなっている。
<リオナすごいッチョ・・・!!いつの間にそんなに強くなったッチョか!!!>
「・・・・強くなったわけじゃない。それくらい生きるのに必死ってことだよ。」
<な、なるほど・・・・>
「・・・一旦町に出よう。人混みに紛れた方が今は安全だ。」
そう言ってリオナは2人を連れて町に出た。
賑わう町を、3人は早足で駆け抜ける。
<リオナ・・・これからどうするッチョか?>
「・・・北を目指す」
<それだけッチョか!?>
「・・・・大丈夫だから、ちゃんと考えてる。心配?」
<ま・・・・っさかぁぁ!!全然心配じゃないッチョよ!?>
明らかに心配そうなクラッピーには申し訳ないが、今はそれどころじゃない。
こんな所で捕まって・・・・いや、殺されてたまるか。
「・・・・クロード」
『・・・?』
「・・・ちゃんと説明してなくてごめん。」
『だ、大丈夫だよっ・・・・僕のことは気にしないで・・』
「・・・立ち止まって話せるほどの余裕がないんだ。だから今から話すからよく聞いてね。こんな状況で悪いけど・・・・」
その言葉に反応したのはクラッピーだった。
<なっ・・・リオナ話が違うッチョ!!!クロノスは巻き込まないでッチョ!!!!!>
「ごめんクラッピー・・・・でもクロードだけ残してなんて無理だ。危険すぎる。」
<連れて行ったらもっと危険だッチョ!!!!!!>
口調を荒げるクラッピーに、さすがのリオナもため息をもらす。
急いでいた足を止め、
クラッピーを見た。
「・・・・だったらお前が選べ。ここに一人置き去りにするか、連れて行くか。」
<なっ・・・・>
「・・・俺は連れて行くのが一番安全だと考えた。だがお前はそれを否定した。ならもっと最良の策があると思ってもいいんだよな?」
<そ、それは・・・・>
「なんだ無いのか?」
<く、クロノスを安全なところに預け・・・・>
するとリオナはクラッピーの言葉を遮るように、クラッピーを壁に押し付けた。
今まで見たことが無い、卑屈な笑みを浮かべて。
「・・・・はっ、やっぱりお前は甘い。」
<な!!なんだッチョか!!!何が悪いッチョか!!!!>
「安全なところに預けるだって?じゃあどこが安全?ここか?」
<そ、れは・・・・>
「お前だってわかるだろ・・・・安全な場所なんてどこにもない。」
<・・・・っ>
「・・・人を信用するな。疑え。疑って疑って、少しでも闇が見えたなら、そいつは絶対に信じるな。自分以外、まずは疑え。」
リオナの冷め切った言葉に、クラッピーはもちろん、クロードも目を見開いて驚いた。
リオナがこんなことを言うなんて・・・・
信じられない。
<わかったッチョ・・・・クロノスは連れていくッチョ。ただ・・・>
クラッピーは眉を寄せ、リオナの目をジッと見つめた。
<リオナは・・・・リオナはボクちんやクロノスのことも疑ってるッチョか?>
その質問に対し、リオナは無表情のまま何も答えず、背中を向け再び歩き出した。
<リオナ・・・・>
少しずつ、少しずつ、終わりが近づいてきている。
世界も、人も、全てが終末を迎えようとしている。
クラッピーですら、それを感じているのに、リオナはもっとそれ以上に終わりを感じているのだろう。
それがどんなに悲しく辛いことか、想像なんかできやしない。
「・・・・仕方がないだろう」
だが、リオナは言う。
クラッピーにもクロードにも聞こえないように。
「・・・疑うことが、唯一の逃げ道なんだから。」
終焉への道を自ら突き進む苦しさを。
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