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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story154 信じるココロ
全てが

全てが真っ白だった。

君がいたあの頃は

全てが美しく、輝いていた。

悲しく、苦しい時だって。

だけどもう、何も思い出せない。

君がいたあの頃を。

君はどうやって笑った?
君はどうやって泣いた?
君はどうやって怒った?
君はどうやって喜んだ?


"・・・・マーシャ"

君はどうやって・・・・

"・・・・マーシャ、ーーーるよ。"

君はどうやって、
俺を愛してくれた?












リオナがローズ・ソウルとローズ・スピリットを持ってダーク・ホームから逃げ出したあの日から、一週間がたった。

ダーク・ホームはすっかり静まり返り、
不安と恐怖が入り混じった異様な空気が漂っていた。

不安と恐怖。
それは、このままずっとリオナを捕らえることができないのではないかという不安と、
神が復活することへの恐怖だ。

今、エージェント達は必死になってリオナを探している。

その不安と恐怖が現実にならないように。



ダーク・ホーム
水上ホール

普段、集会やパーティで使う湖上のホールには、緊急司令部が設置された。

リオナをなんとしてでも捕らえるために。

ダーク・ホームにいる全ての者がこの作戦に参加する義務を課せられており、
リオナを追跡する追跡班、司令を出す司令班、そして救護班にわけられた。

ホール中央には巨大な地図が映し出され、
それを囲むようにシキやシュナをはじめとする司令班がいた。

『シキ司令長。ご報告があります。』

話し合いをしていたシキの元に、追跡班のエージェントが駆け寄ってきた。

シキは会議を中断し、エージェントに近寄る。

「どうだった。リオナは見つかったか?」

『ええ、リオナ・ヴァンズマンの悪魔の反応を捉えたのですが・・・・』

エージェントの表情が曇る。

『・・・追跡部隊Bグループ全員、リオナ・ヴァンズマンにやられて取り逃がしました。』

その言葉に、シキは思わず目を見開いた。

「全員?確かか?」

『はい。ただ、リオナ・ヴァンズマンは我々を殺したり致命傷を与えることはありません。気絶させられ、気がついた時にはすでに居なくなっていた・・・というのが事実です。』

「・・・・」

まさかあの人数をリオナ1人で・・・・

しかも我々を傷つけることなく倒すというのは、殺すより至難の技だ。

「・・・・わかった。もう下がっていい。ご苦労だった。今は体を休めなさい。」

『はっ。失礼します。』

そう言って、エージェントは姿を消した。

「さて・・・・どうしたものか。」

あの日以来、ダーク・ホームのマスターであるビットウィックスは人が変わったように冷酷になってしまった。

ビットウィックスが出した命令は、
"リオナをすぐに追跡、見つけ次第拘束もしくは殺害せよ"
というものだった。

エージェントたちもリオナへの敵対心が完全なものになり、
"裏切り者を排除する"というはっきりとした意志を表すようになった。

司令長を任されたものの、やはりリオナが裏切ったからといって、殺すだなんてできない。

だから先ほどの報告に、シキは正直安堵していた。

なんとかしてリオナがこの様な行動を起こした真実を突き止めなければ。

でないとビットウィックスにリオナは本当に殺されてしまう。

その真実を突き止めるには、助けが必要だ。

そう、"彼"の力を。

「スバル、少し離れる。指揮は任せた。」

『はい。』

「シュナも一緒に来なさい。」

「・・・・?」

シキはスバルにここを任せ、
シュナを連れて黒の屋敷に戻った。

あの日からシュナは目を涙で真っ赤にさせながら、毎日毎日リオナを探している。

一番の親友がこんなことになれば、泣きたくもなるだろう。

そんなシュナを長くあの場所に留めておくには少し心苦しかった。

そろそろ自分たちも意志を固めなければならない時がきたのかもしれない。

ダーク・ホームの一員としてリオナを追うのか、
それとも親友、仲間としてリオナを追うのかを。

そこでシキはある所にシュナを連れてきた。

「シキさん・・・・なんでここに?」

訝しげな表情を浮かべるシュナ。

ここはスペシャルマスターのみが使えるプライベートルームの前だった。

シュナの問いかけに答えることなく、シキは黙って部屋に入ってゆく。

するとそこには

「ぁあ!?なんでお前がここにいるんだよ!!!!」

「ちょっともしかして差し押さえかしら。」

[・・・・っち。]

そこにはラード、ユリス、ナツがいた。

部屋には本やら何やらが散らかっており、中央には司令本部のように巨大な地図が映し出されていた。

まるでここは秘密結社のようだ。

よくここまで機材やら何やらを集められたものだと感心する。

「シキ!!!何の用だよッ!!!」

今にも殴りかかろうとしてくるラードに、シキはため息をつく。

「・・・そうすぐに突っかかってくるな。」

「じゃあなんであんな指示出すのよ、司令長サマ。りっちゃんが裏切り者かどうかはまだわからないのに。」

ユリスは至って冷静に、そして冷酷な目つきでこちらを見ている。

「・・・そうだな。確かにユリスの言うことは正しい。ただ、指示を出したのはビットウィックスだ。俺の意志じゃない。」

そう言うと、
ナツがおもむろに立ち上がり、こちらを睨んだ。

まるで心臓を掴まれてるかのような錯覚を覚えるほど、その目つきは鋭い。

[うるせぇなぁ・・・・結局何しに来たんだお前。]

そう、なぜここに来たのか。

それは・・・・

「俺を仲間に入れてくれ。」

「はぁ!?!?」

シキは堅苦しいジャケットを脱ぎ、深いため息をついた。

「俺だって・・・・お前たちと同じ想いだ。リオナが裏切ったとは思えない。」

「じゃあ何で最初からこっちに来なかったのよ。」

「お前らは何の情報もなくリオナを追うつもりだっただろう。」

そう言って、シキはあるデータ記録端末を差し出した。

「ここにリオナの行き先が明確に記されている。もちろんあくまで1時間前までの情報だ。だが、この先リオナがどこに向かうか、大体の予測はできる。」

「おまっ・・・・そんなことして良いのかよ!!!これ司令部の極秘情報だろ!?」

「言っただろう。俺もお前たちと同じ想いだと。」

まさかあの仕事人間のシキがこんなことをするとは思わなかったのか、
一同みな唖然としてしまう。

[でもどうするんだよ。こんなことしたらビットウィックスが黙っちゃいないぜ?なんせアンタはお気に入りの第一使用人だからな。]

「それは俺だけじゃないだろう?スペシャルマスターはもちろんエージェント全員がこのリオナ捕縛の作戦に参加するのは"絶対"だ。君たちスペシャルマスターが参加していないことにすでにビットウィックスは気づいていると思うが。だが、俺を仲間にしてくれるなら、ビットウィックスのことは心配しなくていい。俺ならビットウィックスの気を逸らすことができる。」

今まで喧嘩腰だったナツも、すっかり黙り込んでしまう。

結局のところ、今は言い争っている時間さえも惜しいのだ。

「あーもーわかったよ!!!!ただし裏切ったらただじゃおかねーからな!?!?」

やはり使える物は使っとけ派のラードは、案外アッサリとシキを受け入れた。

シキも少しホッとしたのか、安堵のため息を漏らす。

「はは、ありがとう。裏切るわけないだろう。」

「わからないわよ?アンタのことだから。」

「・・・・信用ないな。」

[ところで、お前はどうするんだよ。]

するとナツが、シキの後ろにいたシュナに目を向けた。

そう、シュナをここに連れてきたのは、彼に選択肢を与えるためだ。

ダーク・ホームの一員としてリオナを追うのか、
それとも親友、仲間としてリオナを追うのか。

こんな選択肢を用意しなくても、シュナの中での想いは一つに決まっている。
聞かなくてもわかる。

だが、あえて選択肢を用意した。

それは彼の"未来"にも繋がる事となるから。

人にはそれぞれの道がある。
それは生まれた時に決まるものではない。

生きている一瞬一瞬で道は変わり、開けるのだ。

たとえシュナが王子として生まれたからといって、王子になるのが彼の人生ではない。

もしシュナが"王子"であることを望むなら、
間違いなくダーク・ホームの一員として、リオナを追うことを選ぶだろう。
なぜなら王は規律を正す者でもあり、守る者でもあるからだ。
規律を犯したリオナを許せる筈が無い。

だがもし、少しでも自分で道を切り開く覚悟と勇気があるのなら、王子である前に
"人間"として、
"親友"として、
"仲間"として、
リオナを追うことを選ぶだろう。

それを選ぶ"権利"がシュナにはある。
選ばなければならない"義務"がシュナにはある。

これが彼に与えられた、最初で最後の大きな選択だろう。

「俺・・・・は、・・・・」

彼の震える瞳が、ピタリと止まる。

顔を上げ、しっかりとした口調で、こう言った。

「俺は・・・リオナの親友です」

シュナは自信に満ちた表情で強く頷いた。

その言葉に、全員が安堵のため息をつく。

「ったく、しゃーねーな!お前も仲間に入れてやるよ!」

「あ、ありがとうございます・・!!!!」

深々と頭を下げるシュナは、やはり王子らしくない。

そこが彼の良いところなのだ。

「よし!これで俺たちも戦力は揃ったな!」

「さっそくシキのデータをみてみましょうよ。」

「ちょっと待ってくれ。」

するとシキが、突然待ったをかけた。

訝しげな表情を浮かべて。

「・・・マーシャは?」

全員揃ってない。

まだ、マーシャがいないじゃないか。

[アイツはいい。]

だが、それを強く拒否したのはナツだった。

「・・・なぜ?マーシャはリオナを一番知っている。」

[あいつはもう駄目だ。]

ナツはそれだけ言うと、シキのデータを見始めてしまった。

何がどうしたのか全く理解できないシキとシュナ。

だが、ユリスが気まずそうに口を開いた。

「・・・私達も、何度も声をかけたわ。だけどマーシャはいいって。リオナを追いかける気もないし、そんな権利もないって・・・・」

"権利"か・・・・

マーシャは確かにリオナを傷つけた。
リオナを忘れ、他の女性と付き合った。

だが、それはマーシャのせいだろうか。
そうは思えない。
マーシャが記憶を失ったのには、何か理由がある。

リオナでもマーシャでもない、"第三者"の存在・・・・

そう、"更夜"だ。

更夜がリオナとマーシャと関わっていることは間違いない。

あの日、あの時、あの瞬間、
あの場所で何が起きたのか、
知っているのは彼ら3人だけ。

「わかった。俺が行く。」

[は?]

「俺がマーシャに話に行く。」

[なんでそんなにアイツにこだわるんだよ。アイツはリオナを傷つけた上に、止めることが出来なかった!それにアイツ、俺たちがリオナを追うって言ったら何て言ったと思う?]

ナツは拳を握りしめ、机を思い切り叩いた。

[リオナが逃げようが死のうが俺にはもう関係ないって言ったんだ・・・・!!]

そんなことを言ったのかと、少し衝撃を受ける。

あの日以来、マーシャは部屋に篭ったまま一切出てこない。

彼が今何を思って感じているのか、それすらわからない。

だが、分かることが一つだけある。

「そんなの、マーシャの本心なわけないだろう。」

[あ?]

「とにかく、マーシャがいればリオナの事が少しでもわかるはずだ。俺は説得しに行く。」

シキはにこりと笑って見せた。
わざとらしく。

[・・・・。強情だな。勝手にしろ。]

そう言ってナツは再びデータを見始めた。

そんな2人を、
ラードとユリスは苦笑を浮かべて見ていたが、
シュナだけはハラハラしながら見ていた。

「し、シキさん・・・・俺も一緒に行きましょうか?」

マーシャに殺されるとでも思っているのだろうか。

シュナは心配そうな目を向けてくる。

「大丈夫だ。俺はマーシャの性格を理解してるつもりだ。これでも10年以上の付き合いだからな。」

「そ、そうですよね・・・・!」

「よーし!シキ行ってこい!あの引きこもりニート変態を連れてこい!ぎゃははは!」

「ニートってラードさん・・・・」

きっと一筋縄ではいかないだろう。
そんなことわかってる。

だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。

それくらい、俺は彼らが好きだった。

マーシャとリオナが・・・・笑う姿が、大好きだったから。



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