【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story133 "Riona"
“神の器”
それは神が復活するために必要な「人間」、「生け贄」、「入れ物」。
心を無くした者こそがふさわしいと言われている。
でも俺には・・・ちゃんと心がある。
感情もある。
好き嫌いだってはっきりしてる。
なのに・・・なんで・・・なんで俺が・・・・・・
ずっと、疑問に思っていた。
フェイター達が俺を狙う理由。
俺が“神の器”である理由を。
俺が出してた答えは、
いつだって
“ウィキを亡くした悲しみのせい”
だった。
それはフェイターだってそう思っているはず。
でも、どうやら違っていたらしい。
俺は、“心を失っている”のでは無い。
元から心なんて・・・存在していなかったんだ。
「君はね、ルナが生み出した特別な存在なんだ。」
更夜の言葉が耳を通り、脳に突き刺さる。
理解出来ない。
そもそも、理解とはなんだ?
それすらも、わからない。
「神を完全に消滅させるには、神を復活させ、殺すしかない。でも、復活させるには器が必要だった。だから、僕とルナで、神にふさわしい器を生み出す事にした。その時ちょうど、ルナはある女性と出会った。それが君の母親だよ。」
マーシャの記憶の中で見た、ルナと母さんを思い出す。
あの時、一体何が行われていたのか・・・
「ルナは、君の母親を殺す振りをして、母親の腹の中に魂を宿した。彼女が今後生きていく中で、妊娠して子供を生む時、その子供が“神の器”として生まれるように。それはいわば僕とルナの分身、それが君だ。」
「・・・・・・嘘だ」
「嘘じゃない。だからちゃんと聞いて。」
更夜はいつになく真面目な顔をしている。
そんな表情、やめてくれ。
信じたくない。嫌だ。嫌だ助けて。
「こうして君は生まれた。でも、君は幸か不幸か双子として生まれてしまった。本来なら君は心を宿す事無く、生きた屍として生まれてくるはずだったのに、君は普通の人間として生まれてきてしまった。どうしてだか分かる?」
「・・・・・・」
答える気にもなれない。
聞きたくもない。
こいつは・・・一体誰なんだ。
「ウィキが、君に心を分け与えたんだ。」
その言葉で、確信してしまった。
昨日、この国で出会った女に言われたことを思い出す。
俺の中に違う者の心が見える、と。
「だから僕たちも一度はあきらめた。でも、フェイター達が君に目を付けてしまった以上、そうも言ってられない。君をフェイターに奪われ、神が完全に復活し、再び野放しなんかにされたら、僕とルナは再び神に縛られる事になる。そうなれば確実に、神は僕らをつかって世界を破滅させる。」
結局・・・・何が言いたいんだ・・
俺は、今までウィキの半分として生きてきて、
本当は存在しない者であって、
俺は・・・・・・おれは・・・・・・・・・
「リオナ・・・酷なことを言っているのは重々承知だ。でも、これが真実なんだ。君だって薄々気づいていたはずだよ。自分が何者なのか。2体の悪魔と契約できた異常、完全なる悪魔と化した異常、狂気に飲まれる異常。それは全て、人間として存在しない、“無”の象徴であるから、何色にでも染まる事が出来たんだ。」
「そん、な・・・・」
涙なんて、出なかった。
出したいのに、出なかった。
悲しすぎて、辛すぎて、
本当に“無”になってしまったようで・・・
「だから、リオナにお願いするんだ。勝手なのはわかる。この際、僕とルナの死なんてどうでもいい。ただ、世界を救う為に、君の体を、命を、使って欲しい。」
更夜はリオナを抱きしめ、
最後にこう呟いた。
「世界のために・・・・死んでくれ。」
初めて感じた身に迫る"死"。
死ぬ・・・・俺が?
今まで、死ぬことを覚悟してきたつもりだった。
でも、なぜ・・・・
こんなにも体が震えるのだろうか。
・・マーシャ・・・
マーシャ、マーシャ・・・・
胸に込み上げてくるのは、
マーシャへの想い。
ああ・・・・そうか、
俺はマーシャを、愛してるから・・・
死にたくないんだ。
まだまだ、マーシャと一緒にいたい。
マーシャの命が尽きるまで、
そばに・・・・
「・・・嫌だ」
口にしたら、
体が本格的に拒絶を始めた。
更夜を突き放し、
部屋の出口に走る。
しかし、襖は開かない。
まるで檻のように、リオナを閉じ込める。
「開けろっ・・・・嫌だ!マーシャ!!マーシャ・・!!!!!!」
「君しかいないんだ。神を倒し、世界を救えるのは・・・。君がやらなきゃ、世界は必ず滅びるよ。」
「世界なんてどうでもいい・・!!離せ・・・!!俺は、まだ死にたくない!!!」
「リオナ・・・・君は予想以上に、マーシャを愛してしまったんだね。」
「駄目なのか?マーシャを愛して何が悪い・・!俺は・・・俺はただ、マーシャと居られればそれでっ・・・・」
「僕がさっき言ったことを忘れたのかい、リオナ。」
更夜は襖を開こうとするリオナの腕をぐいっと掴み、
再び部屋の桜の前まで無理矢理引きずる。
「やめろっ・・・離せ!!」
「君はウィキに生かされてるってことを、もう忘れたのかと聞いている。」
「・・・・!!」
リオナを桜の木の根元に座らせ、
冷ややかな目を向ける。
「君は本当に贅沢で、愚か者だね・・・。本来はウィキの心なのに、良い仲間に囲まれて、マーシャに恋して、愛してもらって、君だけが幸せになって。それでもまだ死にたくないと言う。君に心を分け与えたウィキなんて、死んで全てが終わってしまったんだよ?」
「・・・・っ」
「まだわからないなら・・・・全てを分からせるまでだ。君は確か、ウィキが死んだ時の事を、思い出せないでいるんだってね。」
更夜の顔に、笑みがこぼれた。
再び、リオナの体が震え出す。
「いや、嫌だ嫌だっ・・・・!」
逃げたいのに、逃げられない。
「全部・・・・思い出せばいい。そうすれば、君も自分の使命を思い出すだろう。」
そう言って、更夜はリオナの頭をつかんだ。
「・・・・ぁぁぁぁぁあっ!!嫌だ・・イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」
城の中・・
王の死体・・・・
アシュール・・・
ウィキ・・・・
"い・・・・ゃ・・・・・・リォ・・・・う゛っ・・!!"
"リ゙オ゙ナ゙・・・・・!リ゙オ゙ナ゙・・・・!!!"
迸る血・・・投げ出されるウィキ
高らかに笑う・・・・アシュール
"・・・・おとーさんと・・・・・おかーさんに・・・・会いたい・・・・"
"ぼ・・・・く・・・・まだ死にたくない・・よ・・・・・"
ウィキの・・・・最期の言葉が木霊する
「・・・・ぅ・・ぁあ・・はっ、はぁ、はぁ!!!!!ヤダッ!!!!ヤダぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」
全てを、思い出してしまった。
ウィキの死に様を・・・・
リオナの体が痙攣を起こす。
その光景を、更夜は無表情で見つめていた。
「これで、わかったでしょう。ウィキは死にたくて死んだわけじゃない。・・・ウィキは君の代わりに死んだんだ。」
「・・・・は、ぅっ・・・」
俺は・・・・なんて、愚か者なんだろう。
ウィキの死から目を逸らし、
自分の幸せだけを・・・・求めていたなんて
もう、心はグチャグチャだった。
リオナのカラダの痙攣は止まらない。
目を見開き、口から泡が溢れ出す。
「ひっ・・・あぁ・・・・マ、シャ・・・マー・・シャ、マーシャ・・・」
苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
「・・・・ちょっと、やり過ぎたかな。ねぇ、リオナ。」
更夜の手が、頬を撫でる。
涙が、溢れ出た。
「・・大丈夫だよ。まだ、遅くない。そのために俺がいる。」
「・・・・は、は・・・ふ、ぅぅ・・・」
「君が命をかけて神を消滅させてくれるなら、それなりの報酬をだしてあげる。」
更夜の言葉が、勝手に脳に刻まれてゆく。
「まず、マーシャの病気を治してあげる。君が一番に望んでいることだよね。あとは、B.B.と・・・・ウィキの救出かな。」
ウィキという言葉に、再び体が震えた。
「ウィキはアシュールの手によって生き返った。だけど、アシュールはウィキを再び殺すつもりだよ。君に見せしめるためにね。」
「・・・・ゃっ・・・は、ぁぁ・・・・」
「うん、うん。やだよね。大丈夫だよ。君が僕と契約さえしてくれれば、僕がちゃんとウィキを救ってあげる。」
そう言って、更夜は一枚の紙を取り出した。
「リオナ、これは契約書だよ。ここにサインをすれば、俺と君の契約は結ばれる。君が神として死ぬ代わりに、マーシャやB.B.、ウィキの命を救う。世界もこれで争いが無くなり、人々は幸せになる。」
リオナは涙を流したまま、契約書を見つめた。
もう・・・・わからなかった。
何をどうしたいか、わからなかった。
心が・・・・砕かれていく。
苦しい、苦しい、苦しい。
とにかく、逃げたかった・・・
現実から、自分から、皆から、世界から・・
「リオナ・・・・サインを。」
悲しかった、苦しかった。
死ぬということが、恐ろしかった。
でも、一番恐ろしかったのは・・・・
のうのうと生きている・・・・自分自身だったのかもしれない。
今まで目を背けてきた・・・
償わなければならない罪たちから。
こんな苦しい思いをするのなら、
初めから全てを望まなければ良かった。
心など・・・・いらなかった。
リオナはそっと筆をとる。
紙の上に、文字が落とされていく。
震える手に、涙が滴り落ちる。
真っ赤な・・・・血の涙が。
「契約成立だ・・・・。」
書き終わった時、
無意識に笑っていた。
・・・・これで、よかったんだ。
ようやく、すべての罪が償われる。
ウィキ・・・・B.B.・・・・
マーシャ・・・・
透明な涙が、
溢れ出た。
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