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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story128 未開の地 サムライカウンティ


未開の国
サムライカウンティー


長年、他国との繋がりを持たず、
一切の情報も断ち切ってきた完全独立国。

そのため、
この地に足を踏み入れた者は数少なく、
「実は荒れ果てている」だとか、「人は住んでいない」だとか、
噂は絶えない。

しかし、現実はそんなことはない。

国は豊かで、緑も多く、他国より医療が発達しているという。

そして何よりも、
この国には四季があるという。

他の国は大抵決まった季節しか来ない。

しかしサムライカウンティーには4つの季節があるらしい。

まだまだ謎に満ちた国、サムライカウンティー。

そんな国に、今、
足を踏み入れようとする者達がいた。













サムライカウンティー 入国審査場


「なー、シキまだぁ?俺飽きた。」

『もう少し待ってくれ・・・・。今シュナが頑張って手続きしてくれてるから。』

シキの言葉に、
マーシャは何度目かのため息を漏らした。

サムライカウンティーに到着し、
かれこれ20時間が経過した。

無事に到着したのはいいが、未だ入国審査場で許可を貰えず、
待ちぼうけを食らっている状況だ。

今回、入国手続きをしに行ったのはシュナ。

いつもならシキが行くのだが、
今回は使用人の勉強ではなく初仕事として、シュナを遣わせたようだ。

のはいいが、
帰って来ない。

この国は入国審査がとびきり厳しいと聞いてはいたが、
ここまでかかるとは・・・・。

1番心配してるのは、もちろんシキだ。

大事な愛弟子の晴れ舞台であるため、
下手に手助けをしたくない反面、
今すぐ様子を見に行きたくてうずうずしているのだろう。

さっさと見に行ってやればいいものを。

マーシャはそんなシキを見て、
待たされるこっちの身にもなれよと舌打ちをした。

『マーシャ・・・悪いと思ってる。だがもう少し待っててやれないか。』

「ちげぇよ。俺がイラついてんのはテメェがウジウジしてっから。心配ならさっさと見に行けってんだ。」

『ダメだ!シュナを信じてるんだぞ?!そんなことできない!』

どうやら師弟間には想像を超える厚い信頼があったようで。

面倒だとマーシャはウジウジしているシキを視界から外した。

そしてすぐ隣に目をやれば、
椅子の上に小さく丸まって眠るリオナがいた。

ここに到着した時は新たな地に心踊らせ、
今か今かと窓に張り付いて外の様子を眺めていたが、
疲れもあってかすぐに眠ってしまった。

マーシャの肩に頭を乗せて眠るリオナが本当に可愛らしく、
マーシャの表情からはすぐにイライラが消し飛ばされた。

「リオナ可愛い〜。よくこんなとこで寝れるよなぁ。俺がいないとこでこの可愛い寝顔さらして欲しくねぇな。」

チューっと額にキスしてやると、
リオナの口が小さく開いた。

「・・・・・・・・変態が。」

「あれ?リオナ起きちゃった?」

「・・・変態」

「あれ、機嫌悪い?」

「・・・・・・・・変態、へんたい、へん」

「・・・・?」

リオナはただただ「変態」を連呼すると、再び眠りについてしまった。

「え、寝言?やだ可愛いこの子。てかどんな夢見てんの。」

ぎゅーっとリオナを抱きしめていると、
遠くから誰かが駆け足でこちらに向かって来ていた。

ようやくか、
とマーシャは安堵のため息をついた。

『みなさーん!お待たせしましたぁ!』

シュナが色々と大荷物を抱えながらようやく戻ってきたのだ。

すると、その瞬間、
今までずっと黙っていたシキが突然立ち上がり、シュナを思い切り抱きしめたのだ。

シュナは呆気にとられ、
口をポカンと開けている。

『あ、あの、シキさん?』

『よかった・・!!本当、よかった!!』

『は、はい?え、と・・・大丈夫、ですか?』

『大丈夫じゃないよ・・・!シュナが中々帰って来ないから心配で心配で!!』

今にも泣きそうな声で言うシキに、
さすがのシュナも驚いたようで、
マーシャに目配せをして助けを求めた。

ひどい親馬鹿っぷりを発揮したシキに呆れながらも、
ハグしてやれ、とジェスチャーでシュナに伝えた。

『シキさん、心配かけちゃってごめんなさい。でも、やりましたよ!これで入国できますねっ!』

『よかったよ・・・!ああよかった!』

いつまでもシキが離れないものだから、シュナは少し強引にシキを引き剥がした。

こんなシキを見るのは久々というか、なんだか気持ち悪い。

「シキは放って置いて。ところでシュナの持ってるそのデカイ荷物なに?お土産?」

『あ、これ、審査官の方に着替えなさいと渡されまして・・・・』

そう言ってシュナは次々とカバンから服らしきものを取り出し始める。

しかし、今までに見た事のない形容に、
マーシャは首をかしげた。

「なにこれ。ただの布じゃん。」

『これは"着物"って言うみたいです。この国では着物が普通らしく、俺たちが着ているような服は目立ってしまうようなので着替えろと言われました。マーシャさんのはこれで、シキさんのがこれ。これが俺のでしょ、それでリオナは・・・・あれ?』

シュナはリオナの分の着物を広げ、なにやらじっと見つめている。

ようやく落ち着いたシキが、どうしたものかとシュナに声をかけた。

『どうかしたか・・・?』

『えっと・・・・なんか、リオナのだけ可愛いんですけど。気のせいかな・・・』

『そう言われれば・・・・確かに。』

三人の着物は大体落ち着いた色をしているのに、
リオナの分だけ真っ黄色で、さらに可愛らしく花が散りばめられている。

マーシャも近寄ってリオナの分の着物をまじまじと見るが、答えはすぐに出た。

「なんだよ、これ女物じゃん。」

『お、女物!?おかしいな、俺ちゃんと男4人だって言ったのに!写真だって提出したのに!』

「あはは、リオナのやつ女だと勘違いされたんじゃね?」

当の本人は、まだ夢の中だが。

『俺、取り替えてきますね!』

そう言って勢いよく駆け出していったシュナだが、
数分もたたないうちにトボトボと引き返してきた。

手には変わらず女物の着物をぶら下げて。

『あの、リオナを女と勘違いしたわけではなく、男性用の着物が無かったので・・・・これらしいです。』

あからさまに落ち込んでいるシュナを、
マーシャは内心大爆笑しながら慰める。

「まぁまぁ、お前は悪くない。リオナの奴も運が悪いな。ぶはっ」

『マーシャ・・・笑うんじゃない。お前に着せるぞ。』

「やだ。」

これは身長的に、着るならリオナかシュナだ。

さすがに成人男性にはキツイ。

『あ・・・あの、俺がコレ着るので、リオナには男性用を・・・・』

責任を感じたのか、
シュナは自ら名乗り出た。

しかし、なぜかそれをシキが全力で止めだした。

『シュナはダメだ!』

『え・・・だ、大丈夫ですよ、シキさん!俺、あんまり気にならないんで!』

『そうじゃない。シュナが着たら本当に女の子だと勘違いされて誘拐されてしまうだろ!?・・・・リオナには悪いが、リオナに着てもらいなさい。』

シキは一体何を考えているのか。

シュナは困り果て、
どうしたものかと考えていると、
マーシャも参入してきてさらにややこしい事になった。

「おいおいおいおーい。なんでそうなるんだよ。リオナなんかが着たらそれこそ暴漢に襲われちまうだろ。」

『リオナなら大丈夫だろ?強いんだから誘拐されても問題ない。』

「てめぇ、何のために俺たちについてきたんだよ。観光じゃねぇぞ。護衛をしろって言ってんだ。」

『わかってる。だがこれとそれとは話が別だ。』

「別じゃねぇよ一緒だよ!」

『・・・・考えてみろマーシャ。リオナが女物の着物を着るんだぞ。見てみたくないのか?』

「わかった。これはリオナに着せよう。」

シキの些細な一言で、
あっという間にマーシャと商談が成立してしまった。

なんとも後味の悪い展開に、
シュナだけが肩を落としていた。












「・・・・で、なんで俺だけこんな派手なのかな。」

「うん、うん、可愛いよリオナ。」

「・・・全ッ・・・・・・・・然嬉しくないんだけど。」

審査場から町に出たころには
すでに夜の10時を回っていた。

ここの国は"夜町"という
男や女が戯れるための町があるため、
そこだけはまだまだ明るいようだ。

建物は他の国にはないサムライカウンティー特有の平屋の瓦屋根が立ち並んでいる。

マーシャ達はとりあえず腹ごしらえをすべく、夜町を散策していた。

だが、ここはあくまで夜町のため、ただの飯屋など無い。

必ず男か女かが接待としてついてくるのだ。

そんな所で食事など・・・・とシキはごちゃごちゃ言い出したが、
24時間以上何も食べていないため、
さすがにここは折れたようだ。

そんな夜町を歩く一行だが、
その気がなくともやはり客引きの女たちに何度も捕まってしまう。

女たちも金を稼ぐのに必死なのだろう。

マーシャはこういった類の女たちに慣れているのか、
サラッと流してどんどん先へ進んでゆく。

そんなマーシャを見て、
シュナは『カッコいい・・・!』と目を輝かせていたが、
シキにすぐに止められていた。

そんな中、
約一名、明らかに空気の違う者がいた。

リオナだ。

今までに見たことが無いくらい、とても機嫌が悪い。

原因はもちろん、この女物の着物・・・・だけではなく、

マーシャの女たちへの手慣れた態度にも腹を立てているようで。

タイミング悪く、怒りが増幅したようだ。

『リ・・リオナ、あの、やっぱ俺と交換し』
「・・・・いい。シュナは黙ってて。」

どうやら怒りの矛先は全てマーシャに向いているようだ。

マーシャの背中を穴が空くくらい睨みつけている。

当のマーシャはそれを愛の視線と勘違いしているようだが。

「なぁにリオナ。むくれちゃって。」

「・・・・うっさい変態。ボケ。視界に入るなボサボサ頭。」

「な、リオナくんマジギレじゃん。やだ怒らないでよ。」

「・・・・黙れ」

これでもリオナは怒りを抑えている方らしい。マーシャ曰く。

マーシャは慣れているのかヘラヘラしているが、
リオナの怒りにあまり触れたことがないシキとシュナは、若干恐怖を抱いた。

いつリオナの怒りが爆発してもおかしくない。

怒りが爆発する前に、リオナに男物の着物を与えなければ。

だからこれ以上リオナに話しかけるなと、マーシャを規制した、その時だった。

1人の男が近寄ってきて、
リオナの腕を掴んできたのだ。

そのまま男はリオナを引き寄せ、
まじまじと見て言った。

「なぁお嬢ちゃん。可愛い顔してるね。お金あげるからさ、今からいいことしない?」

そんな男の行動に、マーシャは勢い良く詰め寄る。

「おいてめぇリオナに触んじゃねぇよ。リオナは俺のなん・・・・ぎゃぁぁぁ」

その瞬間、
リオナの中の何かが弾け飛んだ。

リオナを助けようと真っ先に駆け寄ったマーシャが、なぜかリオナに思い切り突き飛ばされてしまったのだ。

当のリオナは無表情のまま、
目の前の男を見つめている。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「・・・・誰が、お嬢ちゃんだって?」

一瞬にして空気が凍りついた。

ヤバイ。

怒りの矛先がマーシャから完全に男に向いてしまった。

「・・・・俺は・・俺は・・・・男だぁぁぁー!!!」

そう言って男に殴りかかりそうになったリオナをシュナとシキが全力で止めた。

「・・・・なんなら触って確かめるか?ぇえ?!」

『リオナやめなさい・・・!』

完全にリオナにビビってしまった男は一目散に逃げて行ってしまい、周りの客引き達も明らかに引いた様子で近づいて来る者はいなくなった。

女物を着ていても、
誰よりも男前・・・・いや男勝りなリオナには誰も敵わない。

シキは『こんなことになるならシュナに着せれば良かった』と後悔していたという。

「・・・・あー、スッキリした。」

一方、危うく大惨事を招きそうになった張本人リオナは、
怒りを発散したお陰で、いつもの落ち着きを取り戻していた。

「・・・マーシャ、そんなとこで寝てないで早くいこ。俺お腹すいた。」

「あれれ、おかしいな。この状況を招いたのはリオナでしょ。」

「・・・・また怒らせたいの」

「嘘だよ。大好き。早く行きましょう。」

究極のマイペースな2人に、本当について来て良かったのかとシキとシュナは深いため息をついた。

『ったく・・・・お前らと任務に行くといつも面倒なことに巻き込まれるから嫌なんだよ。』

『どうしましょうか。皆怖がって引っ込んじゃいましたけど。』

『・・・仕方が無い。夕飯は諦めて宿を探そう。』

「えー!俺腹減った。」

地面で転がったまま、マーシャは駄々をこねる。

まさにガキだ。

『仕方ないだろ。リオナ、お前の責任でもあるんだからちゃんとマーシャを連れてきなさい。』

「・・・・はいはい」

『はいは1回!!』

「・・・・はい」

リオナも少しは反省したのか、
黙ってシキに従った。
マーシャを連れるというか無理矢理引きずってはいるが。

しばらく歩いて行くと、
夜町を抜けて民家が立ち並ぶ道沿いにきてしまった。

宿屋は無いのか。

下手したら野宿かもしれない。

シキは今日何度目かの深いため息をついた。

その時、
ある民家の窓から
真っ白な手が伸びて出てきた。

こちらに向かって手招きをしている。

「・・・シキ、何だろうあれ。」

リオナが警戒するように武器であるトランプを一枚取り出した。

『・・・まだ攻撃はするなよ。俺が見てくる。ここにいなさい。』

そう言ってシキは窓に近寄った。

木の格子の隙間を覗いてみると、
1人の女がいた。

着物を着崩し、今にも胸がこぼれ落ちそうな身なりにシキは思わず目を逸らしたくなった。

部屋の照明も蝋燭一本のみのせいか、
どこか怪しげな空気が漂っている。

「新参者かい?珍しいね。」

女はシキの顔をまじまじ見ると、
ニヤリと笑みをこぼした。

「・・・夜は物騒だよ。この裏に扉がある。そこからお入り。」

『いや、その・・・いいんですか。』

「早くおし。あんたらの噂は広まってるよ。変な輩に捕まる前に早くお入り。」

噂・・・・?

それはさっきのリオナの件か?

でもあれだけで捕まるわけがない。

シキは悩みに悩んだが、
とりあえず今は何らかの事情を知っているこの女の厚意に甘えるしかないと判断した。

『みんな、この家の女性が俺たちを入れてくれるようだ。どうやら俺たちの噂が流れているらしい。何の噂かは知らんが、彼女は事情を知ってそうだ。』

すると今まで引きずられていたマーシャが立ち上がり、
リオナに後ろから抱きつきながら顔を出してきた。

「女なんて信用できねぇぞ。もしかしたら罠かもしんねーじゃん。」

確かに、マーシャの言ってることは一理ある。

だが、今この国で信用できるものなんてないんだ。

「・・・ねぇ、行ってみようよ。」

その時、
リオナが真後ろにいるマーシャに言った。

「・・・もし罠だったら、俺がなんとかする。」

今日のリオナはなんだか男勝りだ。

きっと、マーシャを守りたいという意志が高まってるのだろう。

これが「狂気」に繋がらなければいいのだが。

「リオナ君かっこいい。しゃーないなぁ。リオナが言うなら。」

マーシャもマーシャだな・・・・リオナの言うことは何でも聞いてしまうなんて。

少し呆れながらも、
マーシャらしいなと小さく笑った。

『じゃあ、行きますか!俺が前行きます!』

『・・シュナはダメだ。危ないから下がってなさい。』

「えー・・・」

シュナには悪いが、
さすがにこれは任せられない。

シキは苦笑を浮かべ、
シュナの頭を撫でる。

『なにかあったら、一緒に頼むよ。』

『は、はいっ!!』

4人は裏の扉へ向かった。

何もない事を祈りながら、
扉を開く。



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